9デイズ(2002年アメリカ)

Bad Company

まぁ・・・ヒットした映画とは言い難いが、
クリス・ロックとアンソニー・ホプキンスという異色の顔合わせが実現したアクション映画。

ジェリー・ブラッカイマーのプロダクションで製作した企画なので、
製作費7000万ドルという巨額の予算が投じられた作品ではありますが、
おそらくその大半が、当時、出演者へのギャラとプラハでの撮影費に投じられたのでしょう。

もう老体に鞭打つように、アンソニー・ホプキンスも軽くアクション・シーンに挑戦していますが、
割りとオーソドックスなアクション・シーンに、僅かにコメディのニュアンスも加味するというスタイルで、
まぁ当時、批判を浴びまくっていたジェリー・ブラッカイマーが箸休めに撮った映画という雰囲気がある。

監督は『バットマン フォーエヴァー』のジョエル・シューマカーで、
本来的にはジェリー・ブラッカイマーであれば、本作ぐらいの企画ならば新人監督にチャンスを
与えるのが通例だったように思うのですが、ジェリー・ブラッカイマーが現場に過剰介入することを避けるため、
ジョエル・シューマカーのような器用で実績が豊富な映像作家に、映画のほとんどの部分を任せたという感じです。

アンソニー・ホプキンスもどうやら、彼のエージェントが出演を勧めたそうなのですが、
その裏側にあったのは、おそらく彼のイメージを覆すような作品に出演させたいという意図だろうし、
もっとも、仮に本作が新人監督がメガホンを取るようであれば、アンソニー・ホプキンスは出演しなかっただろう。

映画は、良くも悪くも典型的なハリウッド製アクション映画。
結果的には懲悪勧善。観る者の期待を良い意味で裏切らない構成にはなっていて、
ある意味では、安心して楽しめる出来の映画であり、これはこれでとても難しい仕事ぶりである。
ジェリー・ブラッカイマーのプロダクションだけでなく、ジョエル・シューマカーの経験値の高さが為し得た仕事だろう。

反対に言うと、大きなサプライズは無く、新鮮味には乏しいことは否定できない。
強いて言えば、クリス・ロックとアンソニー・ホプキンスの顔合わせが異色なぐらいで、残りは平々凡々。

こういう仕事を評価しないというスタンスの人には、ウケないタイプの映画でしょうし、
ジョエル・シューマカーの演出ぶりとしても、新たな挑戦意識を感じさせるシーンは皆無でした。
シーン演出にしても、各出演者に任せている部分が大きく、これは賛否が分れるところかもしれない。
(但し、「理想的な演出家とは、あまり演出し過ぎない人」というセオリーには合っているかもしれない・・・)

クリス・ロックのマシンガン・トークを期待すると肩透かしを喰らうが、
アクション・シーンに於いても、スタント・アクションを駆使して、それなりに見せ場を作れているし、
エンターテイメントとしては及第点レヴェルにはあると思いますね。そういう意味では、実に手堅い映画です。

欲を言えば、もう少し尺を短めにした方が良かったかもしれません。
極端に長い映画というわけではなく、むしろ標準的な尺の長さではあるのですが、
元々、映画のテンポが凄く良い作品というわけではないせいか、終盤はチョット長く感じましたね。
この辺はジョエル・シューマカーの腕の見せ所だったと思うのですが、どうもダレるところがあります。

それと、日本の配給会社が勝手に付けた邦題ではありますが、
主人公のジェイクに与えられた猶予時間は9日間だったわけで、時限性があるストーリーだったはずなのに、
その割りには映画自体に緊迫感が感じられないのは、いただけないな。これは作り手の大きな落ち度である。

アンソニー・ホプキンス演じるオークスがジェイクの存在に目を付け、
9日間でジェイクを失った仲間であるケビンに仕立てて、核爆弾の起爆を解除しなきゃならないというのに、
タイムリミットを観客に意識させて、スリルを演出するということを作り手が一切しないというのが勿体ない。
こういう勿体なさはジョエル・シューマカーにしては珍しいことだと思いますねぇ。何か考えがあったのでしょうか。

まぁ・・・あくまでアクション・コメディであるという割り切りがあれば、そうでもないのかもしれませんが、
サスペンス映画としての土台も整っていただけに、スリルが希薄であるというのは、少々、いただけない。

冒頭のプラハでのアクション・シーンはそこそこ緊迫感があったように思うのですが、
それ以降はクリス・ロック演じるジェイクの性格的なものもあり、あまりスリルを演出したがらないですね。
そのせいか、クライマックスの爆弾の暗証番号を思い出して、解除しようと悪戦苦闘する姿が盛り上がらない。
これはジェリー・ブラッカイマーもラッシュ(試写)を観て、疑問に思わなかったのでしょうか?

もう一つ言えば、映画の前半にあるオークスがジェイクを一流のスパイへと仕立てるために、
教育を施すときに、色々とジェイクと衝突しながら進めていくのですが、お互いに水をかけ合ったり、
色々と面白くなりそうな要素があっただけに、あまり深く掘り下げずに終わってしまうのも勿体ないかなぁ。
この辺はジョエル・シューマカーが何を意図していたかによりますが、もう少しコメディ的なニュアンスは
映画の中で増やしても良かったかなとは思いますね。そうすれば、中途半端な映画にはならなかっただろう。

そう、どことなく色々な映画の要素を採り入れたせいか、
どこか映画がどっち着かずな感じになってしまい、映画が中途半端な印象を与えてしまうんですよね。
せっかくのクリス・ロック主演という企画であっても、彼の毒舌が全開の映画というわけでもないですしね。

10年前ならアンソニー・ホプキンスもこういう仕事を受けなかったでしょうが、
本作に出演したのをキッカケにしたのか、この後は随分と積極的に娯楽映画に出演するようになりましたからね。

そういう意味では、アンソニー・ホプキンスの幅を広げた作品ということができるのかもしれません。
おそらくカー・チェイスの最中で、(スタントだとしても...)派手なアクション・シーンを演じるなんて、
後にも先にも本作だけでしょうし、車から身を乗り出して銃を撃つなんて、とても貴重な姿だったことでしょう(笑)。

ひょっとしたら、作り手としては本作がヒットしたら続編を製作する気だったのかもしれませんね。
どことなく、この映画のラストシーンを観ていたら、そんな気がしてなりませんでしたね。

おそらくバディ・ムービーを意識して作ったのでしょうが、
この際立った特徴がないキャラではシリーズ化していくのは、チョット厳しいでしょうね。。。

(上映時間117分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジョエル・シューマカー
製作 ジェリー・ブラッカイマー
    マーク・ステンソン
    マイケル・ブラウニング
原案 ゲイリー・グッドマン
    デビッド・ヒメルスタイン
脚本 ジェイソン・リッチマン
    マイケル・ブラウニング
撮影 ダリウス・ウォルスキー
編集 マーク・ゴールドブラット
音楽 トレバー・ラビン
出演 クリス・ロック
    アンソニー・ホプキンス
    ガブリエル・マクト
    ガーセル・ボヴェイ
    アドニ・マロピス
    ケリー・ワシントン
    マシュー・マーシュ
    ピーター・ストーメア
    ブルック・スミス
    ジョン・スラッテリー