オースティン・パワーズ:デラックス(1999年アメリカ)

Austin Powers:The Spy Who Shagged Me

97年に世界的に大ヒットさせたマイク・マイヤーズの独壇場とも言える、
下ネタ満載のパロディ・ギャグ主体で描いたスパイ・コメディ映画の第2弾で、こちらもメガヒットとなりました。

今回は一人3役に挑戦したマイク・マイヤーズですが、前作の路線を更にエスカレートさせて、
いろんな意味でこのシリーズの熱烈なファンの期待に応える奮闘ぶりで、ホントにくっだらない(笑)。

前作の下ネタ路線は更にパワーアップしたようで、
当時、ハリウッドでも注目の存在だったヘザー・グレアムもヒロインとして一緒になって、
マイク・マイヤーズの強烈な下ネタに“付き合っている”ような印象で、ピッタリなキャスティングだったのかもしれない。
(個人的には、本作のヒロインには前作のエリザベス・ハーレーの方が合っているようには思ったけど・・・)

映画の冒頭は前作のエンディングの新婚旅行の続きという設定からスタートしており、
なんとか持ち前の“モージョー”の力でヴァネッサを“落とした”オースティンが彼女と結婚し、
新婚旅行で滞在していたホテルでのシーンからスタートで、いきなり実はヴァネッサはロボットで
ドクター・イーブルが送り込んだスパイだったという、トンデモないエピソードから映画が始まります。
これ、前作のほぼ全否定からスタートするんで、面食らっちゃうところもあるのですが、
オースティンがボスに「ヴァネッサが“フェムボット”だったなんて・・・」と、テレビ電話で吐露した途端に
アッサリとボスが「そうなんだ、なかなか言えなくてなぁ・・・」と打ち明けるやり取りが、なんだか面白い。

本作ではタイム・パラドックスを匂わせるSF的要素があるのですが、
正直、そんな難しいテーマをしっかりと内包させるわけもなく、あまり細かな小細工はこの映画にはありません。

マイク・マイヤーズもこの映画で何度か似たようなことを言っていて、
「まぁ、いいや!」...いくらでも複雑化させられそうな内容ではあるのですが、一切欲をかかずに、
どうしようもない下ネタに、『007/私を愛したスパイ』と『007/ムーンレイカー』のパロディに終始します。
ただ、一つ一つのデザインにはセンスが溢れているように感じられて、個人的にはタイムマシンの造形が好きだ。

今度は90年代の宇宙空間に逃亡していたドクター・イーブルが地球に帰還して、
ナンバー・ツーに開発させたタイムマシンを使って、オースティンが凍結保存され、2年間が経過した、
1969年にタイムスリップして、オースティンが片っ端から女性を“落としてしまう”不思議な性的パワーの源である、
“モージョー”を注射器で盗み取ったことから、オースティンもドクター・イーブルの後を追って、69年の時代に
タイムスリップして、現地の協力者であるフェリシティと“モージョー”を取り戻すべく追跡していく姿を描きます。

映画の路線としては前作とほぼ一緒なのですが、
個人的にはやはり第一作のインパクトには勝てないかなぁというのが、正直な本音かな。

まず、映画の冒頭でオースティンが全裸でホテル内やプールを踊りまくる、
オープニング・クレジットのシーンがさすがに長過ぎて、冒頭から全裸ギャグがしつこ過ぎるのが気になる。
まぁ・・・ある種、これはお約束ではあるのですが、クレジットの文字でマイク・マイヤーズの局部を見せないようにする
というのも、なんだか安直な発想のような気がして、全体的に“ネタ切れ”感は否めない作品という印象が強い。

上映時間が短く、アッサリ観れるというのが大きなセールス・ポイントだと、
僕は勝手に思っているのだけれども、元々のギャグの方向性も相まって、賛否は激しく分かれるだろうと思います。
映画製作の基本は前作から変わりありませんが、おそらく製作費は前作よりもかなり増えたのでしょうね。
60年代のロンドンの街並みのセット撮影など、かなり予算を必要とした映画であることは否定できません。

そういったゴージャス感を上手く利用していることは事実なのですが、
相変わらずのマイク・マイヤーズの暴走ギャグはどこかチープで、妙にバランスがとれているのですが、
やはりこのコテコテのギャグの連続は、文化の違いもあるでしょうが、賛否両論になってしまう映画ですね。

本作ではマイク・マイヤーズは一人三役をこなしていますが、
特殊メイクを駆使したファット・バスタードが、ほぼアイデア一発のようなキャラクターで
あまり笑わせてくれる部分が無かったように思える。この辺はマイク・マイヤーズらしくないように思えるなぁ。

まぁ・・・相変わらず次から次へと下ネタが繰り出されるので、
ナンダカンダ言って、これは子供には見せたいと思える映画ではないように、僕でも思ってしまいます。

確かに便の分析など、ある意味でセオリー通りのギャグを差し込んではいるけど、
ファット・バスタードのエピソードは、ほぼ風貌から笑いをとろうとするだけだったので、
こういうキャラで勝負するなら、もっとオースティンで笑いをとって欲しかったかなぁ。
この辺は第1作とまともに比較しちゃうと、どこかパワーダウンは否めないような気がしてなりません。

今回は特にドクター・イーブルの子供として、“ミニ・ミー”を登場させたがために、
新しいキャラクターで笑いをとろうとする意図が、映画全体として過剰になってしまった感があります。
あくまでオースティンとドクター・イーブルの対決の映画なので、そこに固執して欲しかったとは思いますね。

ちなみに映画の途中で、何故か今回はエルヴィス・コステロとバート・バカラックがゲスト出演。

前作でバート・バカラックがベガスで歌うシーンでカメオ出演したことが縁で、
当時、たまたまコステロも Painted From Memory(ペインテッド・フロム・メモリー)というアルバムで、
バート・バカラックとコラボレーション企画を組んでいたこともあって、一緒にゲスト出演ということになりました。
マイク・マイヤーズもハッキリと2人を紹介しているので、かなり目立つ登場でファンとしては嬉しい(笑)。

ひょっとしたら、マイク・マイヤーズも予想外のヒット・シリーズとなってしまい、
こういうゲスト出演は、映画にアクセントを付けられる要素を常に模索していたことの裏返しなのかもしれません。

ヘザー・グレアムもイケイケな感じで、なんだか眩しいですねぇ(笑)。
案外、60年代スウィギング・ロンドンの時代に合っているのかもしれませんが、
マイク・マイヤーズの独壇場になりかねない内容に、彼女の奮闘ぶりは称賛に値する映画だと思います。

そうなだけに、00年代以降に彼女の活躍が続かなかったことが残念でなりません・・・。

(上映時間94分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ジェイ・ローチ
製作 スザンヌ・トッド
   ジェニファー・トッド
   デミ・ムーア
   エリック・マクレオド
   ジョン・ライオンズ
   マイク・マイヤーズ
脚本 マイク・マイヤーズ
   マイケル・マッカラーズ
撮影 ウエリ・スタイガー
編集 デブラ・ニール=フィッシャー
   ジョン・ポール
音楽 ジョージ・S・クリントン
出演 マイク・マイヤーズ
   ヘザー・グレアム
   マイケル・ヨーク
   ロバート・ワグナー
   ロブ・ロウ
   ミンディ・スターリング
   ヴァーン・J・トロイヤー
   ティム・ロビンス
   エリザベス・ハーレー
   クリント・ハワード
   セス・グリーン
   ウェル・フェレル

1999年度アカデミーメイクアップ賞 ノミネート