N.Y.式ハッピー・セラピー(2003年アメリカ)

Anger Management

日本では拡大規模ですら公開されなかったみたいですが、
相変わらず全米で大人気のアダム・サンドラー主演作なせいか、本作は全米で大ヒットしたそうです。

ベテラン実力派俳優ジャック・ニコルソンとアダム・サンドラーの競演という、
ある意味では夢のような顔合わせを実現した作品ではありますが、ひたすら災難に見舞われる、
アダム・サンドラーはむしろ振り回されるだけの役柄で、本作はジャック・ニコルソンがノリノリな怪演。

まぁジャック・ニコルソンもコメディ映画に何度か出演しておりますので、
こういった怪演も予想できる範疇と言えばそれまでですが、それでもやっぱり凄い。
歯を磨きながら、青い電磁波を出すマシンを使って、育毛するシーンは今でも強烈に脳裏に残っています(笑)。

しかし、単純なコメディ映画としての面白さという意味では、
本作はあくまで及第点レヴェル、それ以上の評価はされにくいと思います。
あまり派手に笑わしてくれるシーンは皆無だし、映画の流れとしても荒唐無稽さが目立ちます。
そこは映画として破綻しない程度に上手くカヴァーしてはいますけど、それでも部分的な“綻び”はあります。

監督のピーター・シーガルはコメディ映画を専門に撮っているディレクターですから、
ここまで上手くカヴァーできたのでしょうが、これが経験値の低い演出家だったら、映画は破綻していたかも。

映画は自分の感情をコントロールすることが苦手で、
自らに強烈なコンプレックスを抱えている35歳になるサラリーマンの男デイヴが主人公。
フッとしたことでトラブルになり、デイヴは強制的に敏腕セラピストのバディが経営するクリニックに通い、
矯正プログラムを受診するハメになるものの、診療はなかなか上手くいかず、
やがてバディはデイヴの家に泊まり込み、24時間付きっ切りで治療を進めるものの、
バディの診療はデイヴの恋人リンダを巻き込み、あらぬ方向へと進んでいき、デイヴは更に混乱するおいう物語。

映画の冒頭の切り口がかなり強引で、
経緯を観るに、別にデイヴでなくともトラブルに巻き込まれてしまいそうな印象を受けます。
個人的にはもう少し上手い切り口を作って欲しかったのですが、これはシナリオに問題があるのかな。

但し、そこからのドタバタ劇はなかなか上手い運び、
終始、テンション高く、ストーリーテリング上のテンポも良く、実にスムーズに映画が進んでいきます。
特にウザいぐらいにデイヴに付きまとうバディの描き方は秀逸で、次第にバディに別な目的があるのではと、
観客に疑問を投げかけるように、物語が広がっていくあたりは、ひじょうに上手かったと思う。

一つ物足りないのは、マリサ・トメイ演じるリンダの存在で、
(個人的にマリサ・トメイのファンだから言うわけではないが...)あまりに中途半端な存在で勿体ない。

特に映画の終盤の展開は、かなり強引ではありますが、
リンダも巻き込んで、物語がドンドン大きくなっていくところだったのに、
不完全燃焼のような感じで、アッサリと映画に決着が付いてしまうので、もう少し粘っても良かったと思う。
特にヤンキースタジアムでのエピソードはアッサリと終わらせ過ぎて、悪い意味で中途半端ですね。

ですから、上手くやってのけた部分と不完全燃焼で終わってしまった部分、その両方があります。
まぁコメディ映画としての体裁は保っていますし、最後まで渋滞なく流れる映画なので、
及第点レヴェルには達していると思われますが、残念ながらそれを上回る出来とは言えません。

あと、カメオ出演も含めて、ゲストがやたらと豪華なのが印象的ですね。
何気なくジョン・C・ライリーがノンクレジットで出演していたり、ウディ・ハレルソンが登場したり、
そこそこ重要な役どころでヘザー・グレアムが下着姿になったり(笑)、結構、贅沢な映画です。
オマケに映画のクライマックスでは、ニューヨークのシュリアーニ市長が登場したり、
何故にこんな贅沢な人の使い方をできたのか、疑問に思えるぐらいに無駄に豪華だ(笑)。

スポーツ界からも豪華なカメオ出演の連続で、
「テニスをやりたい!」とセラピーを受ける患者を演じたのはテニス・プレーヤーのジョン・マッケンローだし、
クライマックスのヤンキースタジアムでのシーンには、さり気なくヤンキースの選手として、
デレク・ジーターやロジャー・クレメンスなど、スター・プレーヤーがチョイ役でフレームインしてきます。

日本ではウケないタイプの映画かとは思いますが、
アダム・サンドラーの出演する映画のタイプが変わりつつありますね。
本作なんかも、従来のアダム・サンドラー流のドギツいギャグはほとんど見られず、
ひたすら抑え気味に演じたせいか、ジャック・ニコルソンの方が目立つ結果に終わってしまっています。
そういう意味では...言ってしまえば、アダム・サンドラーは少し損な役回りだったと思いますけどね。

まぁアダム・サンドラーが好きな人には物足りない映画かもしれませんが、
かえって彼特有のギャグ連発が苦手な人には、観易い傾向にある映画かもしれません。

ひじょうにどうでもいい話しではありますが、
飛行機でジャック・ニコルソンみたいな男に「オレの隣に座れよ」と言われて、
機内システムの「ほら、この映画を観なよ」と勧められ、「早くこのシーンを観なきゃ、分かんなくなるぞ」と
急かされるなんて、凄いウザったさですが、彼の言葉を拒める人なんていないでしょうね(笑)。

まぁ・・・気軽に観る分には、丁度良いコメディ映画ではないでしょうか。

(上映時間104分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ピーター・シーガル
製作 バリー・ベルナルディ
    ジャック・ジャラプト
脚本 デビッド・ドーフマン
撮影 ドナルド・M・マカルパイン
音楽 テディ・カステルッチ
出演 アダム・サンドラー
    ジャック・ニコルソン
    マリサ・トメイ
    ジョン・タトゥーロ
    リン・シグペン
    アレン・コヴァート
    ルイス・ガスマン
    ウディ・ハレルソン
    ヘザー・グレアム
    ジョン・C・ライリー
    ハリー・ディーン・スタントン