夕陽の群盗(1972年アメリカ)
Bad Company
ロバート・ベントンの監督作品って、どこか決め手に欠ける作品が多いなぁという印象なんだけど、
本作は彼が脚本を書いた『俺たちに明日はない』のような、ニューシネマ・テイストを感じさせる良質な西部劇だ。
映画は南北戦争末期の時期に、北軍の徴兵逃れをして強盗などの悪事を働きながら、
仲間同士で集まって群れる若者たちの姿を描いており、どこか乾いた感覚のあり、やや悲壮感すら漂う物悲しさがある。
結局は戦争に身を投じるなどという発想はなく、それでいて生きていくためにと強盗を繰り返す。
でも、中心人物の一人であるディクソンは悪い仲間と行動を共にして、強がったことを言いながらも、
実は強盗を働くなんて悪事に手を染めることは躊躇する真面目な青年で、彼は幾度となくジェフ・ブリッジス演じる
ラムジーと事ある毎に対立したりケンカしたりしますが、次第に硬い友情で結ばれていくという不思議な関係性だ。
日本で言うところの、「ケンカするほど仲が良い」という標語と近いものがありますけど、
ディクソンとラムジーは正にそれに近いものがあるようなものがあるけど、育ちそのものが明らかに違うと感じた
ラムジーはディクソンのことを最初っから信じてはいなかったでしょうし、仲間に入れることに積極的ではない様子だ。
しかし、次第に衝突しながらもお互いに距離を縮めていく様子が、なんとも良い。まるで青春映画のようだ。
ロバート・ベントンは『俺たちに明日はない』で犯罪を繰り返しながら逃げるカップルを描いていましたが、
本作はその同性の友情を基本としたコンセプトであり、僕の中では『スタンド・バイ・ミー』に近い感覚の作品でした。
ただ、それでいて押しつけがましさを感じる友情ではないところが良くって、ゆっくりと距離を縮める感じが良いですね。
それでもラムジーの性格もあってか、彼がリーダーとなる盗賊の結束力はそこまで強いとは言えない。
チョットしたことでお互いを罵り合うこともあるし、挙句の果てには仲間割れから、相手に銃を突き付ける関係になる。
これって、真の意味で仲間とは言えないだろうと思えるのですが、彼らも生きるために必死というわけなんですね。
もっとも、同じような勢力と言える、ビッグ・ジョー率いる一味に装飾品なら持ち物を強奪されて、失望したのもあるけど。
本作はオールド・スタイルの西部劇と、アメリカン・ニューシネマのアプローチを融合した、
通称“アシッド・ウエスタン”というらしいのですが、この頃は『大いなる勇者』などこの手の映画が数多くありました。
まぁ、徴兵を逃れるために強盗を繰り返すというのは極論に聞こえるかもしれませんが、
この映画で描かれる時代は、社会的にも統治が上手くいっていない戦時下であり、軍部も家に押し入って、
無理矢理にできる連れて行くという横暴をはたらいていることが映画の冒頭で描かれており、逃げるためには
多少なりとも不条理なことをやらなければ、逃げることはできないということが、映画の発端となっているわけですね。
この乾いたような感覚の映像が素晴らしく、ゴードン・ウィリスのカメラはとっても良い仕事をしていると思いますね。
自然光を上手く利用していて、それでいてどこか殺伐とした乾いた空気感を感じさせる良いカメラだ。
ロバート・ベントンは後にネストール・アルメンドロスをカメラマンに起用したりと、撮影には強いこだわりがあったようで
本作も強いこだわりはあったと思います。脚本家出身のディレクターとしては、珍しいタイプかもしれません。
ロバート・ベントンも本作では演出家としての独自性を感じさせる表現をしていて、悪くないと思う。
ただ、個人的には直視し難い首吊りを安易に描き過ぎのような気がして、これだけがどうしても気になってしまう。
あくまで個人の嗜好に近い話しではありますが、ここはもっと慎みをもって欲しいし、示唆的な表現でも良かったと思う。
特にビッグ・ジョー一味の残忍性を強調する意味では、必要だったという側面はあるかもしれないが、
彼らにやられた若者が見せしめ的に吊るされるというシーン演出には、未来ある若者たちがこういう扱いを受ける、
そんなショッキングな出来事に対する観客の義憤を煽り立てる効果はあるが、映像的には無神経さが際立っている。
違う映像表現があったはずなので、この辺はロバート・ベントンの良識がよく反映されてしまった部分かもしれない。
それと同じで、民家の窓際にあったパイを取って逃げる子どもが頭を撃ち抜かれるという
衝撃的なシーンがあって、これはこれで当時のタブーに挑戦した映像表現なのだろうけど、これも賛否が分かれる。
個人的には彼の他の監督作品を見る限り、こういうデリカシーの無さを感じさせる部分はなく、
どちらかと言えば、生真面目な映画が多いなぁという印象だったので、比較的初期の頃はこういうスタイルで
どこかで方向転換をしたのかもしれないなぁと思ったけど、本作は他の部分が良かっただけに、余計に印象深かった。
まぁ、おそらく大人たちが未来ある若者だろうが情けをかけられない姿を首尾一貫して描いたということだろう。
良くも悪くも、これを貫き通したロバート・ベントンの一貫性は評価されて然るべきものなのでしょうね。
それからもう一つ。現代で言う売春行為を匂わせるようなシーンがあるのですが、
青春映画の1部分として描きたいことの主旨は分かるのですが、この部分も冗長なやり取りに見えてならなかった。
ラムジーはじめ、実は初体験であるかのようなニュアンスもあるのですが、俯瞰して観ると、このシーンは冗長。
この時代なりの人生の楽しみの一つとして描いたのだろうけど、なんだか悪い意味で単純過ぎるシーンに見える。
キャスティングとしてラムジー役のジェフ・ブリッジスはこの後にスターダムを駆け上がっていきますが、
彼の若々しさがなんとも眩しい。ディクソン役のバリー・ブラウンも頑張ってはいるけど、相手が悪過ぎたという印象。
やっぱり本作はジェフ・ブリッジスが良過ぎた。若き日のジョン・サベージも出演してますが、ジェフ・ブリッジスが際立つ。
ディクソンは信仰の関係もあって、ラムジーらのように残忍な行動には走ることができない。
だからこそ、映画の最後にディクソンとラムジーは仲たがいしつつも和解するわけですが、そこが彼の魅力でもある。
とは言え、ディクソンもラムジーと行動を共にしていれば、最後に待ち構える結末は破滅的なものであろう。
それが本作のラストに、よく表れる物悲しさなのですが、これがアメリカン・ニューシネマっぽいのが印象的だ。
そんなディクソンもやがてはラムジーらと行動を共にする中で、悪事に手を染めていってしまう。
前述したように、これはある種の友情関係であるように描かれているのですが、現代で言えば、これは悪しき影響だ。
しかし、この時代であればこういう友情も成り立ったのだろう。ここは時代が違うとしか言いようがないと思います。
そんなラムジーと行動を共にするためにディクソンが暴力にでる姿からは、何とも言えない悲壮感が漂っている。
それでもディクソンは色々なイザコザを乗り越えて前向きになり(?)、全てを吹っ切ったかのようにして、
ラムジーと強盗しに銀行に押し入るというのが、勧善懲悪とは言えないニュー・アウトローな姿が鮮烈なラストだ。
ラムジーはラムジーで生きるために必死だったという見方もできなくはない。
特にウサギを撃つという残酷なシーンもあって、このシーンではラムジーがウサギを捌いて手を血だらけにしながら、
ウサギのレッグを取るということをします。周囲は躊躇しながらも、その様子をドキドキしながら見ているのが印象的だ。
さながら“マタギ”のような生活を送っているわけですが、これはこれで残酷だけど、生きる力でもあると思う。
少なくともラムジーにとっては生きるためであり、余興的にウサギを撃つことだけに興味がある他の奴らとは違う。
南北戦争の時代ですから、当時の若者たちはこういう能力を自然と身につけていた人も多かったのでしょうね。
どうやらDVD化が遅れていた作品であったこともあり、なかなか観ることができない作品でしたが、
最近は何故かNHK−BSで複数回放送されるなど、以前に比べると容易に観ることができるようになってきました。
特に若き日のジェフ・ブリッジスのファンにはオススメしたい作品で、一風変わった西部劇として観て欲しい作品ですね。
上映時間もとてもスリムなので観易いのも良いですしね。アメリカン・ニューシネマ好きにも薦めたい作品ですし。
ちなみに原題は悪友を意味しているようですが、この原題の方がシックリくるタイトルですね。
ディクソンからすれば、当初は「あんなヤツらとオレを一緒にすんな!」というのが本音だったのでしょうが、
行動を共にする時間が長くなり、苦難を一緒に越えていくと友情で結ばれるようになり、すっかり後戻りできなくなる。
そうなると、悪友だと思っていた友人が生涯の友になるわけで、ディクソンもいつしか悪党になってしまうわけですね。
しかし、彼らの行動を美化するわけではないですが...生きるためには仕方がない時代だったのでしょうね。
そんな若者たちが刹那的な生き方をしてしまう姿に、なんともやり切れない思いになってしまう・・・。
(上映時間92分)
私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点
監督 ロバート・ベントン
製作 スタンリー・R・ジャッフェ
脚本 ロバート・ベントン
デビッド・ニューマン
撮影 ゴードン・ウィリス
音楽 ハーベイ・スチミッド
出演 ジェフ・ブリッジス
バリー・ブラウン
ジム・デイヴィス
ジョン・サベージ
ジュリー・ハウザー
ビル・マッキーリー
ジェフリー・ルイス