オースティン・パワーズ(1997年アメリカ)

Austin Powers : International Man Of Mystery

世界征服を狙う悪党ドクター・イーブルを追い詰めつつあった、
英国諜報部員のオースティン・パワーズが自身を冷凍して宇宙空間に逃げ込んだドクター・イーブルを追って、
自らも冷凍保存してもらい、彼らが生きる60年代のロンドンから、90年代に解凍され再び追跡劇を
繰り広げる、マイク・マイヤーズお得意のパロディ・ギャグ、下ネタ満載で描いた大ヒットしたコメディ映画。

劇場公開当時、日本も含めての大ヒットとなった作品で
『ウェインズ・ワールド』などで独特なギャグ・センスには定評があったマイク・マイヤーズでしたが、
本作の爆発的な大ヒットのおかげで、彼の代表作となったほど、影響力の強い作品となりました。

特に99年に製作された第2作『オースティン・パワーズ:デラックス』は
本当に大ヒットしたけれども、個人的にはエリザベス・ハーレーがヒロインだった第1作に一票。

エリザベス・ハーレーは90年代半ばはモデルとして活躍していましたが、
本作のヒロイン役で一気にブレイクし、当時はイギリス人俳優ヒュー・グラントの恋人というイメージで、
ヒュー・グラントにも当時はスキャンダルもありましたので、苦労が絶えなかったのでしょうが、
彼女自身も女優として成功することで、注目度が上がっていったようで、本作との出会いは大きかったのでしょうねぇ。

当時はもっとビッグな女優さんになるかと期待していたのですが、
00年代に入ると仕事をセーブしたのか分かりませんが減っていき、07年に私生活でも結婚したことをキッカケに、
ほぼ映画女優としての仕事はゼロにしたようで、あまり表舞台には出てこなくなってしまいました。

まぁ・・・この映画に中身のあるギャグとかを求めてはいけません(笑)。
言ってしまえば、かなり低俗な“くっだらないギャグ”の連続。独特な内容で、かなり下ネタもキツいので、
合わない人には合わないかもしれません。でも、僕個人としてはたまに観る分には、凄く面白い(笑)。

往年の名シリーズである“007”など、スパイ映画が好きな人であれば、
思わずニヤリとさせられる小道具が満載で、加えて60年代の空気感を象徴するかのような、
サイケデリックでいながら、ポップアートな感覚に満ち溢れた美的センスが、映画を見事に支配している。
(主人公がしきりに「シャガデリック!」と連呼しているのも、妙に可笑しい)

映画の冒頭にある、60年代ロンドンの街角でオースティンが大勢の女性から追いかけられ、
街行く警察官なども巻き込んで、ミュージカル調の踊りに発展するシーン演出も素晴らしく、
時代を切り取るという意味では、マイク・マイヤーズのビジョンが克明に映像化できた代表例ではないでしょうか。

“007シリーズ”や“ナポレオン・ソロ・シリーズ”などスパイものが好きな人だけではなく、
60年代ロンドンのカルチャーが好きな人、特にミケランジェロ・アントニオーニの『欲望』など、
当時のカルチャーを活写した映画が好きな人にも、オススメしたい側面があるんですよね。
意外と言えば意外ですが、この研究ぶりを見るに、マイク・マイヤーズはこの頃のカルチャーが好きなんでしょうねぇ。

ドクター・イーブルと彼の息子とのやり取りもどこか可笑しいのですが、
これは続編にも続いていくから、要注目。本作でも、やたらハグしたがるドクター・イーブルから逃げ回ったり、
食卓で息子を黙らせようと、「シーッ!」と連呼して遊んでみたり、くっだらないギャグの“ダシ”に使われる。

ある意味では、とってもよく出来た映画だとは思うのですが、
一つ一つのギャグが映画の本編にほぼ関係がないというのが、全体的には賛否が分かれるところかも。

個人的にはシュールなギャグなだけに、オースティンがドクター・イーブルの会社の工場に潜入して、
専用のカートでヒロインを送り届けた後に、来た通路を戻ろうとして一生懸命に何度もハンドルをきって、
Uターンしようと試みるも、最終的には通路の壁に挟まれて動けなくなってしまうギャグとか、
オースティンとヒロインがほぼ全裸になってホテルの部屋を動き回るも、お互いに計算された動きの中で、
必死になって局部や胸を隠すという、どうでもいいようなところばかりに労力を費やすシュールさが凄く好きだ(笑)。

加えて言うなら、ドクター・イーブルが独特な笑いを仲間たちとするシーンにしても、
妙に長くシーンを回し、通常ならカットするような“間”を敢えて映すというのも、なんだか可笑しい。

音楽に対するこだわりも凄くって、エンド・クレジットのバンド演奏もどきもそうですが、
映画の中盤では何故かバート・バカラックがピアノ演奏で登場するというサプライズにもビックリだ。

これはマイク・マイヤーズの人脈なのか、はたまたプロデュースで参加したデミ・ムーアの力なのか、
僕にはサッパリ分かりませんが、実に多くのセレブリティの助力があってこそ、このゴージャス感が生まれたんですね。

よくよく観てみると、映像的な華やかさはないわけではないのだけれども、
往年のスパイ映画を踏襲するかの如く、明らかなセット撮影というのも目立つし、
爆破シーンなどは他の映画からの引用と思われる映像もあり、そこに加えて多くのゲスト出演でノー・クレジット。
撮影自体には実はそこまでお金がかかっていないのかもしれませんが、これはなかなか実現できないものですね。

全体的な作りはチープで、笑いはベタベタなパロディ・ギャグに下ネタの連続。
まぁ・・・観る前に、“そういう路線”の映画だという理解がないと、これはしっかりと楽しめないでしょうね。

上映時間は90分弱と、とても短いので、
冒頭のクインシー・ジョーンズ作曲の Soul Bossa Nova(ソウル・ボサノヴァ)のテーマからエンジン全開!
マイク・マイヤーズは次から次へと、ギャグを繰り出していき、勢いそのまま最後まで乗り切ってしまいます。
そうなだけに観る人によっては、あまりに一方的なギャグの連続に本作の波にノレない人もいるかもしれませんね。

ちなみにドクター・イーブルの会社の実質的経営者であるナンバー・ツーを演じた、
ロバート・ワグナーは今は亡き事故死した女優ナタリー・ウッドの夫で、殺人の疑惑をかけられた張本人。
もう35年以上前の事案であるにも関わらずスキャンダルに見舞われたロバート・ワグナーですが、
以前から様々な憶測が報じられていた事案なだけにナイーブな内容で、警察の聴取は拒否しているようだ。
今後、どのように捜査が展開されるか分かりませんが、88歳という高齢ながらもキャリアに影響するかもしれませんね。

個人的には3作製作された大ヒット・シリーズですが、
ありがちな話しですが...やはり本作、第1作が最も良く出来たコメディであったと思います。

あまり頻繁に観えてはいけません。
「こういうものだ」と割り切って、個人的にはたまにユル〜く観る分に何故かフィットする不思議な一作なのです。

(上映時間89分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジェイ・ローチ
製作 デミ・ムーア
   マイク・マイヤーズ
   ジェニファー・トッド
   スザンヌ・トッド
脚本 マイク・マイヤーズ
撮影 ピーター・デミング
音楽 ジョージ・S・クリントン
出演 マイク・マイヤーズ
   エリザベス・ハーレー
   ロバート・ワグナー
   マイケル・ヨーク
   ミミ・ロジャース
   セス・グリーン
   ファビアナ・ウーデニオ
   ミンディ・スターリング
   ポール・ディロン
   ウィル・フェレル
   クリント・ハワード
   トム・アーノルド
   キャリー・フィッシャー