天使と悪魔(2009年アメリカ)

Angel & Demons

06年に公開され、全世界的な大ヒットとなった『ダ・ヴィンチ・コード』に続く、
ハーバード大学教授ロバート・ラングトンを主人公にしたサスペンス・ミステリーの第2弾。

主演のトム・ハンクスは前作に続き出演し、監督も前作と同じくロン・ハワードだ。

長編だった原作を無理矢理、2時間30分の間に詰め込んで映画が忙しくなった前作の反省を活かしてか、
本作は映画のシナリオにカスタマイズして、キチッとした脚色をしたためか、映画が随分と分かり易くなりました。
確かに不親切なまま映画を進行させ、大きなサスペンスにもできなかった前作と比べると、
格段に映画の印象は良くなったと思います。エピソードを大胆に省略することによって、映画もスリム化しました。

あくまで僕の個人的な意見にしかすぎませんが、
映画は映画であって、原作は原作。確かに原作あっての映画ではありますが、
本質的には異なるものであると思っていますので、今回のスタンスは決して間違ってはいないと思います。

エピソードが多く、文量も明らかに多かった前作においては、
この脚色の作業をしっかりと行わなかったために、終始、急ぎ足で映画が進んでいき、
半ば観客を置き去りにしている感は拭えませんでしたが、本作ではこの点は改善されています。

脚色の作業はキチッと行われているし、
映画の終盤ではサスペンスが盛り上がり、ミステリー性も維持できるよう配慮され、
画面の緊張感がラストまで持続するようキチッとした設定が伝わってくる内容になっていますね。
結論を言いますと、前作と比べると映画の出来自体は、格段に良くなっているとは思います。
かなりカルトな内容であり、ある意味では壮大なホラ話ですが(笑)、しっかりとエンターテイメントになっている。

この辺はやっぱりロン・ハワードの映画なんだということを実感させられますね。
各々のエピソードを整理しながら、映画を進めていけるというのはロン・ハワードの武器ですね。
前作にはそういった武器が活かされていなかっただけに、本作での復調は嬉しいですね。

本作では映画の進行が進むと同時に、劇中の時間も進行していく、
言わば同時進行型のスタイルをとっていますが、これはサスペンスを盛り上げるためには効果的でしたね。
ややストーリーがキリスト教徒以外の人には馴染みが薄い内容なだけに、これは必要な手法だったかも。

劇中、ローマ教皇の他界によって実施される「コンクラーベ」という儀式がありますが、
バチカンの中でのやり取りを描いているものですから、ひじょうに興味深い内容でしたね。
この「コンクラーベ」とは、言わば次期ローマ教皇を選出する儀式になるのですが、
「コンクラーベ」の内幕で数々の殺人事件が起こるという発想そのものが、かなりセンセーショナルですね。
相変わらず『ダ・ヴィンチ・コード』に続いて、凄い発想のミステリー小説が誕生したものです。

この映画ではユアン・マクレガー演じるカメルレンゴがキー・マンとなるのですが、
彼に関しては、もうチョット上手く描いて欲しかったなぁ。もう少しバチカンの人間らしく描いて欲しかった。
あまりに感情的になる部分を描き過ぎたせいか、彼の人間性が通俗的なものに感じられて仕方がなかった。
「コンクラーベ」に加わる枢機卿と肩を並べると、落ち着きがなく、誠実さにも欠ける印象が残ったのは、
この映画にとっては、ひじょうに致命的な難点であったと言われても過言ではないと思う。

それと、もう一点。
カメルレンゴも主張していた通り、宗教の歴史において科学の発達とは、複雑な意味を持っていたはずだ。
それは科学の発達により人々の生活は豊かになったが、宗教の影響力が弱まったことは否めないからだ。
こういう背景があるからこそ、映画の終盤になってカメルレンゴがハイテク機器に積極的に触れたり、
挙句の果てにはヘリまで操縦するという展開は、さすがに飛躍し過ぎているとしか思えなかった。

映画のラストで、事件のカラクリの種明かしがあって、全てが明らかになるのですが、
この種明かしはまずまず良かったのに、何となく“しこり”を感じたまま種明かしに入ってしまいましたね。
この“しこり”が無いまま種明かしを始めれば、もっと観客を驚かすことができたかもしれませんね。
まぁそれでも変にドンデン返しを作ろうとされるよりは、これぐらい堂々としていた方が好感が持てるけど。

今回は紅一点としてイスラエル出身のアイェレット・ザラーが出演しておりますが、
彼女は08年の『バンテージ・ポイント』にも出演しておりましたが、本作の方が登場シーンが多く、
ハリウッド女優にはないエキゾチックな雰囲気がある、今後の活躍に期待したい女優さんですね。
(なんでもアイェレット・ゾラーはイスラエルでは、かなり有名な女優さんらしいです)

ただ、彼女がスイスで勤務していた研究施設で合成していた「反物質」が、
どれだけのエネルギーを持っていて、爆発したらどれぐらいの威力を持っているのか、
もっとハッキリと説明して欲しかったなぁ。この「反物質」の在り処が大きな焦点となってくるのだけれども、
あまり具体的な説明がなくって、この「反物質」の所在が分からないことの恐怖が弱いのが残念。

ただ、繰り返しになりますが、それでも最後にまとめる力があるのだからロン・ハワードは立派ですね。
さすがに映画のラストシーンである眩しいばかりの群集が映るカットには、妙な爽快感がありました。

僕は前作『ダ・ヴィンチ・コード』には失望させられましたが、
わずか2、3年でシリーズをここまで修正できたというのには、驚かされたことは否定できません。
ひょっとしたら、まだこの後もシリーズとして継続していくのかもしれませんが、
尻上がりに映画の出来が良くなっていくシリーズとして成長していくのかもしれませんね。
昨年、ラングトン教授シリーズ第3弾の小説が発売されましたから(原題は『ロスト・シンボル』)、
ひょっとしたら、そう遠くはない未来に映画化の権利を取得するかもしれません。

もし実現するなら、やっぱり脚色をしっかりとしてから撮影して欲しいですね。

(上映時間138分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ロン・ハワード
製作 ブライアン・グレイザー
    ロン・ハワード
    ジョン・キャリー
原作 ダン・ブラウン
脚本 デビッド・コープ
    アキヴァ・ゴールズマン
撮影 サルヴァトーレ・トチノ
編集 ダン・ハンリー
    マイク・ヒル
音楽 ハンス・ジマー
出演 トム・ハンクス
    アイェレット・ゾラー
    ユアン・マクレガー
    ステラン・スカルスゲールド
    ピエルフランチェスコ・ファビーノ
    ニコライ・リー・コス
    アーミン・ミューラー=スタール
    トゥーレ・リントハート