オースティン・パワーズ:ゴールドメンバー(2002年アメリカ)

Austin Powers In Goldmember

マイク・マイヤーズが大活躍の人気シリーズ第3弾。これもまた、大ヒットしました。

しっかし、この映画は冒頭の約8分間のオープニング・クレジットに、
一体いくらお金をかけたんだと聞きたくなる大盤振る舞いで、凄いゴージャスなオープンニングだ。
人気シリーズの『ミッション:インポッシブル』を想起させるような大迫力のスタートで、
何故かオースティンを題材にした映画をスピルバーグが撮るという設定で、その主演俳優がトム・クルーズ、
ヒロイン役としてグウィネス・パルトロウがキャスティングされているということで、全員が本人役でゲスト出演。

いつもミュージカルな出だしなんですが、今回はとにかく豪華。
まぁ・・・マイク・マイヤーズの人脈なんでしょうけど、本シリーズのプロジェクトが巨大化した証拠でしょうね。
前作もゲスト出演が凄かったけれども、おそらく本作が最大の大盤振る舞いだったでしょうね。

言ってしまえば、第1作は『女王陛下の007』や『007/私を愛したスパイ』へのオマージュで、
第2作は『007/ムーンレイカー』へのオマージュとして解釈するならば、本作はタイトル自体は
『007/ゴールドフィンガー』ですが、映画の中身自体は『007は二度死ぬ』へのオマージュですね。

日本は東京を舞台にした、どこか時代錯誤な世界観の東京が描かれてますけど、
あくまでこれはパロディ映画として考えると、これは寛容的に観てあげないととは思いますね。

何故か、飛行場の滑走路から富士山や東京の街並みが間近に見えたり、
両国国技館(アサヒ?)の升席が椅子になっていたり、相撲の行事がプロレスのレフェリーみたいに描かれたり、
随分と彼らの都合良く歪曲されているので、この辺は事前に理解した上で観なければならないと思いますね。
そういう意味で考えると、『007は二度死ぬ』もヘンテコな日本の描写でしたが、あれはあれで作り手が
彼らなりに日本のことを研究して、真剣に描いていたんだなぁと妙に納得させられちゃいますね(笑)。

まぁ、同じクオリティをマイク・マイヤーズに求めても仕方ないので(笑)、
やはりマイク・マイヤーズの芸風や本シリーズの性格に対する理解は必要だということですね。

本作はこれまでのシリーズとスタッフをほぼ入れ替えてきておりませんので、
これは恵まれていたことですね。前作の修正すべき点は修正しながら、基本路線はブレていないですね。

ただ、この映画、スゴ〜く不満なのはヒロインとして登場したビヨンセの扱いです。
彼女のファンにとっては、これで満足なのかもしれないけれども、マイク・マイヤーズは彼女をどういう風に
描きたかったのかが、サッパリよく分からない。ヒロインに関しては、前2作と比較すると劣ってしまいます。
でも、決してこれビヨンセが悪いということではなく、演出アプローチとしての問題が大きいと思いますね。

それに、映画の冒頭とエンディングで本人役としてゲスト出演しているブリトニー・スピアーズ。
ある意味では、よく彼女自身、こんなゲスト出演を喜んで受けたなぁと感心させられるぐらいなのですが、
結果的にビヨンセよりもブリトニー・スピアーズの方が遥かにインパクトが残ってしまっている気がします。

これでは、ホントのヒロインであるはずのビヨンセがあまりに可哀想です。
当時、既にビヨンセだって大スターだったわけで、話題性としてはブリトニー・スピアーズの方が
当時は大きかったかもしれませんが、こういう結果となってしまっては本末転倒と言っても過言ではありません。

半分、“楽屋オチ”みたいなストーリーとなっているので、
マイク・マイヤーズは本作でシリーズを終わらせるつもりだったのでしょうし、事実として本作以降の続編は
製作されていないですから、計画された内容ではあったのでしょうけど、これまでのシリーズと比較すると、
オースティンとドクター・イーブルの攻防もイマイチで、特にドクター・イーブルのキャラクターの面白さが
あまり映画の中で光ることがないまま終わってしまったのも、どこか物足りない印象を残してしまう原因かもしれない。

今回はオースティンの父親役として、イギリスの名優マイケル・ケインが出演していますが、
おそらく彼は自身の代表作である、“バリー・パーマー・シリーズ”のシルエットをそのまま踏襲しているのでしょう。

コメディ演技にも定評があるし、どこか胡散臭いキャラクターの魅力を上手く生かしているけど、
本作で新たに登場させたキャラクターの面白さとしては、このマイケル・ケイン以上のインパクトはない。
やはりこういう結果から考えても、ビヨンセ演じるヒロインの描き方はとても重要であったと振り返られる。
キャラクターの面白さでで勝負している側面もある本シリーズにとっては、致命的なミステイクであったとさえ感じる。

そのせいか、マイク・マイヤーズ自身も悩んだ結果であったのかもしれません。
映画を観ていても、これ以上キャラクターの魅力で映画を進めることに限界を感じていたように思えます。
だからこそ、本作でシリーズが止まってしまったのかもしれません。そのせいか、本作の面白さが冒頭の
豪華なオープニング・クレジットとなってしまっていて、このミュージカルに優るものが出せなかった。
これでは映画が一向に光るものを発することができないのです。そういう意味では、残念な作品なのかなぁ。。。

まぁ・・・とは言え、シリーズ最終作にしようと思って撮った分には、これが最良の終わり方だったのかもしれません。
ドクター・イーブルとの攻防に勝ち負けをつけず、上手く世代交代を描いて終わることができたのですから。

しっかし、オースティンとドクター・イーブルの学生時代が少しだけ描かれるのですが、
何気によく似た子を探してきたのか、妙にリアリティ溢れる回想シーンに仕上がっている。
個人的には地味にスゴいと思う。ここまで似た子を見つけてこれること自体、珍しいことですから。

相変わらずの強烈な下ネタはありますが、そのギャグ一つ一つは前作までと比べると、
確実にパワーダウンしてきており、本作のアクの強さが好きになれなかった人には優しい内容かもしれません。
賛否はあるかと思いますが、個人的にはこういうふざけた映画を楽しめる時代であって欲しいと思ってます。
そういう意味では、こういう方向性の映画が最近になって、目立たなくなってしまったことが残念でなりませんね。

やたらと豪華なゲスト出演を実現させたり、無駄に贅沢にお金をかけたり、
これはこれでハリウッドの力です。全てがこういう映画というのは、それはそれでどうかと思いますが、
こういう贅沢な遊び心に対しても、寛容な時代であって欲しいと思うのですが、特にハリウッドでは「9・11」以降、
どこかこういうタイプの企画に対しては、風当たりが強い時代になってしまったのかもしれませんね。

クインシー・ジョーンズを紹介するオープニング・クレジットのミュージカル・シーンなんて、
スクリーンから違和感なく出てきて、スクリーンに戻っていくマイク・マイヤーズを映したヴィジュアル・センスなんかは、
良い意味で目を見張る素晴らしいセンスではないかと、新鮮な驚きもある映画ではあるだけに、勿体ないんだよなぁ。

(上映時間94分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ジェイ・ローチ
製作 ジョン・S・ライオンズ
   エリック・マクレオド
   デミ・ムーア
   マイク・マイヤーズ
   ジェニファー・トッド
   スザンヌ・トッド
脚本 マイク・マイヤーズ
   マイケル・マッカラーズ
撮影 ピーター・デミング
音楽 ジョージ・S・クリントン
出演 マイク・マイヤーズ
   ビヨンセ・ノウルズ
   マイケル・ヨーク
   セス・グリーン
   マイケル・ケイン
   ロバート・ワグナー
   フレッド・サベージ
   ミンディ・スターリング