ジャスティス(1979年アメリカ)

...And Justice For All

次から次へと、不条理な判決が繰り返される裁判所において、
敵対視していた判事が起訴された強姦事件の弁護をせざるをえなくなった弁護士アーサーが、
事件の真相に近づくにつれ、本来、果たすべき弁護人と依頼人の信頼関係も覆す姿を描いたサスペンス映画。

75年にSFカルト映画『ローラーボール』を撮ったノーマン・ジュイソンが、
今度は法曹界にメスを入れた、衝撃作というわけなのですが、これはチョット粗い仕上がりの映画だ。

あくまで現代劇ではあるのですが、
この映画の登場人物の中で一番、奇異に映るのは、判事の一人を演じたジャック・ウォーデンで、
騒がしくなった法廷を落ち着かせるために法廷に持ち込んだ拳銃で発砲したり、
何故か裁判所内に持ち込まれたライフルをくわえて、トイレで自殺を試みたり、異常行動が散見されます。

まぁこれらの描写はおそらく、司法の人間までもが常軌を逸していることの恐ろしさを描くためなのでしょうが、
彼の異常性を表現する一連のシーン演出は、映画自体をステレオタイプにしてしまう要因になっています。

そして休日に主人公のアーサーを誘って、
自分が操縦するヘリコプターで“空中散歩”をするシーンがその最たるもので、
燃料不足となったヘリは着陸予定地点の手前で、あえなく水上に“墜落”してしまいます。

何故か搭乗していた彼らは無傷で助かるというマジックが起こるのですが、
もうこれらのシーンはやればやるほど逆効果になっていくような感じで、映画が大袈裟になっていきます。
これって、ノーマン・ジュイソンがまだ『ローラーボール』の後遺症を負っていたとしか考えられない発想ですね。

ですから、そういう意味で本作も十分にカルトな映画だと思います。

一応、映画のクライマックスに主演のアル・パチーノが正義を問いただす大演説シーンがありますが、
それまでいいだけ過剰に描き続けてきたので、突如として正義について問いただされても、
正直言って、訴求しませんでしたね。「取引しまショー」なんてギャグ言われても、どうとも思えません。

とは言え、実を言うと、僕の中でこの映画は最低の部類には入っていない。
むしろ時おり披露された、異様なまでに緊張感漂うシーンや力強いシーンが、あまりに印象的だからだ。

特に映画の後半にあった、アーサーが弁護を担当していた裁判において、
アーサーが時間に間に合わず友人のウォーレンに代理弁護を依頼したものの、
よく状況を把握していないウォーレンが適当に弁護したため、無実の依頼人が投獄され、
当初、アーサーが予想だにしない結果を引き起こしてしまい、アーサーがウォーレンを叱責するシーンで、
勿論、アーサーにも責任はあるのですが、やり場のない悲しみや怒り、司法の不条理に対する嘆き、
そして「オレたちは大変なことをしちまったんだ!」という懺悔の念が混在する、出色のシーンで素晴らしい。

もう一点挙げると、長年、投獄され苦しむ、やはり無実の依頼人がついに爆発し、
拳銃片手に人質をとって刑務所内の独房に立てこもるシーンで、アーサーがやはり説得しに行くのですが、
明らかに破滅に向かっていく依頼人と、常に狙撃犯が狙っている緊張感の対峙が、あまりに印象的ですね。

まぁアル・パチーノのファンとして・・・
本作と言われて避けては通れないのは(笑)、オスカーとの関係である。
アル・パチーノは本作出演後、80年代の大半はスランプに陥り、85年からは舞台の世界に戻ってしまいます。
89年の『シー・オブ・ラブ』でスクリーンの世界に戻ってきますが、スランプの原因は本作にあるとされています。

ホントがどうかは知りませんが、70年代はあれだけ名演技を残していたアル・パチーノも、
本作出演当時はオスカーに輝きたく、本作出演にあたっては並々ならぬ意気込みがあったとか。

本作以前、彼は4度ノミネートされていましたが何れも受賞には至らず、
本作の熱演で5度目のノミネートになり、ライバルは『クレイマー、クレイマー』のダスティン・ホフマンでした。
おりしも同じような境遇で、ほぼ同世代のスターだったダスティン・ホフマンとの対決となり、
結果的にダスティン・ホフマンに軍配が上がったことがアル・パチーノにとっては大きなショックだったとか。

もし、これが事実でアル・パチーノがスランプに陥ったのなら、本作は尚更、重要な作品ですね。

まぁ法廷映画が好きな人には楽しめるかもしれませんが、
申し訳ありませんが僕には本作が訴求力ある、重厚な法廷映画とは思えず、
かなりカルトな嗜好を踏襲した、異色な法廷映画としての位置づけしかできません。

それと、アル・パチーノのファンは観ておきましょう。
特に本作のクライマックスでアーサーが正義を問いただす大演説は、彼の独壇場です。

ただ、チョット意地悪い言い方をすれば、ノーマン・ジュイソンの演出がかなり粗いので、
アル・パチーノの演技力に頼らざるをえなかった映画と言えますがね。。。

(上映時間118分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ノーマン・ジュイソン
製作 ノーマン・ジュイソン
    パトリック・J・パーマー
脚本 バレリー・カーティン
    バリー・レビンソン
撮影 ビクター・J・ケンパー
音楽 デイブ・グルーシン
出演 アル・パチーノ
    ジャック・ウォーデン
    ジョン・フォーサイス
    リー・ストラスバーグ
    ジェフリー・タンバー
    クリスティン・ラーチ
    クレイグ・T・ネルソン
    ジョー・モートン

1979年度アカデミー主演男優賞(アル・パチーノ) ノミネート
1979年度アカデミーオリジナル脚本賞(バレリー・カーティン、バリー・レビンソン) ノミネート