バーフライ(1987年アメリカ)

Barfly

これはどこが良いとは言いづらいタイプの映画なんだけど、
映画の雰囲気を含めて、なんとなく好きな映画としか言えない作品なんだなぁ。

まぁ最後の最後まで汚らしい(笑)、ミッキー・ロークとフェイ・ダナウェーも魂をかけた熱演と言っていい。

まぁミッキー・ロークはお世辞にも良い男とは言えず、
もはやセクシーさの欠片も見当たらない、徹底して汚い汗も血もそのままな野獣状態。
シャツなど下着は着替えず、朝から晩まで酔っ払い通しで、風呂も入らず、歯も磨かない。
ビールをやたらと飲むせいか、おそらくゲップ連発で周囲1mぐらいは臭そうだ(笑)。

すぐに周囲の人々にケンカをふっかけては、大半のケンカではボコボコにされてしまう。
そんな自暴自棄になったかのような主人公を演じるミッキー・ロークですが、
文才だけは長けているという能力があり、これは脚本のチャールズ・ブコウスキーを重ねているようだ。

この映画は具体的に何処が良いとは言い難い内容なのですが、
敢えて言うとしたら、映画全体が持つ雰囲気が良い。分かりにくいけど、そうしか言いようがないのです。

ミッキー・ローク演じるヘンリーは顔馴染みのバーに入り浸っては、
毎日泥酔状態になり、他の客やバーテンにケンカをふっかけるというトラブルメーカーだが、
バーの他の客も、バーの経営者もヘンリーを「また、ケンカを“売る”んだろ?」って目で見てます。
でも、それは決して軽蔑の目線ではなく、あくまでヘンリーに愛着を持った目線なんですよね。
現実にこんな男が近くにいたら、傍迷惑なだけなことは認めますが、どうしようもない男であるにも関わらず、
ヘンリーに対して、ある種の愛情を持って周囲の人々が見ているという空気が、僕はたまらなく好きなんですね。

監督は92年に『ルームメイト』を撮って少しだけ話題となった(笑)、
バーベット・シュローダーで、90年にも『運命の逆転』を撮っており、ハリウッドでもどことなく変わった存在だ(笑)。

にしても、僕はこの映画はひじょうに良く出来ていると思う。
前述したミッキー・ロークの役作りの良さは言うまでもなく、ヒロインを演じたフェイ・ダナウェーも素晴らしい。
特に映画の中盤で入浴シーンを演じるなど、随分と露出度が高いのですが、途中で見せる美脚は忘がたい。
彼女も撮影当時、40代半ばを迎えておりましたが、そのスタイルの良さは相変わらず健在で嬉しい。

何が言いたいかというと、この映画はキャスティングによる効果がひじょうに大きいということ。
繰り返しになりますが...やはりこういう映画に出会うたびに、キャスティングの重要性を再認識させられますね。

社会からのハミ出し者である男女の恋愛を描いた作品なのですが、
2人は特に大きな理由や出来事があるわけでもないけれども、いつしか恋に落ちますが、
一緒に行動するようになっても、2人の生活は大きく改善されるわけでもなく、朝から酒を飲みまくります。
お互いに寄りかかりながら生活していくのですが、この映画はそんな2人の姿を決して否定しません。

まぁチャールズ・ブコウスキーがこういう恋愛にある種のロマンを感じて、
愛着を持って描いていたのでしょうが、社会とは決別して、明確にアウトローとして生きる2人の恋愛を、
真正面からありのまま描き、尚且つ、否定せずに描ききるなんて、ある意味で本作は唯一無二の存在かも。

確かに一般的な目線に立てば、お世辞にも美しい恋愛とは言えないかもしれない。
ロマンチックな雰囲気など皆無で、「分かっちゃいるけど、やめられない」と言わんばかりに、
酒を浴びるように飲みまくり、毎日のように泥酔状態になり、生活習慣を改めようとする姿勢も出てこない。
しかし、それでもこの映画はそんなダメ人間の烙印を押されたかのような2人の男女の恋愛を実に鮮明に描く。
決して美化することなく、時に感情をむき出しにぶつかる2人の姿にも、目を背けずにしっかりと描きます。

その作り手の姿勢が顕著になっているのは、フェイ・ダナウェー演じるワンダが
長時間外出し、夜中に帰宅したヘンリーが香水の匂いをプンプンさせていたことに腹を立て、
浮気を疑うワンダが怒り始めるシーンと、やはりヘンリーがワンダが酒を融通してもらうためなら、
どんな男と一夜を共にしても構わないとすることを咎めるシーンであり、この2つのシーンからは、
まるで身の回りのことなど気にしないかのような振舞いをするヘンリーとワンダであるにも関わらず、
お互いの男女関係には、激しく嫉妬心をぶつけ合う姿を通して、2人の情念の強さを感じさせられますね。

ロサンゼルスの夜の街の表情を映したロビー・ミュラーのカメラも素晴らしいですね。
特に冒頭のロサンゼルスの歓楽街の空気を、吹き込んだ後に、ヘンリーがいつも入り浸るバーの入口の
ショットに移っていくカメラは抜群の統一感で、僕の中ではあれでこの映画のイメージが決定付けられましたね。

僕は原作がどうなっているのかまでは確認できていないので、
原作との比較はできませんが、おそらくこの手の企画の場合は、原作と比較すると楽しめないでしょう。
賛否は分かれるとは思うが、チャールズ・ブコウスキーのようなマニアなファンを抱えている小説家の場合は、
原作は原作、映画は映画と、それぞれ全く別物として考えた方が、映画もずっと楽しめるだろうと思います。

事実、生前のチャールズ・ブコウスキーは本作の主人公、ヘンリーと同様に
映画は大嫌いだったそうで、当初、本作の映画化と脚本の執筆を依頼された際は、猛反対したそうだ。

しかし、作り手の熱意に押されて映画化が実現したそうなのですが、
チャールズ・ブコウスキーの熱心なファンは、やはり本作の出来を否定的に捉えたそうで、
主人公を演じたミッキー・ロークもチャールズ・ブコウスキーの世界に浸り切れていないと非難したとか。
(しかしながら、DVDの特典映像では生前のチャールズ・ブコウスキーはミッキー・ロークを褒めている)

おそらく当初は、映画化の企画に反対だったけれども、
チャールズ・ブコウスキーは彼なりに映画化のプロセスを楽しみ、だからこそチョイ役で出演までしたのでしょうね。
そう、タイトルの“バーフライ”が示す、バーの常連客としてチャールズ・ブコウスキーは少しだけ出演しています。

前述した通り、お互いに寄かかり合いながらしか生きられない、
お世辞にも健全とは言えない男女の恋愛のありのままの姿を、ストレートに描いていますので、
本作の魅力の大きな部分は、映画が持つ雰囲気でできていると言っても過言ではありません。
従って、本作の雰囲気に魅力を感じない人には、まるで楽しめない作品となってしまうでしょう。

この映画の「ここがいい!」とまで、ハッキリとは断言できないのですが、
僕の正直な感想としては、「なんとなく好きな映画」としか答えようがありません(笑)。

まぁ・・・万人ウケするとは言えませんが、ダラダラした生活が好きな人にはオススメな作品かな(笑)。

(上映時間99分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 バーベット・シュローダー
製作 バーベット・シュローダー
    フレッド・ルース
脚本 チャールズ・ブコウスキー
撮影 ロビー・ミューラー
出演 ミッキー・ローク
    フェイ・ダナウェー
    フランク・スタローン
    J・C・クイン
    アリス・クリーグ
    ローラ・ダーン