死刑台のエレベーター(1957年フランス)

Ascenseur Pour L'echafaud

これはマイルスのトランペットが支えている映画ですね(笑)。

いや、でも...思わず、そう言いたくなるほど、この映画での演奏は素晴らしい。
伝えられている伝説ではマイルスは事前にこの映画を観ていたわけではなく、
試写フィルムを目の前で観ながら、トランペットを抱えて、その場で即興演奏をし、
そのままレコーディングした音源を映画で採用したらしく、このセッションはホントに伝説と言っていい。

フランス映画界の名匠で、後に数多くの名作を手掛けたルイ・マルが、
若干25歳とは思えない老練した素晴らしい映画の出来で、とてもこれがデビュー作とは思えません。

正直言って、本作はエキサイティングで魅力的な作品とは言い難いです。
しかしながら、この映画の味わい深さは格別なもので、僕は観るたびに新鮮な感覚に浸ります。
そして何度観ても唸らせられてしまうのは、やはり写真の現像で見せるラストシーンの鮮やかさで、
これは当時としては、実に斬新な発想のラストシーンではなかったのだろうかと察せられますね。

また、映画の冒頭で映されるジャンヌ・モローの色っぽさときたら凄くって(笑)、
撮影当時、28歳ぐらいだったと思うのですが、さすがは会社社長夫人という設定なせいか、
とても20代とは思えない優美な空気を持っていて、アップカットが実に美しい。これは女優冥利に尽きるだろう。

まぁ・・・今でも、稀にマスコミの前に現れたときに見せる彼女は
十分にキレイなのですが、この頃はホントに大人の女性の魅力を見事に発散させていますね(笑)。

日本では本作の人気は根強く、過去に何度も舞台劇として上演されており、
勢い余って(?)、2010年には同名タイトルの映画がリメークされ、話題になったことが記憶されます。
(残念ながら、あまり特大ヒットにならなかったことに加え、映画の評判は芳しくなかったけど・・・)

映画は言わば、完全犯罪を描いているのですが、
雇われている貿易会社の社長カララの若き妻と愛し合う不倫関係になった主人公が、
カララ夫人と共謀して、カララ本人を自殺に見せかけて殺害することを計画し、実行に移します。

計画ではカララを殺害した後、主人公ジュリアンは車に乗り、近くのカフェでカララ夫人をピックアップし、
2人で逃亡する予定だったものの、車に乗りかけたジュリアンは一つ、大きなミスをしたことに気づきます。

週末を迎え、間もなく電源を落とそうとされていたビルディングに入り、
カララのオフィスにエレベーターで向かうものの、守衛が電源を落とし、エレベーターも停止したことから、
映画は急激に様相を変え、動き出します。カフェで待てどもジュリアンがやって来ないことに苛立ち、
思わずジュリアンが他の若い女性と浮気して逃げてしまったのではないかと疑う姿が痛々しい。

ジュリアンもカララ夫人に対する思いを捨て切れないあたりを見るに、
おそらく2人はホントに愛し合っていたのでしょう。しかし、2人の運命はとても皮肉なものでした。
やはり男女の出会いというものは、そのタイミングがとても重要なのですね。
所詮はジュリアンとカララ夫人は、真実の愛を語るには、タイミングが悪過ぎたのでしょう。

映画はこの2人の罪深くも、悲しい愛が招いた皮肉な2つの殺人を描いています。

もう一つの殺人とは、ジュリアンのオープンカーを奪った若者カップルで、
2人はまだまだ子供で、あまり強い動機・目的がないまま、ハイウェイを走らせます。
挑発的な運転をしてきたドイツ人の旅行者の夫婦に目を付け、チョットした挑発を受けたがために、
短絡的にドイツ人夫婦を殺害してしまう若者は、警察の追跡から逃げる覚悟もありません。

一体、何に苛立ち、何を目的に行動しているのか、まるでよく分からない若者ですが、
おそらくルイ・マルはこれもまた、運命の皮肉と捉えているのでしょうね。
そして、そんな皮肉が不思議にもジュリアンの罪として報道され、捜査が進むというのも皮肉ですね。

そしてカララの死は自殺として考えられ、これはジュリアンらの思惑通りに進んだというのも皮肉だ。
今ではフィルム・ノワールの典型例なのですが、本作でルイ・マルはそのスタイルを強く打ち出していますね。
色々と影響を与えた作品はありましたが、本作は世界的な認知を決定付けた作品だと思いますね。
そういう意味では本作でのルイ・マルの仕事は、ホントに価値のある仕事だったと思います。

フランスはアルジェリアなど北アフリカから渡航してくる人々が多く、
特に南部の地方では移民も数多くいましたから、黒人たちの音楽との接点は多かったようで、
ジャズも浸透するのが早かったようで、本作の頃から“シネ・ジャズ”というムーブメントがあって、
セロニアス・モンクの曲を使った59年の『危険な関係』なんかも、同じ潮流なんですね。

本作でのマイルスのセッションはまるで一枚ずつスケッチを描いているかのようで、
1シーンごとに直感でインプロヴィゼーションを展開しており、これは彼のスタイルを貫いた結果ですね。
本作とマイルスを引き合わせたスタッフって凄いですね。この相乗効果はホントに価値があると思います。

まぁ・・・初めに「マイルスのトランペットでもっている映画」とは言いましたが、
僕は本作でのルイ・マルの演出は立派なものだと思っていて、一貫したスタイルを貫いて、
徹底してフィルム・ノワール特有のダルい空気を作り上げているのは、実に見事な仕事っぷりだと思いますね。
やはりホントに力がある映像作家というのは、こういう風に映画の空気を作り上げることができるんですよね。

このサントラは今尚、根強い人気を誇る名盤になっているのですが、
やっぱり映画で観た方が映える演奏なんですね。そういう意味では、ルイ・マルも良い仕事してるんです。

やはりこのラストシーンを考えたルイ・マルは凄いと改めて実感しますねぇ〜。

(上映時間91分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 ルイ・マル
製作 ジャン・スイリエール
原作 ノエル・カレフ
脚本 ロジェ・ニミエ
    ルイ・マル
撮影 アンリ・ドカエ
音楽 マイルス・デイヴィス
出演 モーリス・ロネ
    ジャンヌ・モロー
    ジョルジュ・プージュリー
    リノ・ヴァンチュラ
    ジャン=クロード・ブリアリ