赤ちゃんはトップレディがお好き(1987年アメリカ)

Baby Boom

ニューヨークの経営コンサルタント会社でバリバリのキャリア・ウーマンとして、
仕事ぶりが高く評価され、高収入は勿論のこと、共同経営者として声がかかるところまでいったヒロインが、
親戚に不幸があり、乳児を“遺産”として預かることになり、苦悩しながらも孤軍奮闘する姿を描いたコメディ映画。

都会に生きる女性を演じれば、よく似合うダイアン・キートンが大活躍する姿がなんとも眩しい。

80年代のアメリカですから、女性経営者は多くいたでしょうけど、
それでも本作でも語られている通り、経営者として成功を収めたいのであれば、何かを犠牲にすることが
求められていた時代であり、育児しながらキャリアウーマンはできないと決め付けられていた時代だったようです。

そういった決め付けで、どちらかを諦めた女性もいたことでしょうし、
男性上位社会の評価軸で、地位を築かなければならなかったわけで、相当なエネルギーが必要だったのでしょう。
勿論、経営者として生き残るのは容易なことではなく、仕事に打ち込むためにはプライベートは犠牲になったのでしょう。

しかし、それでも育児ができない、という決め付けはあまりに極端であり、
現代の感覚で言えば、チョットあり得ない決め付けに思えますが、当時としては当たり前のことだったのだろう。

まだ経営者が子育てするには環境が整っていない時代という感じで、
現代だったら企業に託児所があるのが普通になってきてますけど、子どもを預ける場所がないし、
経営者も露骨に軽い仕事を任せると言ってきたり、現代ではなかなか無い対応で、とにかく理解はない。
とは言え、現代社会でも子育てとキャリアの両立というのは大きなテーマであり、日本は人手不足もあって
制度として育児休業制度があっても、心情的にもなかなか取得しにくいという現実があることは否めないです。

今後も是正していかなければならない、社会的な課題でしょうね。ある程度の意識変容も必要なのでしょうけど。

勿論、キャリアウーマンしながら子育てママを務めることは容易なことではないと思います。
精神的にも肉体的にも相当にしんどいことでしょうし、どちらも中途半端になってしまう時期があるでしょう。
しかし、得てしてこういう時は自分で自分のハードルを上げてしまって、苦しくなってしまうものです。
自ら切り開こうとする姿は感銘を受けますし、赤ん坊のために大きな決断を下すあたりも感心させられる。

この映画、キー・ポイントになっているのは、やはり赤ん坊エリザベスの存在だろう。
いやはや、文句なしに可愛い。かつて数多くの映画で、赤ん坊を観てきたけど、本作のエリザベスは特に可愛い。
子役のキャスティングも良かったのだろうけど、撮り方も上手い。笑顔も多く捉えてるので、撮影も大変だっただろう。

エリザベスを抱きかかえるシーンでは、幾度となく人形を使っているのが丸分かりなのはアレですが、
大人たちが芝居する中で、これだけ豊かな表情をフィルムに収めて、チャーミングなインパクトを残すのは難しい。
撮影現場も、そうとうな根気を求められたのかもしれませんが、その甲斐あったと思います。それくらい、良いです。

チャールズ・シャイアーとナンシー・マイヤーズのコンビで作った映画ですので、
あまり大きなトラブルがあったり、緊迫感ある映画という感じでは全くありませんが、映画全体にテンポが良く、
ほど良いコミカルさ、ハートウォーミングな塩梅が丁度良く、作り手のバランス感覚が優れた作品だと感じる。
また、80年代特有のバブルな雰囲気ある作品ですので、この時代が大好きな人にもオススメしたい作品ですね。

主演のダイアン・キートンも良いですが、出番はあまり多くはないとは言え、
田舎の獣医師を演じたサム・シェパードも悪くはない。彼がこういう軽めの映画に出演すること自体、珍しいですね。

しかし、ヒロインからすれば子育てとの両立を認めてもらえず、社内競争に敗れて挫折したという
感覚だったのかもしれないが、引き取ったエリザベスに充実した環境で育てるためにと、田舎暮らしを決意する。
これは映画の序盤で登場したヒロインの主義主張からは想像もつかないような決断であり、冒険でもありました。
チラシで見ただけのバーモント州の空き家を購入し、リンゴ農家をしながら子育てに打ち込もうとします。

それでも趣味的に大量に作っていたリンゴジャムの在庫が貯まり、それで商売しようとするあたりが、
ヒロインのキャリアウーマンとしての本能を感じさせる。この辺の描写はチョット甘い感じがして、
リンゴジャムのビジネスの成功がイージー過ぎるようには見えましたが、あくまでコメディ映画なのでね・・・。

自分で栽培したリンゴを使って、自分で加工食品にしようという発想自体は、結構、先進的かも。
いわゆる農産資源の6次化というやつで、現代では田舎で似たようなことをやっている事業者はたくさんいます。
しかし、本作のヒロインほどの成功を収めるというのは難しいことであり、人を雇用して利益を出すのは容易ではない。

ヒロインがやっていたことは、当時としては先駆的だったのでしょうけど、
本作の中でもフードチェーンとかいう、大手企業が工場を大きくして、販売と物流は任せてくれと
ヒロインが立ち上げたジャム製造会社を買収すると名乗り出ます。アメリカは大企業となると、特にデカいですからね。
ヒロインも売却で得る報酬、その後の企業で重役に就いて得られる成果報酬などで、莫大な金額を提示され、
「やったぞ! “タイガー・レディ”復活!!」とトイレで喜びガッツポーズ。しかし、同時に真の幸せを考えるようになる。

個人的には、その時本人がどうしたいのか、ということが大事だと思うので、
ヒロインが決断した内容、決断しなかった内容にそれぞれ、見る人が見れば是非は分かれるだろうし、
どちらかが正解で、どちらかが間違いだなんて言い切れないと思う。勿論、ああした方がいい・・・と思うことはあるけど。

この映画はそんなヒロインにとってのターニング・ポイントを、ソッと優しく静かに描くことで、
どちらか一方の価値観が、押しつけがましくなるストーリー展開にしないようにした作り手の配慮が感じられていい。
なので、僕はヒロインが採らなかった選択をしたとしても、この映画は成立しただろうし、嫌味にはならなかったと思う。

それから、赤ん坊が“遺産”として扱われるというのも、結構ビックリさせられる。
確かに両親が不幸にも事故死して、残された子供の身寄りが無くなって、親戚に引き取られるケースはあるだろうが、
“遺産”として扱われて、事前に子供のことを伝えずに相続者を空港に呼び出すなんて、チョットあり得ないですね。

子どもが好きとか嫌いとか関係なく、こりゃ誰でもビックリするだろうし、困っちゃうでしょうね。
こんな軽い扱いを受けてしまうこと自体、赤ん坊が可哀想なのに、このエリザベスが可愛いときたものだから、
そりゃ誰だって、気持ちが動いちゃう(笑)。理想と現実は違うけれども、あの養子斡旋所の様子を見ちゃうと、
誰だって心配になっちゃうし、そりゃ躊躇するでしょうね。まるで物を売買するような雰囲気で、心が揺れ動きますね。

そんなこんなでヒロインもシングルマザーとして生きていくことを決意するのですが、
いかんせん、その環境が整っていないのだから上手くいくわけでがありません。突如として決意した田舎暮らしも、
家はあちらこちらが修理必要な問題物件だし、周囲で助けてくれそうな同年代の人は皆無で、高齢者ばかり。

普通に考えて、井戸は枯れて、屋根が腐って家の中に雪が入ってくるなんて、
乳幼児を育てる家としてあり得ないんだけど、それにもめげずに必死に動けるというのはスゴいことですね。
自分だったら、ほぼ間違いなくボロ屋での田舎暮らしを早々に諦めて、もう少しマシな部屋を探してしまうでしょう・・・。

まぁ・・・最近ではこういう分かり切った(予定調和な)内容の映画が嫌われてしまうのだけれども、
僕は如何にも80年代!という感じで好きなんだなぁ。音楽も部屋のインテリアだとかも含めて、なんだか懐かしい。

それは何故かって、21世紀に入ってからはこの頃のような勢いやポップな感じが、日常に感じられないから。
勿論、この時代も今の感覚とは合わない古臭い部分はあるし、悪しき慣習もあるから、戻りたいとまでは思わない。
しかし、良い部分を切り取るとしたら、人々が活気に満ち溢れ、色々な分野で伸長している実感があったことでしょう。
そう、今は例え伸びていても、それが実感できる社会ではないのが気になる。その違いが一体何なのだろうか?

今も企業では、「活力を生み出す!」とかスローガンにしていたりますけど、
そのスローガンを実現するための原動力となる、細かなアイデアと実行力が(自分も含めて)全体に足りないのかも。

明るくないと、本作のようなタイプの映画もなかなか受け入れられづらいですよね・・・。
なんで、こんな邦題が付けられてしまったのかは謎ですが、それでも愛すべき80年代コメディ映画の一つ。

(上映時間110分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 チャールズ・シャイアー
製作 ナンシー・マイヤーズ
   ブルース・A・ブロック
脚本 ナンシー・マイヤーズ
   チャールズ・シャイアー
撮影 ウィリアム・A・フレイカー
音楽 ビル・コンティ
出演 ダイアン・キートン
   サム・シェパード
   ハロルド・ライミス
   ジェームズ・スペイダー
   サム・ワナメーカー
   パット・ヒングル