最高の人生のつくり方(2014年アメリカ)

And So It Goes

完全に07年の『最高の人生の見つけ方』からモジった邦題ですけど、
これは同作と同じロブ・ライナーが監督したからこそ出来た邦題でしょう。だが、結構違うアプローチの作品だ。

人生の最期を描いた作品というよりも、高齢者となってお互いに人生の伴侶を失って、
それでも尚、恋愛することの尊さを描いた作品であり、先進国では高齢化社会が進んでいる現代であるからこそ、
こういうテーマの作品が成り立つわけで、かつてならこういう映画はハリウッドでは製作されなかったでしょうね。

映画の出来がそこまで悪いわけではないとは思うけど、これは日本劇場未公開扱いだったのは、
その理由がなんとなく分かる気がする。良くも悪くもロブ・ライナーの映画って感じで、想像の域を出ない内容だ。

それでいて、時々、映画の雰囲気をブチ壊すような、どこか場違いな演出があったりして、
それをギャグと思って描いているのかもしれないが、どうにも僕の感覚では理解できない演出がある。
例えば、突如として犬が動物の人形に覆い被さったりするショットを映したりするのは、まるで理解できない。

アメリカン・ジョークとしても、あまりに唐突過ぎて素直に笑い飛ばすのは難しい気がする。
オマケに「パパとママの“ダンス”と一緒だ」なんて、子供に言わせたって、なかなか難しいと思うなぁ〜。

この辺はロブ・ライナーの悪いクセというか、場違いなギャグを織り交ぜるのは理解に苦しむところ。
この映画はさしずめ、89年の『恋人たちの予感』の老後を描いた作品と言っても過言ではない内容なのですが、
『恋人たちの予感』の頃のロブ・ライナーだったら、こんな映画を台無しにしかねないギャグを入れようといなかったはず。
基本、コメディであるということは分かりますが、もっとマイケル・ダグラスとダイアン・キートンの安定感ある掛け合いで
笑わせて欲しいし、ユーモアとウィットに富んだ会話劇の中で笑いを織り交ぜるようにして欲しかったなぁ。

映画は、気難しいベテランの住宅セールスマンのオーレンは、妻を長い介護の末、
ガンで亡くしてからは一人暮らしを謳歌しているように見えたが、隣人の歌手志望の同世代の未亡人リアら、
近所の住人たちに嫌味を言う毎日で、周囲からは扱いづらい人として疎まれていたところに、
公にしたくないドラッグ中毒だった息子が突如として現れて、「9歳になる娘を預かって欲しい」と懇願されることから、
オーレンの生活が一変し、リアとの距離も一気に縮まり、熟年男女の恋愛に発展する様子を描いています。

主演のマイケル・ダグラスとダイアン・キートンは初共演ですが、このコンビは悪くない。
マイケル・ダグラスはコメディ映画にも何本か出演していますが、ここまで肩の力を抜いた役は久しぶりかも。
前年に出演した『ラストベガス』もコメディ映画でしたが、あれよりも本作の方が合っているかもしれません。

車に乗っているシーンなんか観ると、最近のマイケル・ダグラスはかなり父親のカーク・ダグラスにソックリだ。
若い頃からカーク・ダグラスに似ているとは言われていたけど、最近は若い頃以上に似てきていますね。
残念ながらカーク・ダグラスは2020年に103歳で大往生を迎えられましたが、マイケル・ダグラスも長く活躍して欲しい。

シナリオ自体もそんなに悪いものではない。オーソドックスな構成ですが、
問題はこれだけの土台を用意しながらも、凡庸な出来にしてしまったロブ・ライナーの組み立てでしょう。

前述したように、もっと会話劇で組み立てて欲しかったし、
マイケル・ダグラスとダイアン・キートンの熟年カップルなりの恋の駆け引きを表現して欲しかった。
それなのに、この映画の場合はかなり唐突に恋が燃え上がるように描かれていて、正直、説得力が無い。

この映画で描かれるオーレンにしても、なかなか素直になれない昔気質な性格ですが、
そうさせるのは、長年連れ添った妻を失い、彼曰くは「子育てに失敗した」という想いからくる孤独感であり、
そういう想いを取っ払うためには、それなりに高い壁があったはずで、いきなりリアに積極的になる理由が分からない。
それと同じようにリアにしても、繰り返し、亡き夫との生活を忘れられない惜別の念が未だに強過ぎて、
なかなか生活を切り替えられずに、仕事でも湿っぽくなってしまって、ステージを降りてしまうくらい失意の日々だ。

それが、オーレンの積極的なアプローチに簡単に心開いていくというのだから、これでは納得性が弱いのは当然だ。

お互いの頑なな心を、オーレンの孫娘との交流の中で徐々に距離を詰めて、
心通わせていくからこそ、お互いに心を開いていくはずであって、この映画はその過程を楽しむものであるべきはず。
それが何とも唐突かつ、随分と速くに展開していくものだから、その過程を楽しむ内容ではなくなってしまっている。

2人の駆け引きも何も無い感じになってしまっているし、そのせいか、コメディとしてのテンポも上がらない。
こんな展開、このような映画になってしまったのは、ハッキリ言って、ロブ・ライナーに問題があると思います。
ホントはロブ・ライナーって、スゴく器用なディレクターだと思うんで、この映画はもっと面白くできたと思うんだよなぁ。

現代の熟年カップルの恋愛って、どんな感じなのか分かりませんので何とも言えませんが、
年齢を重ねて性格的に頑固になる部分もあるので、さすがにこうではないだろうと思える部分が多い。

映画としては、観客にそう思われてしまうと失敗だと思うんだよなぁ。
だからこそ、ロブ・ライナーには上手く撮って欲しかったし、これからの映画の一つのフォーマットになる
ジャンルの作品でもあるような気がするし、映画の“土台”も良かったので、本作にはもっと頑張って欲しかったなぁ。

そういう意味では、少し安直に撮ってしまった部分があったのではないかと思います。
やはり、オーレンとリアのキャラクターがお互いに納得性に欠ける部分があっては、映画として楽しむことは難しい。

個人的には、もう一度撮り直して欲しい作品なんだよなぁ。それくらいに勿体ない。
ダイアン・キートンは相変わらずキレイなお祖母ちゃんって感じで、この手の映画のヒロインにはピッタリだし、
相手役のマイケル・ダグラスは前述したようにコメディ映画への出演が珍しいわけではないけれども、
劇中、隣家の妊婦さんが突然、産気づいて分娩を手伝うことになって慌てふためくシーンなんて、ある意味で貴重(笑)。

歌手として活躍することを夢見ているリアにしても、MCのスキルを磨こうとは思っているんだけど、
何故か、いっつも話しているうちに亡き夫との生活に触れてしまい、自分自身が感情的になってしまって、
バンドをステージに置いて、ステージから降りてしまう失敗を何度も繰り返すというのも、どこか可笑しい。

だから、全てが全てダメな映画というわけではないのですよね。
主人公カップルの描き方さえ、なんとかなっていれば、もっと説得力のある映画になっていたと思うので。
予定調和なところはありますが、ラストもそんな悪い味わいではないだけに、ここはホントに勿体なかった。

実際、シニア世代の結婚は数多くあって、「シニア婚活」なんて言葉もあるくらいだ。
入籍という形にこだわらず、事実婚をとることも多いようですが、現実問題として高齢なものですから、
割りと早期に他界してしまって相続という現実とブチ当たることがあるようで、その場合は子供世代ともめてしまうことも
あって、なかなか一筋縄にはいかないことも多いようだ。この辺は今後、社会問題としてクローズアップされていく
可能性があるでしょうし、入籍していないと主体的に葬儀を執り行ったり、相続の問題を避けることは難しいようだ。

シニア世代の結婚とは、初婚の方が少ないようですので、
多くが熟年離婚したり、長年連れ添ったパートナーと死別したことで、伴侶を見つけたいと希望する人が多いそうだ。
こういうテーマというのは、映画界でも今後、新たな社会的なテーマとしてクローズアップされていくでしょうね。

ちなみに監督のロブ・ライナーも、リアのバンド仲間として出演しています。
マイケル・ダグラスからカツラを着装していることをからかわれますが、確かにあの髪型は変ですわ(苦笑)。

(上映時間94分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ロブ・ライナー
製作 ロブ・ライナー
   アラン・グライスマン
   マーク・ダモン
脚本 マーク・アンドラス
撮影 リード・モラーノ
編集 ドリアン・ハリス
音楽 マーク・シェイマン
出演 マイケル・ダグラス
   ダイアン・キートン
   スターリング・ジェリングス
   ロブ・ライナー
   スコット・シェパード
   フランシス・スタンハーゲン
   フランキー・ヴァリ