バックドラフト(1991年アメリカ)

Backdraft

まぁ何度観ても面白い作品ですね。ロン・ハワードの最高傑作とは思わないけど。。。

シカゴで消防士として活躍した伝説的な父の殉職を目の当たりにした少年が、
やがて成長し、幾多の夢に破れ、再起をかけて消防士の職にチャレンジする姿を、
兄との葛藤や相次ぐ連続放火の犯人捜しに苦労するサスペンスフルなヒューマン・ドラマ。

さすがはロン・ハワード、その卓越した演出力は本作の時点で傑出しており、
エンターテイメント性やアトラクション性をふんだんに取り入れた、究極の映画と言ってもいいぐらいだ。

大阪のユニヴァーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)にもありましたが、
アトラクション性抜群な火災現場での特撮を駆使したシーン演出は、特筆に値しますね。
劇中で語られるように、火がまるで生きているかのような表現を取り入れるなど、
それまでの映画には無かった斬新さが感じられますね。表立った敵役との決闘シーンがあるわけでもないのに、
まるでアクション映画を観ているかのような感覚に陥るというのは、この映画の大きな功績だと思う。

まぁ映画の重たさという意味では、若干の不足はありますが、
それでもロン・ハワードの仕事は鮮やかかつ正確で、実に見事な仕事っぷりだ。
これは彼にしか出来ない仕事と言ってもいいぐらいでしょう。

かなりの豪華キャストで映像化が実現した作品ではありますが、
その中でも放火魔ロナルドを演じたドナルド・サザーランドが強烈な印象を残しますね。
火災調査官リムゲイルを演じたロバート・デ・ニーロも登場時間は短かったものの、強い存在感を示し、
この2人の不思議な関係を象徴する、ロナルドの意見を聞きに行くシーンと、
ロナルドの仮釈放審査会のシーンを対照的に描いていたのが印象的でしたね。

この映画の大きなテーマとして、仲の悪い兄弟の葛藤が挙げられますが、
僕としては、この2人の描き方が映画の終盤で随分と感傷的になっていってしまうのが気になりましたね。
もう少し感情の高ぶりを抑えても良かったと思うし、性急な処理はして欲しくなかったですね。
もう少し時間をかけても良かったから、ジックリと2人の関係を丁寧に描いて欲しかった。

タイトルの“バックドラフト”とは、密閉された空間で不完全燃焼によって、CO(一酸化炭素)などの
可燃性ガスが充満した状態で、窓や扉が開いて、空間の外部にあるO2(酸素)などの助燃性のある気体に
強い圧力をもって取り込まれ、猛烈な爆風を伴い燃え広がる現象のこと(←必死に調べました)。
あくまで不完全燃焼によるものが発生源なので、問題となる空間は激しく焼かれてしまうことはありません。
むしろその外部の燃焼が激しく、扉を開けた人などは、爆風に飛ばされ圧死、または衝突死することがある。
この現象って、火に関する知識がないと、なかなか人為的に起こせるものではないですからねぇ。
まぁこの時点で映画のネタはある程度、バレてしまうのですが(笑)、それでも映画は腐りません。

そう、この映画の立派なところはミステリー調の展開でありながらも、
しっかりとドラマを組み立てたことによって、繰り返し何度も観て、楽しめるようになっているところなんです。
事件の真相が分かっていても、真相が明らかになるまでの組み立てがしっかりしているので、映画は腐りません。

この辺はロン・ハワードのストーリーテラーとしての能力の高さも象徴されているところで、
映画の全体的なバランスを重視し、何が要点なのか明瞭に示されているのが、映画の成功の秘訣だろう。
前述の通り、感傷的になり過ぎたのが、僕の個人的な好みとは合致しませんが、
それでも本作が劇場公開から約17年経った今でも、愛され支持され続けている要因でしょう。

実際、我が国日本でも火災現場における消防士の殉職というショッキングなニュースが無いわけでもない。
07年10月には北海道美唄市の3階建てビルの火災にて、2名の勇敢な消防士が床の崩落に伴い、
消火活動の中、行方不明となり結果、殉職という悲しいニュースが報じられています。

この他にも、過去には幾つかの事例があります。

そういう意味では、常に死という危険と隣り合わせの職業ではありますが、
「誰かがやらなければならない仕事」なんですよね。そりゃ出動機会が少ないことに越したことはないけど、
常に非常事態や消火活動に備えていなければならないという、ひじょうに複雑な職業だと思う。
そんな過酷な職業に従事する消防士たちにスポットライトを当てた作品という意味でも、
本作は意義深い作品だとは思いますね。これまでって、例えば『タワーリング・インフェルノ』のように、
火災現場でのパニックを描いた映画はあっても、消防士たちの活躍を真正面から描いた映画って、
ほとんどありませんでしたからね(おそらくスピルバーグの『オールウェイズ』ぐらいだろう)。

僕も消防士の全てを知っているわけではないし、おそらく僕が知っていることって、ほんの一部分なのだろう。
ただ彼らのような組織だと、おそらく万国共通で縦社会になりやすいだろう。
そうであるがゆえ、本作のように兄弟なんかで同じ職場に置かれると、様々な葛藤が生まれるだろう。
ましてや同じ職場だというから、僕なら耐えられません(笑)。

まぁそんな兄弟の葛藤も上手く描けているし、実にヴォリューム感溢れる充実した作品だ。
いつか、そう遠くはない未来に、日本でも本作のようなタイプの映画が誕生するような勢いが
生まれて欲しいと切に願っています。決して不可能ではないはずです。

(上映時間136分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 ロン・ハワード
製作 リチャード・バートン・ルイス
    ベン・デンシャム
    ジョン・ワトソン
脚本 グレゴリー・ワイデン
撮影 ミカエル・ソロモン
特撮 ILM
音楽 ハンス・ジマー
出演 カート・ラッセル
    ウィリアム・ボールドウィン
    ジェニファー・ジェイソン・リー
    ロバート・デ・ニーロ
    J・T・ウォルシュ
    スコット・グレン
    ドナルド・サザーランド
    レベッカ・デモーネイ
    クリント・ハワード
    ジェイソン・ゲドリック

1991年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート
1991年度アカデミー音響賞 ノミネート
1991年度アカデミー音響効果編集賞 ノミネート