バンディッツ(2001年アメリカ)

Bandits

気の短い囚人と、彼と何故か友人関係であるやたらと神経質でマジメな囚人。
この2人がひょんなことから脱獄し、窮地の仲間と合流して、日常生活に疲れ果てた主婦と出会い、
合計4人で“お泊り強盗”という異名をとる、大胆不敵な手法で銀行強盗を繰り返すアクション・コメディ。

監督は『レインマン』や『バグジー』で知られるバリー・レビンソンで、いろんなジャンルの映画を撮れる人だ。

主演3人のキャストは当時としても超豪華な感じで、ブルース・ウィリス、ビリー・ボブ・ソーントン、
ケイト・ブランシェットの3人が三角関係になりながらも、絶妙な人間関係を表現するというのがリッチな映画だ。

結論的には及第点レヴェルの映画ではあると思うけど、あんまり過度な期待をして観ない方がいい(苦笑)。
決してつまらないわけではないのですが、やたらとラストの強盗シーンを見せて、フラッシュ・バックするように
それまでのエピソードを挿し込んでくる構成が少々ウザったくて、もっとストレートかつシンプルに描いた方が良かった。
コミカルにドンドンと話しを進めていく軽快さは良かっただけに、このストーリーテリングは逆に足を引っ張った気がする。

それから、ケイト・ブランシェット演じる主人公2人の強盗に同行する主婦ケイトは、
もう少し良く描いて欲しかったなぁ。厚化粧でケバケバしく役作りした感じで、気の利かない旦那との日々に
飽き飽きしているのは分かるけど、それにしても印象があまり良くない。もっと平凡な主婦として描いて欲しかった。

全く性格が異なる強盗2人組という発想は面白いし、特にビリー・ボブ・ソーントン演じる神経質なテリーは
キャラが“立っている”感じでユニークで印象深い。気の強いブルース・ウィリス演じるジョーと対照的な存在ですが、
どこかドジで憎めないテリーがいたおかげで、映画のどこかユル〜い感じとコミカルさが磨かれたという気がする。

この辺はどこまでバリー・レビンソンが狙って撮っていたのかは僕にはよく分からないけど、
僕にはスタイリッシュな映画というよりも、良くも悪くもユルい映画という位置づけで、これはこれでフィットしていると思う。

ただね・・・長いんですね、映画が。この内容でエンド・クレジット含めて、2時間を少し越えてしまうのは・・・。
映画のテンポも悪くはないけど、余計なエピソードが多過ぎたと思う。もう少し内容的に編集段階で精査すべき。
あれもこれも詰め込んだというより、不要なエピソード自体がカットされなかったという印象で、中盤が長く感じられる。

この映画で描かれる“お泊り強盗”というのも、特徴的なニュアンスで描かれてはいますけど、
言ってしまえば、前日の晩から身柄を拘束して、営業時間前にお金を頂いてしまうという、ある意味で確実な手法で
無用な怪我人を出さないということなのかもしれないが、これはこれでスゴ〜くリスクが高いような気がしますね。
特にマスコミ報道などで、彼らの“お泊り強盗”の手口で知れ渡っても尚、強盗を続けるあたりがなんだか無警戒。

そう、こういう強盗犯って凄く警戒心が強かったりしないと、何度も成功させることは不可能だと思いますね。
ただただ勢いで突っ走ると、強盗として“危険な雰囲気”を読むことができずに強行し、自滅しそうなものですしね。
最近でこそ、セキュリティもしっかりしてきていて、日本では銀行強盗自体が少なくなったような気もしますけど、
その代わりのコンビニ強盗が、相変わらず散見されてますからね。さすがにコンビニに“お泊り強盗”はないだろうけど。

まぁ、この“お泊り強盗”のエピソードは不要なエピソードは割愛すれば良いし、
主婦ケイトの苦悩ももっとサクサク描いても良かったと思う。映画の緩急を付けた方がいいけど、
本作の場合は、あまり掘り下げ過ぎずに程々にして描いた方が、全体のどこかユルいペースに合っていると思う。

キチキチっとしちゃうと、映画のカラーと合わなくなってしまう。この辺はバリー・レビンソンが舵取りすべきところ。
そういう意味では、最後のドンデン返しはトントン拍子に進むのですが、この適度ないい加減さは悪くないですね。
終わり良ければ全て良し、とも言うことはできなくはないのですが、中盤が長々としてしまって勿体ないですね。

映画の冒頭から、やたらとメディアが“お泊り強盗”にドキュメントしている感を全面に出すのですが、
これも僕には意図がよく分からなかったなぁ。この時期の映画って、こういう手法が流行ったような気もしますが、
別に本作はマスメディアを皮肉ったような部分もなくって、なんでワザワザこういうアピローチをしたのかが不明瞭。
そもそも脱獄囚なんだから、あんなに悠長にはメディアに向けて情報発信できないだろうし、狙いがよく分からない。
なんでもキチキチとしなくてもいいけど、こういう意図や狙いがよく分からない演出は逆効果でしかないと思えてしまう。

劇場公開当時、本作のことをアメリカン・ニューシネマをモチーフにしたコメディと称した評を読みましたが、
それはあくまで無謀にも銀行強盗に行く、という当初の設定だけがニューシネマっぽいというだけであって、
ハッキリ言って、それ以外の共通点はないと思う。バリー・レビンソンもそんなつもりは無かったのではないだろうか?

一応、ラストにドンデン返しがあると前述はしましたが、アッ!と驚くほどのものではないし、
衝撃的なラストというほどでもありません。何か強く訴求するものがあるわけでもなく、コミカルに映画が終わる。
ニューシネマなテイストというよりも、どちらかと言えば、古き良き時代の娯楽映画に近い感覚のような気がします。

欲を言えば、ブルース・ウィリスが主演なんで、少しはアクション・シーンが欲しかったなぁ。
最大の見せ場が映画の序盤にあった、トラック乗って脱獄するシーンくらいなもので、なんだか寂しいところ。

せっかくビリー・ボブ・ソーントンとの凸凹コンビぶりが面白かっただけに、
もう少しアクティヴな見せ場があっても良かったなぁ。ましてや強盗犯を描いた映画であるわけなのでね・・・。
コミカルな映画なんで難しいところだけど、強盗に入るシーンにほぼスリルを感じないというのは致命的だったと思う。
せめてもう少しは、大きなピンチを描いたり、不測のトラブルを描いたりと、ジョーとテリーのピンチを描いて欲しかった。

この映画にはもう少し緩急が必要で、特に緊迫した演出はあった方がメリハリが付いて良くなったでしょう。
全体に軽くなり過ぎる傾向があって、コメディ映画だから仕方ないにしろ、緊迫した場面はしっかり描いて、
少しだけコミカルなアクセントを付けるだけで十分だったはず。それなのに、ずっと弛緩し切った感じなので、
どうにも映画全体が引き締まらず、悪い意味で緩急が無い。コメディはテリーの存在だけで十分だったと思う。

そのせいか、テリーを演じたビリー・ボブ・ソーントンも持病が発症して脱力してしまう姿を
熱演していたりするのですが、少々狙い過ぎな感じになってしまうこともあり、それまで本作のコミカルな部分を
支え続けて頑張っていただけに、映画の終盤で空回ってしまったように見えたのは残念。これは作り手の責任だと思う。

バリー・レビンソンも器用なディレクターなので、いろんなジャンルの映画を撮れるのですが、
本作はどこか事務的に撮っているように見えなくもなくって、もう少し工夫して撮って欲しかったなぁ・・・。
せっかくの良いキャスティングができたのだから、彼らをもっと光り輝かせるように磨き上げて欲しかったが、
そんな感じでもなく、「こうなったら面白いんじゃない?」くらいのノリで軽〜く撮っているかのようで、なんだか微妙。

それはそれで本作の持ち味なのだろうと前向きに捉えてはいるのですが、
それでいて、“締めるところは締める”という感じでもなくので、どうしても空回りしているように見える部分がある。

劇場公開当時はそこまでではないにしろ、ケイト・ブランシェットは当時注目されつつある演技派女優だったし、
『アルマゲドン』に続いて2回目のブルース・ウィリスとビリー・ボブ・ソーントンの共演で、今回は凸凹な強盗コンビを
演じるとなれば、そりゃ映画ファンは楽しみだったわけで、本作は当時、日本でも映画館で拡大上映されていました。
まぁ、内容も内容だっただけに、日本ではそこまでヒットしなかったけれども、注目度は高かった記憶があります。

かくいう自分も、実は本作を劇場公開前の試写会で観ていたのですが、
さすがは試写会は大入り超満員だった記憶があります。ところで、最近は試写会も少なくなりましたが。。。

その後、僕は本作を2・3回観ていますが、正直言って、映画の印象は初見時とそう変わりありません。
映画に緩急をつけることと、あまり重要ではない無駄な部分を削ぎ落して、2時間以内に収まる映画に
なっていれば、もう少し印象も変わったのでしょうけど、中途半端でユル〜い感じを持ち味に出来ていませんね。

この辺の決定打に欠けるところが、失礼ながらもバリー・レビンソンらしいと言えば、それはそうなのですが、
いずれにしても、プロダクションの期待は大きな企画だったはずなので、この出来は少々勿体ない気がします。

あまり深いことを考えずに、夜中に何かボーッと観る分には良い映画かもしれませんが、
ブルース・ウィリスらしい活躍を求めたり、ケイト・ブランシェットの表現力を求めてしまっては、物足りないと思います。
そう考えると、本作ってスゴい贅沢な企画でしたね。それなら、もっと主要キャストの魅力を引き出して欲しかった・・・。

(上映時間122分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 バリー・レビンソン
製作 アショク・アムリトラジ
   ミシェル・バーク
   マイケル・バーンバウム
   デビッド・ホバーマン
   バリー・レビンソン
   アーノルド・リフキン
   ポーラ・ワインスタイン
脚本 ハーリー・ペイトン
撮影 ダンテ・スピノッティ
音楽 クリストファー・ヤング
出演 ブルース・ウィリス
   ビリー・ボブ・ソーントン
   ケイト・ブランシェット
   トロイ・ギャリティ
   ブライアン・F・オバーン
   ステイシー・トラビス