エンジェル・アイズ(2001年アメリカ)

Angel Eyes

これは何とも抽象的な内容で、微妙な恋愛映画だ(笑)。

最初に気になった点をズラズラと列挙させて頂けるならば...
そもそもがこの映画の冒頭でジェニファー・ロペスが「アタシ...デートが苦手なの」と吐露するあたりで、
どことなく映画の信憑性が薄れている感じであり、ラストシーンでキャッチが「オレ、運転するよ」と言い、
ヒロインを助手席に乗せてハンドルを握り、ニッコリと相変わらずチラチラ脇見をしながら運転してるのを観て、
「あぁ...やっぱ、この映画、一貫性がないわ」と嘆かざるをえないということは否定できない。。。

監督は『メッセージ・イン・ア・ボトル』のルイス・マンドーキで、正直言って、今回はかなり無理した印象。

映画の序盤から刑事映画ばりのアクション・シーンが始まって、
キャッチという謎めいた男のミステリーに迫り、恋愛とは縁遠かったヒロインはキャッチと恋に落ち、
映画のラストはキャッチが過去の記憶を受容し、一気にドラマ性が高まって映画は終わる。

いろんな要素に手を付けた結果、残念なことに本作は少し消化不良を起こしている。
何とも抽象的な内容になってしまい、どれもこれも中途半端で映画のピントが微妙にブレている。
この辺は、もう少しルイス・マンドーキにディレクターとしての上手さがあれば変わっていただろう。
全体的に欲張り過ぎてしまったことが、映画の足を引っ張ってしまった結果となってしまっています。

それと、あくまで映画の企画段階での話しになりますが...
本作公開当時、ジェニファー・ロペスもかなり勢いのあった頃でしたので、
半ば彼女の人気に便乗したところがあったのは、否めないと僕は勝手に思っています。
(日本ではあまりヒットしませんでしたが、全米ではそこそこのスマッシュ・ヒットでした)

まぁ確かにこのヒロイン、シャロン役にはジェニファー・ロペスは合っていたのかもしれません。
たいへん失礼な言い方かもしれませんが、彼女は決して華奢な女優さんというわけではないし、
男まさりの女性警官というキャラクターを体現するには、ピタッとハマる女優さんの一人だったかもしれませんね。

この映画の大きなキー・ポイントとしてDV(ドメスティック・バイオレンス)がありますが、
ヒロインの過去として、父親が母親に暴力を振るっていた現場を押さえ、警察に通報したということがあり、
これが原因となって、父親と疎遠になってしまったという経緯が効果的に使えていたのには感心しました。
そして母親なんかは、そういった暴力を振るう夫を擁護する発言をしたり、逮捕した娘を悪者扱いしたりして、
何としてでも今の生活を守ろうとする、複雑な構図を上手くフィクスしているのも、なかなか良いですね。

そして皮肉にもシャロンの兄も家庭内暴力で騒ぎを起こしてしまうという連鎖反応・・・。
これもまた、社会的病理を象徴した描写で、サブ・テーマ的だったけど僕は決して悪くなかったと思いますね。

ハッキリ言うと、シャロンとキャッチの恋愛劇をメインに描くよりも、
シャロンの家族におけるDV(ドメスティック・バイオレンス)をメインテーマにした方が良かったと思う。
そうした方が映画のカラーにも統一感が出ただろうし、作り手が描くべき事象がよりクリアになっただろう。
そうすれば、ここまで抽象的で中途半端な出来にはならなかったと僕は思いますね。

どうでもいい話しだけど、映画の中盤で朝のランニング・デートを約束する流れで、
日本にも進出し、全国展開している某コーヒー・ショップのブランドがやたらと強調して映されていますが、
これだけ独占的にクローズアップされるということは、本作のスポンサーだったのでしょうか?
(ちなみに『I am Sam/アイ・アム・サム』では他のコーヒー・ショップが大々的にクローズ・アップされていた)

そう、このコーヒー・ショップが登場してくるあたりなんかは、
シャロンとキャッチの距離が縮まっていく過程を映した部分ではあったのですが、
これが僕は本作の中で一番の無駄だったとしか思えませんね。無理して描くほどの意味は感じません。

ここに意味を見い出すためには、もっと2人の関係を建設的に描いて欲しいんですよね。
ルイス・マンドーキは何度も恋愛映画を撮っているのですが、本作に限っては、恋愛描写にまるで説得力がない。

そもそもシャロンが何故、あまりに不可解な行動や言動を繰り返すキャッチを
突如として受け入れ、彼に恋するようになったのか、僕にはどうしてもよく分からないのです。
勿論、逃走した犯人に返り討ちにあい、シャロンが防弾チョッキに至近距離から弾丸を浴びるというシーンから、
運命的な因子を強調するかのような描き方をしてはいるのですが、今一つ“押し”が弱いのです。
僕にはそんな運命よりも、まるで不可解な存在でしかないキャッチの人物像が見えてこない方がずっと怖い。

それでもシャロンは彼に恋するわけなのですから、やはりそれ相応の説得力が必要なんですよね。
残念ながらルイス・マンドーキはその答えを出せていないし、本作にそこまでの力が無いのです。

ここで描くべきだったことはハッキリとしていて、
シャロンがキャッチの心の闇に触れ、どこまでその痛みを共有できたかということなんですね。
確かにキャッチの過去を知り、シャロンは彼を助けたくなるのですが、それ以前に彼女が彼に恋している。
そうであるからにはキャッチが抱えるミステリアスな過去に何処まで近づいたかということが焦点になります。
この辺が欠如してしまっているから、決定的にこの映画の恋愛劇には説得力が付与されていないのです。

まぁジェニファー・ロペスが好きでたまらなくて、夜も眠れないとお悩みの方にはオススメ。
だけど・・・素敵な恋愛映画なんだと思って観ちゃうと、大きなギャップを感じざるをえないと思います・・・。

(上映時間102分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ルイス・マンドーキ
製作 ブルース・バーマン
    マーク・キャントン
    エリー・サマハ
脚本 ジェラルド・ディペゴ
撮影 ピョートル・ソボチンスキー
音楽 マルコ・ベルトラミ
出演 ジェニファー・ロペス
    ジム・カビーゼル
    ジェレミー・シスト
    テレンス・ハワード
    ソニア・ブラガ
    シャーリー・ナイト