閉ざされた森(2003年アメリカ)

Basic

パナマの密林で、特殊訓練を行っていたレンジャー部隊が行方不明となり、
捜索隊が隊員同士で激しい銃撃戦を行っている事実を確認し、負傷した兵士を救出するという事件について
元レンジャー部隊の麻薬捜査官と、女性大尉が数々の証言を取りながら真相に迫る姿を描いたサスペンス映画。

主演は売れに売れた90年代の勢いに、陰りが見え始めていた頃のジョン・トラボルタで、
彼の相手役として、00年の『グラディエーター』で一気に注目を集めたコニー・ニールセンを配役している。

正直言って、これがジョン・マクティアナンの監督作品だと思うと、かなり寂しい出来ではある。
個人的にはジョン・マクティアナンの復調を願っていたので、本作を初めて観たときの落胆は忘れられない。
それでも複数回観てみると、まずまず楽しめるポイントがあることに気づかされはしたのだけれども、
根本的にサスペンス映画でありながらも、ドキドキ・ワクワクさせられる感じの映画ではないところが残念。

元は『ダイ・ハード』、『レッド・オクトーバーを追え!』を撮ったディレクターであって、
もっともっと出来る人。優れたアクション映画を撮れる力量があるはずだし、サスペンスも撮れるはず。
残念なことに本作を発表した後に、FBIに偽証罪に問われたらしく、刑務所暮らしをしていたらしい。
これで完全にハリウッドのプロダクションからも干されてしまいましたね。まだまだ若かったのに、なんだか勿体ない。

とは言っても、本作の時点で低迷していることは否めないのですが、
レンジャー部隊の真相など、キャストたちが次々とどこか怪しい雰囲気を出して演じているので、
映画の途中からどれも怪しく見えてくるトリッキーさもあって、ジョン・マクティアナンがやりたかったことはよく分かる。

ただ、彼の力からすれば、もっと大胆に面白い映画には出来ただろうし、何よりスリルが希薄である。

映画はほぼハリウッド版『羅生門』と言っていい内容なのですが、
映画の序盤から伏線を張り巡らせている感じで、如何にも映画の終盤で回収しまよって感じなのがチープに見える。
個人的にはもっとこういうのはさり気なくやって欲しいし、だいたい主演のジョン・トラボルタも怪し過ぎますよね(笑)。

映画の前半は行方不明になったサミュエル・L・ジャクソン演じるウエスト軍曹のシゴきが際立っていて、
兵士たちがそれぞれに様々なストレスを抱えていて、その証言内容が食い違っている面白さを描くのですが、
そこに怪し過ぎるジョン・トラボルタが事件の捜査担当として絡んでくるので、如何にもドンデン返しがありそうな雰囲気。

後に『ニュースの真相』を監督することになるジェームズ・ヴァンダービルトが本作のシナリオを書いており、
20代でこの規模の映画の脚本として採用されたというのは、実に凄いことだと思う。製作にも加わりましたし。
実家が社会的に知名度が高く、裕福な家庭ではあるようで、ヴァンダービルト家は古くからの名家なのですが、
さすがに映画の脚本となると、相応の実力がないと権利を売ることはできませんからね。実力も評価されてのことです。

おそらく、ジェームズ・ヴァンダービルトはこの映画の脚本の執筆にあたって、
『羅生門』は勿論のこと、『藪の中』も参考にしたと思う。結構、日本文学に影響を受けたのではないだろうか?
当事者が個々それぞれの視点で異なる証言をするのは『羅生門』ですが、映画の全体像としては『藪の中』っぽい。
日本文学に造詣が深い方ならまだしも、こういう微妙に食い違う証言から、真実がボヤける面白さというのが
欧米の方々には新鮮に映ったのかもしれません。そんなストーリーをハリウッド流にアレンジしたかったのでしょうね。

とは言え、あまりにストレートに脚本を映像化し過ぎたのか、よく分かりませんが...
もっと自然に描いて欲しい。その方がこの映画のラストのドンデン返しは映えただろうし、違和感を生まなかった。

コニー・ニールセン演じる女性大尉の直感もスゴいというのは分かりますが、
いくらジョン・トラボルタが序盤から怪し過ぎたとは言え、それまではちっとも疑問に思ってなかったのに、
逆にチョットした一言だけに直感的に怪しむというのは、無理があると思った。でも、これがないと映画が成立しない。
となると、やっぱりこの映画はラストのドンデン返しを描きたいがための映画だったのかな?と思えてならない。

僕はそれじゃあダメだと思うんですよね。そのドンデン返しを見せるがために描いたものだから、
映画の終盤で急激に力技で伏線を回収し始めるので、一つ一つ弁証しながら真相を暴こうとする、
それまでの映画のスタンスと比較すると、あまりに豹変してしまう感じで、突然バランスを失った印象がありましたね。

この辺はジョン・マクティアナンの責任が大きいと思うのですが、もっと映画全体のバランスを考えて欲しいし、
ラストのドンデン返しもこれ見よがしに描くのではなく、もっと自然に描いて欲しい。その方が、映画はずっと良くなる。

こういう言い方は本作が好きな人には悪いのですが...
この出来の映画でジョン・トラボルタとサミュエル・L・ジャクソンの共演とは、勿体なかったなぁ。。。
直接的な共演シーンは少ない作品なのですが、もっとガップリ四つになった共演を観たかったなぁ。。。

この映画の最大のネックは、登場人物が覚えづらいことでしょう。
特に行方不明になった兵士たちは一方的に名前が行き交う中で、兵士たちも軍服姿&ヘルメットなので
正直、誰が誰だか全体像を把握するのに、結構、時間がかかる。これを把握しないと、映画が理解できないです。

どうせ、映画の尺が短いので、もっと一人ひとりにスポットライトを当てて、
各兵士の素性について、しっかりと観客に説明しておいた方が映画としては親切なのですが、本作にはそれがない。

サミュエル・L・ジャクソン演じるウエスト軍曹は、かつてならこれくらいのスゴきは普通のことだったのだろうが、
コンプライアンスの時代である現代では、彼のやり方はアウトでしょうね。ウエストの部隊ならば、兵士たちに
強烈なストレスがかかって精神に異常をきたしたり、反乱を画策する兵士が生まれて、殺し合いに発展するという
“事件”に至る理由はなんとなく分かります。本作はそんなウエストの部隊の過酷さを、逆手にとっているわけですが。

せっかくジョン・マクティアナンの監督作品なんで、もう少しアクション描写はあっても良かったかなぁ。
映画の中盤で行方不明になった兵士たちに関する真相を描く証言するシーンで、お互いに殺し合いに発展する
シーンがあって、ウエストがアジトを嗅ぎつけるシーンもあったので、ここはもっとアクションを見せて欲しかった。

最後のドンデン返しの連続になると、悪い意味で映画がドタバタしだすので、ここはジックリ見せて欲しかったなぁ。

映画の原題は「本能」を意味するらしいのですが、このタイトルになった真意がよく分からなかった。
ウエスト軍曹の部隊が行方不明になり、パナマの密林から救助されたのは僅か2名の兵士で、
証言によるとウエスト軍曹も殺害されたという。しかし、細部は個々の証言は矛盾する点も多く、真相解明ができない。
映画の中では、「殺しは本能的なもの」みたいな台詞があるので、そこから取ったのかもしれませんが、
確かに密林で攻防を展開する殺し合いは、直感的かつ本能的なものを働かせなければならない状況には見える。

とは言え、この映画の主題ではないような気もするので、もっと他に良いタイトルがあった気がしますね。
この辺もジョン・マクティアナン含めて、映画の作り手がどう考えていたのかも、少し気になるところ。
(確かにこの原題では観客には伝わらないので、かなり大胆な邦題をつけたのかもしれませんね)

やっぱりドンデン返しが目的化している映画は、観ていてツラい。
僕の個人的な嗜好の問題もあって、元々好きではないということもあるのですが、
「この内容なら、シナリオを読んでいた方が面白そうだな」と思えちゃって、映画にする醍醐味を表現して欲しいと思う。

なんか、作り手たちが映画の本質を見失っているような気がするんですよね。
映像として具現化する目的を達成するという意味では、やはり本作はアクション描写が欲しかった。

それはジョン・マクティアナンの得意分野であっただけに、おそらくここまで本格的なサスペンス映画は
初めてだっただけに、当初から本作の中で大々的にアクションを描くつもりはなかったのでしょうけど、
僕はむしろ、本作に彼の得意とする気骨溢れるアクション描写が必要だったのではないかと思うのですよね。

きっと本作は、そんなエキサイティングさがあればガラッと印象が変わっていたと思います。

(上映時間98分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジョン・マクティアナン
製作 マイク・メダヴォイ
   アーニー・メッサー
   マイケル・タドロス
   ジェームズ・ヴァンダービルト
脚本 ジェームズ・ヴァンダービルト
撮影 スティーブ・メイソン
編集 ジョージ・フォルシーJr
音楽 クラウス・バデルト
出演 ジョン・トラボルタ
   コニー・ニールセン
   サミュエル・L・ジャクソン
   ジョヴァンニ・リビシ
   ブライアン・ヴァン・ホルト
   テイ・ディグス
   ティム・デイリー
   クリスチャン・デ・ラ・フエンテ
   ダッシュ・ミホク
   ロゼリン・サンチェス
   ハリー・コニックJr