8月の家族たち(2013年アメリカ)

August : Osage County

個人的には、観る前には勝手にもっとヒューマンな映画かと思っていたのですが、
いざ本編を観てみると、中身は全く違う感じでドギツい家族のやり取りが主体のブラックな内容でビックリした。

監督はかつて人気テレビドラマの代表格であった『ER −緊急救命室−』でプロデュースを担当した
ジョン・ウェルズで2010年の『カンパニー・メン』から、活動の舞台を映画にスライドさせていたようです。

まぁ・・・いろいろな意見があるとは思うけど...映画の出来自体は、悪くはないと思う。

ただね、これは正直、精神的に落ち込んでいるときは避けた方がいいタイプの映画だと思う。
とてもじゃないけど安らぎとか、平穏とかそういった感覚とは程遠い家族を描いた作品であり、少々気が滅入ってくる。
それくらい、感情を剥き出しにしてぶつかり合う内容の映画ですし、家族のパーソナルな問題が次々と山積する。
あくまで平和に生きたい、何らかの感動を得たいと思っている人が、本作を選ぶことはハッキリ言って不適当です。

それくらいに感情的に抑え切れない部分を多く内包する映画であって、かなり一方的な内容でもある。
これは決して理不尽なことを描いた作品ではないのですが、あまりに観ていてしんどいと感じる内容なんですね。
往々にして、家族の問題って深刻化することがあるものだし、生きているので何か悩みを抱えていることは多い。
それでも、直視して生きなければならない人々が集まるわけですが、それぞれにあまりに多くの問題を抱え過ぎです。

豪華キャストな映画なのですが、母親を演じたメリル・ストリープは舌癌に侵され、
痛み止めと精神的な安定を得るために、医師から処方された薬を乱用した結果、ほとんど薬物中毒状態。
この医師も、患者の言いなりになる典型的な“悪い医者”で、彼女の病状が良くなるはずもなく、薬漬けにしてしまう。

薬物に溺れるかのようになり、精神的に荒れてしまった妻を見て、
父親である彼女の夫は、ネイティヴ・アメリカンを出自とする女性を家政婦として雇い、突然、蒸発してしまう。
そんな父が失踪したという一報を聞きつけ実家に帰って来た人々は、それぞれに大きな問題を抱えている。

父に愛されていたとされる長女は、母との折り合いが悪く、顔を合わせればケンカになってしまうが、
一方で癌に侵されたという境遇には同情しており、孫にあたる長女を連れて帰省してくるものの、平穏に過ごせません。

一見すると順調に成長しているように見える長女の娘は、実はマリファナを常用している高校生で
同居していることになっている大学職員の夫とは、実は別居していて、かつて夫に浮気された過去を持つ。
自分の家庭の問題を解決できずに、母との軋轢、自身の家庭の問題を抱え込み、常にイライラしてしまいます。

次女は自宅の近くで一人暮らしの独身ですが、母親の話し相手になりながらも、
新たな生活に進みたいという気持ちが強く、実は従兄弟と恋愛関係になり、家族に告げられないジレンマを抱えている。

そんな彼女たちの抱える問題がなかなか解消できないまま映画が進み、
薬物中毒に陥っていた母親を救い、癌との闘病に加えて、父の失踪と次から次へと問題が山積していきます。
「実はこんな秘密があって・・・」と家族の様々な問題が畳み掛けられるので、映画がドンドン重たくなっていきます。
でも、どこかでそんなシチュエーションをシニカルに見ている面があって、ある種のブラック・ユーモアなのかもしれない。

映画の尺も2時間くらいあるので、この繰り返しが延々と続く感じなので、お世辞にもポジティヴな映画ではない。

僕の中でビックリしたのは、これらの山積した問題のほとんどがトッ散らかったままで映画が終わることだ。
敢えて解決させないことで、ラストの皮肉なシチュエーションを引き立たせたかったのかもしれませんが、
仮に処方された薬の影響で、母親が情緒的におかしくなってしまったのなら、このラストはなんとも可哀想に映る。

家族の存在というのは有難いものであり、近い存在であるがゆえに問題化すると、とても厄介なものだと思います。
良い時があるからこそ、“変化”を望まないことが多くなるし、良い時とのギャップから感情的になってしまったりする。
そして一家の大黒柱であった父も、大きな秘密を抱え、実は大きな決断を下していたというのは、罪深くもあると思う。

正直言って、僕にはこの原作も含めて、何をどう描きたかったのかが分からなかったのだけれども、
この混沌としたまま映画が終わっていく感覚は、なんとも不思議なものであって、なかなか無いタイプだと思った。
そういう意味で本作は実に複雑で、考え方によっては実に奇妙な映画だ。もう少しタイトにまとめて欲しかったけど。。。

さすがに豪華なキャストを集めただけに、芝居合戦だけでも見応えは十分にあるとは思います。
主演のメリル・ストリープはやっぱり何を演じさせても上手いし、それがオーヴァーアクトに感じられないところがスゴい。
長女役としてメリル・ストリープとぶつかり合うジュリア・ロバーツも、すっかりベテラン女優の風格が漂う雰囲気だ。
そして、孫役のアビゲイル・ブレスリン。『リトル・ミス・サンシャイン』の女の子が、ここまで成長したのかと驚きだ。

そして、女優陣だけではなく今は亡きサム・シェパードが失踪した父を演じ、
映画の序盤だけではありますが、強いインパクトを残しているし、優しい叔父を演じたクリス・クーパーも素晴らしい。
特に映画の後半で、それまで妻の嫌味に耐えてきた彼も、息子が理不尽かつ一方的に母親に罵倒されているのを
諫めるシーンがありますが、この後に家の外に出て、なんとも言えない後ろ姿をロングショットで捉えるのが良い。

群像劇という観点からも、これぞアンサンブルと言える役者陣の頑張りが本作を支えていますね。

しかし、だからこそジョン・ウェルズは本作を映画化する上で、もっと個性を出したかったところ。
なんとも個性的な映画で、原作も面白いのだろうけど、どうせ“壊れていく”なら、もっとハッキリと描いて欲しかった。
家族の絆が脆くも崩れる瞬間を、もっと明確にしっかりと描いていれば、本作の立ち位置がハッキリしたでしょう。
結局、シリアスに家族が崩壊していくことを描きたかったのか、ブラックかつシニカルに描きたかったのか、
映画の立ち位置をハッキリとさせなかったことは、僕が思うに本作にとってはマイナスでしかなかったと思う。

久しぶりに集まった家族だったのに、それぞれに問題を抱えていて、常に苛立っている状況。
顔を合わせれば嫌味を言い合い、お互いに感情をぶつけ合ってばかりで、全てが極論のような議論にしかならない。
もっと冷静になっていれば、こうはならなかったということを、制御不能な暴走気味に展開させたという中身であって、
いっそのこと僕はもっとハッキリと破綻していく様子を、まざまざと観客に見せつけるような内容であって欲しかった。

かつてこの手の映画って、多くありましたけど、ここまでタフな内容の映画ってそうそう無いですからね。
だからこそ、もっと映画の方向性をハッキリと打ち出して、大胆にブラックなエッセンスを含ませた方が良かったと思う。

本作の原作はそんな直視し難い家族の現実を投影した部分が特長だったのでしょうから、
この家族の間で罵り合ってしまい、感情的になって食って掛かるようなやり取りの連続に、少々疲れてしまう。
まぁ、平和主義な人や楽しく平穏に過ごしたいという人には、内容的にキツい映画なので、ある程度の覚悟は必要です。

メルリ・ストリープ演じる母親は舌癌との闘病に加えて、初期の認知症が見られると診断されてましたが、
確かにここまで感情が抑えられないというのは、薬の服用の影響だけではないのかもしれません。
本人も苦しいし、そんな感情剥き出しの母親と向き合わなければならない子も、精神的に大変な重荷でツラいもの。
でも、難しいことに他人が介入することはなかなか難しい。誰にでも起こることであり、多くの方々が悩んでいることだ。

この映画は敢えて、そういったことに目を背けずに現実を直視しつつ、エスカレートする皮肉を描いたのでしょう。

あまり話題にはあがりませんが、ジュリエット・ルイスのフィアンセの会社経営者を演じた、
ダーモット・マローニーが胡散クサい予想通りの軽薄なキャラクターで、映画を上手にかき乱してくれる。
分かり切った役柄ではありますけど、豪華な女優陣の競演を引き立たせるキャラクターで良かったと思いますけどね。

正直言って、こんな結末を迎えるとは全く予想していなかっただけに、
本作のラストの後に、この家族がそれぞれどうなっていくのか、僕にはとても興味が湧いてきました。
とは言え、こんな調子の続編をまた見せられるのもしんどいので、なんとか平和に解決して欲しいのだけれども・・・。

しかし、前述したように壊れていく家族を描いた映画であるからこそ、
敢えてそんな安っぽいラストを描くことはせずに、徹底して突き放したというのが本作の魅力なのでしょうね。
こういう映画を観ると、少しは家族や(他人にも・・・)優しくしようという気持ちにはなれるかもしれませんね。

ちなみに家政婦を演じたミスティ・アッパムはこの翌年の2014年に他界しており、
失踪した父を演じたサム・シェパードも、2016年に筋萎縮性側索硬化症により他界してしまいました。

(上映時間120分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ジョン・ウェルズ
製作 ジョージ・クルーニー
   グラント・ヘスロヴ
   ジーン・ドゥーマニアン
   スティーブ・トラクスラー
脚本 トレーシー・レッツ
撮影 アドリアーノ・ゴールドマン
編集 スティーブン・ミリオン
音楽 グスターボ・サンタオラヤ
出演 メリル・ストリープ
   ジュリア・ロバーツ
   ユアン・マクレガー
   クリス・クーパー
   アビゲイル・ブレスリン
   ベネディクト・カンバーバッチ
   ジュリエット・ルイス
   マーゴ・マーティンデイル
   ダーモット・マローニー
   ジュリアンヌ・ニコルソン
   サム・シェパード
   ミスティ・アッパム

2013年度アカデミー主演女優賞(メリル・ストリープ) ノミネート
2013年度アカデミー助演女優賞(ジュリア・ロバーツ) ノミネート
2013年度ネバダ映画批評家協会賞主演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞