夕陽の群盗(1972年アメリカ)

Bad Company

正直に白状すると...
僕はロバート・ベントンという映画監督、『クレイマー、クレイマー』とか『プレイス・イン・ザ・ハート』とか、
出来の良い、多くの観客に訴求しうる影響力のある映画を撮れるディレクターであるとは思っていたけれども、
個人的にはそこまで気になる監督ではないというか、どこかインパクトに欠けるディレクターだと思っていました。

そこで本作、いざ観てみると、思いのほかにニューシネマなテイスト溢れる作風で、
正直、驚かれたというのが本音で、チョットだけロバート・ベントンのことを見直してしまいました(笑)。

思いっきりニューシネマな映画とまではいきませんが、
劇中、それまでの時代であれば避けられてきた、食糧として動物の肉を得るためにナイフを入れたり、
娼婦のように扱われる女性を“買って”、すぐに終わっても、それをイキがる姿を描くなど、
アメリカン・ニューシネマの時代が到来する前であれば、描けなかったニュアンスが多く含まれた作品です。

映画のクライマックスにしても、『明日に向って撃て!』の予備軍とも言うべきラストで、
ロバート・ベントンがどこまで意識していたかは分かりませんが、それまでの西部劇映画とは
明らかに一線を画す内容となっています。当時はシドニー・ポラックが『大いなる勇者』を撮ったり、
西部開拓時代、或いは南北戦争の時代を舞台にした西部劇の中でも、独特な映像表現を持って描き、
それまでの時代ではありえなかった、或いは受け入れられにくかった映画が誕生した時代ですね。

しかし...よくよく考えてみれば、ロバート・ベントンは本作でも脚本として
クレジットされているデビッド・ニューマンと共に67年の『俺たちに明日はない』の脚本を執筆しており、
元はと言えば、立派にアメリカン・ニューシネマから旅立ったディレクターであったということなんですね。
いやはや、僕は本作を観る時点でそのことをすっかりと忘れていました・・・(笑)。

主演のジェフ・ブリッジスも若い!
74年の『サンダーボルト』も印象的で、あのあたりから本格的に俳優としてブレイクしましたが、
本作の時点で光るものは感じますね。そこをロバート・ベントンも上手く利用した感じですね。

ただ、バリー・ブラウン演じる徴兵逃れのドリューと、
窃盗団の若きリーダーである、ジェフ・ブリッジス演じるジェイクとの間に何とも言えない友情(?)が
芽生えて、それが映画を支えていると言っても過言ではないのですが、幾度となくジェイクに裏切られる
ドリューの心情がとても分かりにくく、いくら敬虔なキリスト教徒とは言え、最終的にはジェイクを許し、
そして2人で行動を共にするという結果に至るまでの納得性が、どうしても弱いのが難点である。

そして、ドリューがとても大事にしている懐中時計。
それをも踏みいじるかのような扱いをしたジェイクに、怒りを覚えるドリューですが、なんだか弱い(笑)。

何故に理不尽なまでに裏切られることを分かっていて、ドリューがジェイクについていくのかは謎だし、
例え宗教的な理由で冷淡にはなれないにしろ、ジェイクを最終的には見放さない決断をくだすまでには
様々な葛藤があるはずなのですが、そこには一切触れずに、ブレまくった展開にするのはどこか違和感がある。

同じロバート・ベントンの監督作品の中で見ても、
社会派映画が多いせいか、かなり色濃くアメリカン・ニューシネマの影響を受けた作風に新鮮に感じられる一方で、
やはり映画として訴求し切れなかった部分があるのは、このドリューの描き方にどこか納得性に欠けるからだろう。
ここさえクリアできていれば、今でももっと影響力のある映画として語り継がれていたかもしれません。

正直言って、本作は当時としても異色の西部劇だったはずなのですが、
総じて映画としてのインパクトが大きくはなかったせいか、今となってはすっかり“埋もれて”しまっています。
アメリカン・ニューシネマという括りにしても、本作の価値を再考する動きはまず無いと言っていいでしょう。

実際にどうやって撮影されたのかは分かりませんが、
前述した、映画の中盤にある強盗団が食糧を得るためにと、野生の兎を狩猟するシーンは衝撃的で
まず兎が銃で撃たれるシーンから、ゆっくりと時間をかけて描写している。
これはホントに今の時代ではありえない映像表現で、この時代の映画だからできた芸当だろう。

また、パイをゲットしようと走る子供が銃撃戦になり、
その中を逃げる最中、頭を撃ち抜かれるなんてシーンもあるのですが、このとてつもないくらい、
残酷で現代ならば議論を呼びそうなシーン演出で、その賛否はともかくとして、思わずビックリさせられる。

それはジョン・サベージら演じる、ジェイクが従えていた強盗団の仲間で、
途中で造反行為にでる若者2名の運命にしても同様で、現代のモラル意識では許容されないだろう。

別に当時のロバート・ベントンにタブーに挑戦する意識などなかったとは思いますが、
後の彼の監督作品に慣れ親しんだ方にとっては、ややカラーの異なる作品に映ることでしょう。
そういう意味で、こういうヤンチャな映画には若い頃のジェフ・ブリッジスがよく似合う。
同じジェフ・ブリッジスの出演作品で70年代であれば、74年の『サンダーボルト』一択ではあるのだが(笑)、
それでも本作のアウトローぶりと、悪党としては小物感が否めない相反する感覚が、見事にマッチしている。

また、名カメラマンのゴードン・ウィリスのカメラも良いですね。
素朴でいながらも、嫌味にならない程度で、映画を際立たせる素晴らしいカメラですね。

この映画には、あまり救いが描かれていない。
そういう意味では、キリスト教の教えを色濃く反映していながらも、刹那的な生活を続ける強盗団にとって、
彼らの末路は見えているわけで、前述した造反行為にでる若者たちも大人たちが情けをかけないあたりが
本作の厳しさ、徹底した理不尽さを首尾一貫して描きたかったのではないかと思います。
ゴードン・ウィリスのカメラはそんな厳しさをもしっかりと表現しているかのようで、実に味わい深いものがある。

そういう意味でも、是非とも再評価を促したい一作なのですが、
なんとも完全に“埋もれて”しまった一作となってしまったせいか、なかなか観る機会がないかもしれませんね。

それにしても、ジェフ・ブリッジスは後にハリウッド・スターになった一方、
本作でこれだけクローズアップされて目立った、ドリューを演じたバリー・ブラウンはブレイクせずに、
映画界から引退してしまったようですが、もっと注目されてもいいポジションにいた役者さんですね。

(上映時間92分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ロバート・ベントン
製作 スタンリー・R・ジャッフェ
脚本 ロバート・ベントン
   デビッド・ニューマン
撮影 ゴードン・ウィリス
音楽 ハーベイ・スチミッド
出演 ジェフ・ブリッジス
   バリー・ブラウン
   ジム・デイヴィス
   ジョン・サベージ
   ジュリー・ハウザー
   ビル・マッキーリー
   ジェフリー・ルイス