アポロ13(1995年アメリカ)

Apollo 13

アポロ計画の中で、人類初の月面着陸に成功したアポロ11号の快挙の翌年、
継続されたアポロ計画の次なるミッションを携えて、再び月面着陸を試みることになったアポロ13号。
3人の宇宙飛行士を乗せた宇宙船にトラブルが発生し、極限に達したピンチから地球への帰還を試みる姿を
実際に乗っていた宇宙飛行士ジム・ラベルの原作を基に、ロン・ハワードが映画化したヒューマン・ドラマの力作。

確かに力の入った、良い仕上がりの映画だと思う。
ただ、敢えて最初に言っておくと、僕にはそこまで強く揺さぶるものを感じられなかった。
ひょっとすると、同じロン・ハワードの監督作品として94年の『ザ・ペーパー』の後ということもあるかもしれない。

勿論、『ザ・ペーパー』と本作は全くジャンルの異なる作品であり、
そもそも自分の映画に於ける嗜好性の違いというだけで、本作も映画として優れているのでしょう。

ただ、どことなく映画全体のテンポの良さとか、次々と畳みかける感じではなくって、
どこか僕の観たかったアポロ13号の事故を描いた映画というのと、少々かけ離れた部分があったのかもしれない。
それは、ジム・ラベルの事実に基づいた原作を映画化するという制約もあったので、敢えてドラマティックな演出は
避けて、シンプルに描いただけでしょう。むしろこの方が、ジワジワとくる感動というものがあるのでしょう。

半ば、分かり切ったラストであるとは言え、このラストの味わいは決して悪くない。
爽快感すらあるラストであり、この辺はロン・ハワードというディレクターの手堅さを感じさせます。
やっぱり90年代のロン・ハワードって、ホントにスゴい活躍ぶりだったと思います。後にオスカー監督になったのも納得。

映画の前半にあるアポロ13号の発射シーンは、凄まじい迫力で素晴らしい。
凄まじいエネルギーで打ち上げられるだけに、摩擦や激しい振動で色々な残骸が落下したり、
凄まじい音を立てて、ゆっくりと宇宙船が発射台から飛び上がって行くのを、じっくりと堂々と描くのは素晴らしい。
これは単にロン・ハワードの憧れというだけではないだろう。スタッフ全員の熱い情熱を感じさせる素晴らしい迫力だ。

宇宙に出てからのシーンにしても、実際に無重力空間を作って撮影したくらい、
当時既にCGの技術もそれなりの水準であったところを、敢えて本物にこだわった撮影を敢行しています。
この辺はロン・ハワードらしいところだと思いますし、CGいっぱいのSF映画と一緒にされたくはなかったのでしょう。

しかし、アポロ11号のアームストロング船長の「私の一歩は小さいが、人類にとって大きな一歩だ」と
名言を残して、後世まで語り継がれるというのは、あくまで人類初の月面着陸だったからというのがあったわけで、
僅か1年しか経過していないアポロ13号の宇宙遊泳は、既に視聴率が取れないからとテレビ中継されずに
主人公のジムらが興奮して、アメリカ国民に船内の様子を中継しようと張り切る姿は、NASA職員と家族だけが
観ていて、実はアメリカ全土にはテレビ中継されていなかったという、なんとも切ないエピソードが興味深い。

やはり時代は急速に劇的な変化を遂げていた時代であり、人々の興味が移り変わるスピードも
今とは比べものにならないくらい、強烈に速かったのかもしれません。1年ごとに時代の変化が分かる頃だったのか、
アメリカ、いや地球の至るところで宇宙飛行が注目を集めていたのにも変わらず、僅か1年で終息したのは切ない。

幼い頃からの憧れであり、月面着陸を夢見ていた宇宙飛行士たちからして、
このような扱いを受けるとは想像もしていなかっただろうし、その事実を知った家族もツラかったでしょう。

映画はアポロ13号にトラブルが発生してから、ヒューストンの指令センターと船内のやり取りがメインになります。
ヒューストンの指令センターでは、エド・ハリス演じる主任管制官のフレッドが多くの職員を従えて最終判断を下す。
技術者はたくさん待機しているものの、船内の状況を正確に把握することは難しく、経験の無い事故への対処だ。
これはアポロ13号に乗っていた飛行士たちは当事者であるから勿論だが、フレッドにとっても大きなプレッシャーだ。

劇中語られていた通り、このアポロ13号の事故自体は「NASA最大の失敗である」と
事故対処当時は考えられていたが、フレッドは「むしろこれはNASA最大の成功である」と前を向きます。
つまり、このような危機を脱するために適切な対処を行ったことがあるという経験自体が、成功体験であるという発想だ。

まぁ・・・現代で言う、「失敗学」のような分野に近いと思うのですが、
フレッドが言っていたことは一理あり、実際に今もNASAではアポロ13号の事故を前向きに捉えているようですが、
これを経験したことで再発防止は勿論のこと、幾重にも危機を脱する策を講じるという安全体制の構築に
役立ったことは事実でしょうし、現代の宇宙工学や事故対応の観点では、とても良い教材になっているのでしょう。

皮肉にも、アポロ13号のクルーが月面着陸を目指すというだけでは見向きもしなかったメディアが
史上最大の危機に瀕しているとNASAが発表した瞬間に、報じ始めるというのが如何にもマスコミらしい。
こういうスタンスって、今も昔も変わらないですね。嫌味になっちゃうかもしれませんが、未だにこんな感じですからね。

こういうマスコミをシニカルに描くというのは、ロン・ハワードは映画の中でよくやることで、
それを大々的に映画のメインテーマとして扱ったのが、98年に製作したコメディ映画『エドtv』でした。
そう考えると、やっぱり本作って如何にもロン・ハワードの映画って感じですね。彼のエッセンスが多く含まれている。

キャスティング的には申し分なく、それぞれが良い仕事をしている。
ただ、ジム・ラベルを演じた主演のトム・ハンクスはコメディ映画中心から、本作のようなドラマにシフトし、
徐々に定着してきた時代で、この手のキャラクターが定番化しつつあるところで、良くも悪くも想像の範囲内という感じ。

本作劇場公開当時、『フィラデルフィア』、『フォレスト・ガンプ/一期一会』に続いて、
3年連続のアカデミー主演男優賞最有力と言われていたと記憶していますが、ノミネートもされませんでした。

ただでさえ2年連続の主演男優賞獲得自体が、快挙だったことでアカデミーも消極的だったのかもしれませんが、
僕は確かに本作のトム・ハンクスは、そこまで良いとは思わなかった。もう少し控え目に演じても良かったと思います。

今や宇宙ステーションに長期滞在したり、訓練を受けた民間人が宇宙旅行を楽しむ時代です。
しかし、宇宙を身近に感じる時代になるに至るまでに、様々な技術の進展や現象の解明が進んだこともあるわけで、
ジム・ラベルのような先人たちの幾多の苦労と、失敗、そして成功体験が積み重なって今があることは間違いないです。
アポロ計画の向こう側には、アメリカとソ連の冷戦という大きなキーワードがあり、未だに尚、国家間の宇宙開発競争が
続いている状態ではありますが、この先、50年で宇宙開発の分野はまた大きな進展を遂げるのではないかと思う。

そういう意味でも本作を映画化したことは価値があったことなのでしょう。
言わばパイオニアを主人公にした映画であって、アポロ計画に於ける重要な出来事を正攻法で映画化しています。
(例えば『ライトスタッフ』のように、アポロ計画の余波とも言うべきフィクションを映画化した作品も何本かある)

経験の無いトラブルに見舞われ、絶体絶命のピンチに陥り、
且つ技術屋がいて指令を出すのはヒューストンの航空センターで遠隔指示を出すという、なんとも難しい状況。
選択肢も数少なく、時間も限られるという過酷な条件で如何にピンチを脱するかについて、実に克明に描けた作品です。

ゲーリー・シニーズ演じるケンが司令船の構造について、技術的に精通しているという設定ですが、
彼が風疹を持っていると診断されたために、アポロ13号に乗務できなくなり、てっきり途中退場なのかと思いきや、
映画の後半では大活躍するという展開が嬉しい。これが実話というのも凄い話しで、結局、ケンは発症しなかったらしい。

まぁ・・・当時はこういった医師の診断による乗務停止というのは、
飛行士たちの夢を阻害するものとして歓迎されなかっただろうが、今になって思えば、
宇宙船内での感染対策など難しいし、治療する施設も無いので、適切な判断だったのかもしれないですね。

少々長いことがネックではありますが、一度は観ておきたい充実したエンターテイメント大作ですね。

(上映時間139分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ロン・ハワード
製作 ブライアン・グレイザー
原作 ジム・ラベル
   ジェフリー・クルーガー
脚本 ウィリアム・ブロイルズJr
   アル・ライナート
撮影 ディーン・カンディ
美術 デビッド・J・ボンバ
   ブルース・アラン・ミラー
音楽 ジェームズ・ホーナー
出演 トム・ハンクス
   ケビン・ベーコン
   ビル・パクストン
   ゲーリー・シニーズ
   エド・ハリス
   キャスリン・クインラン
   ローレン・ディーン
   クリント・ハワード
   トム・ウッド
   メアリー・ケイト・シェルハート

1995年度アカデミー作品賞 ノミネート
1995年度アカデミー助演男優賞(エド・ハリス) ノミネート
1995年度アカデミー助演女優賞(キャスリン・クインラン) ノミネート
1995年度アカデミー脚色賞(ウィリアム・ブロイルズJr、アル・ライナート) ノミネート
1995年度アカデミー音楽賞<オリジナルドラマ部門>(ジェームズ・ホーナー) ノミネート
1995年度アカデミー美術賞 ノミネート
1995年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート
1995年度アカデミー音響賞 受賞
1995年度アカデミー編集賞 受賞
1995年度イギリス・アカデミー賞プロダクション・デザイン賞 受賞
1995年度イギリス・アカデミー賞特殊視覚効果賞 受賞