オータム・イン・ニューヨーク(2000年アメリカ)

Autumn In New York

秋のニューヨークを舞台に、名うてのレストラン経営者でプレーボーイな生活を続ける主人公が
知り合いの娘である若い女性と恋人関係になるものの、彼女が重い心臓病の難病に苦しむことを知り、
本気の恋に落ちる姿を、リチャード・ギアが自身のハマり役としか思えないキャラクターを体現する恋愛映画。

『サルート・オブ・ザ・ジャガー』などに出演していたアジア系女優のジョアン・チェンの監督作品であり、
98年の監督デビュー作『シュウシュウの季節』に続く、2回目の監督作品ということもあり、注目されていました。

しかし、個人的にはこの映画はダメでしたね。確かに秋の紅葉に色づくニューヨークのロケーションは素晴らしい。
秋の紅葉の季節から、冬の雪の季節までセントラル・パークをメインにして、抜群のヴィジュアル・インパクトだ。
これはロケーションを担当したスタッフの功績がデカいと思うのですが、これをカメラに収めようと思った、
ジョアン・チェンのディレクターとしての才覚を感じさせる映像センスで、この部分は特筆に値すると思いましたね。

ただ、言葉は悪いけど...僕の中では「それだけ」の映画という印象で、
結局、作り手もこの映画を主人公ウィルとヒロインのシャーロットの恋愛をメインに見せたいのが明白ですが
肝心かなめのラブ・ストーリーがイマイチで、映画の最後の最後まで2人のロマンスが盛り上がらない。

その盛り上げとして、おそらく難病というキーワードを付加したのでしょうが、
通俗的な表現をすれば、ありふれた物語に映ってしまって非凡なものを感じさせない。その物足りなさを、
この美しいニューヨークの街並みが映像を彩ることで補完しようという感じなのですが、補い切れていない。

キャスティングの妙、というものが必要だった気がするのですが、
主演のリチャード・ギアがウィルを演じるにはありきたりな感じだし、ヒロインのウィノナ・ライダーも
どこかリチャード・ギアとのコンビという点では、あまり噛み合っていないような印象を受けた。これは致命的と思う。

そもそものウィルとシャーロットが本気の恋に落ちるという設定自体が、あまり説得力が無い。
いくらウィルがプレーボーイとは言え、知り合いの孫であり、子どもであると紹介されてアプローチするというのも
これだけ女性経験が豊富なウィルなら、逆に“手を出さなさそうな”タイプの女性なだけに、なんだか不可解だし、
2人が本気の恋に至るまでの過程も、どこか掘り下げが足りなく、恋愛は理屈ではないとは言え、
2人が距離を縮め、いつしかウィルが能動的にシャーロットのために行動するほど本気になる姿に説得力が無い。

結局、恋愛映画なんで、こういう描写で映画の価値が決まると言っても、僕は過言ではないと思う。
それなのに、本作はウィルとシャーロットの心の変化を蔑ろにしているように感じたのが、チョット残念だったなぁ。

ウィルも節操なく華々しく女性と関係するというのは、なんともリチャード・ギアっぽいキャラクターだけど、
どう考えても面倒なことになりそうな女性には“手を出す”タイプの男ではないだろう。それは彼の割り切りぶりを
見れば明らかで、本気の恋に落ちたり、知り合いから恨まれる存在にはなりたくないという本能があるから。
逆の言い方をすれば、そういう本能が兼ね備わっているからこそ、ウィルはビジネスマンとして成功しているわけ。

どんなヒドいことをウィルが行っても、周囲が彼を見捨てないのは、ウィルに人間的な魅力があって、
どこか憎めないという部分があるからこそで、そういったウィルの側面も本作はもっと描いて欲しかったなぁ。
(まぁ・・・コンプライアンスや社会倫理に厳しくなった現代社会では、このウィルのような男は排除されるだろうけど)

言い得て妙ではありますが、映画の終盤でシャーロット自身が語っていますが、
シャーロットがウィルに恋して、ウィルの心を奪ったことは「世の中の女性を救った」ということでもあるらしい(笑)。

悲恋として描きたかったのだろうけど、無理に難病ものに持って行かずに、
もっと自然体に、親子ほど年の離れた中年のオッサンと若い女性の恋愛を真正面から描けば良かったのになぁ。
確かに最初っからシャーロットの持病のことは匂わせているので、病いのことを持ち出すことは違和感ないんだけど、
映画の終盤に一気に畳み込むようにシャーロットの病いの話しに傾いていくので、そうとうな力技に観えた。

欧米ではこれが普通なのかもしれないけど、他の都市にいる医師にわざわざヘリで
違う都市の勝手の分からない病院に来てもらって、難しいハイリスクなオペに執刀してもらうなんて、
患者を移動するよりは良いのかもしれないが、これで成果を残せと言う方が無理難題を叩きつけているように見える。

そしてウィルとシャーロットの賭けの結果を、医師のリアクションで表現するなんて、
本作が2000年に製作された映画ということを鑑みても、あまりに時代遅れな表現で少々ビックリしてしまった。

こうして観ると、本作は凄く課題の多い作品であったような気がして、映画を撮る前によく考えて欲しかった。
ロケーション・スタッフは頑張ったし、フィルムに収めた映像は美しく、街の表情豊かに収めているだけに勿体ない。
脚本そのものにも問題があるような気はするけど、リチャード・ギアとウィノナ・ライダーの組み合わせに始まって、
2人の恋愛過程をどう描くのかということと、映画の“終わらせ方”をどうするのかなど、よく検討すべき点があったはず。
この辺、ジョアン・チェンの監督としての本音や意図がどこにあったのかが、よく分からないので何とも言えませんが、
撮り方や描き方によっては、もっともっと良くなったであろうと思えるだけに、この出来が残念でなりませんでした。

リチャード・ギアは相変わらず甘いマスクでハンサムなのは分かるけど、
ウィノナ・ライダーと並んで歩く姿を見てしまうと、やっぱり恋人というか親子に見えてしまうなぁ(苦笑)。
随分と前からリチャード・ギアは白髪を隠さずに映画に出ているけど、もう少し若作りしても良かったかも・・・。

どこかどう見ても、恋愛や結婚向きではない中年のオッサンを演じるにはピッタリなんだけど、
劇場公開当時から、リチャード・ギアとウィノナ・ライダーの組み合わせの悪さが指摘されていた理由が、
僕にはなんとなく分かった気がします。どちらかと言えば、リチャード・ギアのシルエットが気になるんですよね。
親子ほど年齢の離れた男女の恋愛というコンセプトは由しとしても、あまりに見た目に親子なのは悪目立ちに映る。

この辺のバランス感覚は、監督のジョアン・チェンがもっと気にしなければいけないところだったと思う。

ヒロインのシャーロットを演じたウィノナ・ライダーも本作のあたりまではハリウッドでも
トップ女優に近いポジションで日本でも人気があった女優さんだったのですが、プライベートで窃盗事件を起こし、
00年代以降は低迷期に入ってしまい、当時の人気がウソのように彼女の勢いは失速していってしまいました。
あのままの調子でいけば、演技派女優としても評価を上げていきそうな雰囲気だったので、実に残念でしたね。

まぁ・・・どうしようもない中年のオッサンと、親子ほど年の離れた若い女性の悲恋を描いた作品で
あくまで恋愛がメインテーマの映画ではありますが、前述したように秋冬のニューヨークの街の表情を捉えた
カメラは抜群に素晴らしい。また、そんなロケーションを作り上げたスタッフの力は見事なものだったと思います。

原題からして、秋のニューヨーク≠ネのですからカメラに秋のニューヨークの空気を収めたかったわけですね。
それは見事に出来ていて、あとは肝心かなめのウィルとシャーロットの恋愛がしっかり描けていれば・・・というところ。

さすがにリチャード・ギアも、この手のプレーボーイ役を演じ続けることに限界を感じてきたのか、
本作あたりでこういう役を演じることは終わりにした、という印象があります。そういう意味では、最後の勇姿かも(笑)。
相変わらずのプレーボーイぶりで、貞操観念なんか無いに等しい中年のオッサンだけど、何故か女性からモテる。
大人な香りを漂わせる雰囲気があって、女性は惹かれるものがあるのだろうし、チョイ悪な感じも少々ブレンド。

さすがに本作の時点で『プリティ・ウーマン』の頃のようにはいきませんが、
割り切った大人な関係を楽しめる女性ならば、このウィルのようなオッサンに興味を持つというところなのかな。

たださ、やっぱり独身貴族を謳歌してとっかえひっかえ交際する女性を変え、
深い関係になりそうになったら切り捨てるという最低の行動をとってきたウィルのようなオッサンが、
いくらキレイだからとは言え、シャーロットのような娘のような年齢の女性...しかも、かつて口説こうとした
女性の娘で、知り合いの孫という事実が分かっていながら、積極的に口説こうとするとは思えない。
(大抵、こういう男って女性に対する“警戒心”も強い方なのでね・・・)

それでも、果敢にシャーロットにアタックしに行ったことについて、もっと説得力が欲しかったなぁ。
そういう意味では、最初はシャーロットが知り合いの孫であるということを知らずにいた、という方が良かったのかも。

(上映時間105分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ジョアン・チェン
製作 エイミー・ロビンソン
   ゲイリー・ルチェッシ
   トム・ローゼンバーグ
脚本 アリソン・バーネット
撮影 クー・チャンウェイ
衣装 キャロル・オーディッツ
編集 ルビー・ヤン
音楽 ガブリエル・ヤレド
出演 リチャード・ギア
   ウィノナ・ライダー
   ジリアン・ヘネシー
   アンソニー・ラパグリア
   シェリー・ストリングフィールド
   ヴェラ・ファーミガ
   エレイン・ストリッチ
   J・K・シモンズ

2000年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・スクリーン・カップル賞(リチャード・ギア、ウィノナ・ライダー) ノミネート