アナライズ・ミー(1999年アメリカ)

Analyze This

ニューヨークでも有名なマフィアのボス、ポールが急激に弱気になってしまい、
部下がひょんなことから名刺をもらっていた精神科医ベンがつきまとわれ、結婚式がメチャクチャになった挙句、
自らの診療もままならなくなった上に、マフィアの抗争にまで巻き込まれる姿を描いたコメディ映画。

日本でもヒットしましたが、世界的にもヒットした作品となったおかげで、
02年に同じキャストを集めて『アナライズ・ユー』という続編が製作されたほどです。

監督はコメディ映画を中心的に活動するハロルド・ライミスですが、
全体的に相変わらずのユルい感じのコメディに仕上がっていて、彼の映画のファンなら満足できると思います。

デ・ニーロがマフィアのボスを演じるというのは、まるで意外性が無いキャラクター設定ではありますが、
精神的に弱気になってしまい、パニック症候群を発症してしまい、オマケに何故か涙が止まらなくなったり、
性欲が急激に減退してしまったりと、マフィアのボスとしてのメンツを保てなくなってしまうという役どころ。

この作品あたりから、デ・ニーロはコメディ映画に積極的に出演するようになり、
実際に本作のようにヒットした作品も誕生したのですが、彼自身もきっとこういう映画が好きなんでしょうね。
なんだか彼自身も、とっても楽しそうに演じており、ずっとこういう映画でハジけたかったのかもしれません。

但し、この映画で一番、良かったのは精神科医ベンを演じたビリー・クリスタルだろう。
正直言って、僕がかつて観た彼の出演作って、彼のギャグが空回りしているような気がして、
どうも好きになれない作品が少なくなかったのですが、本作での彼はなかなか良かったですね。
特に彼が悪夢に悩まれされ、名画『ゴッドファーザー』ばりに果物屋で殺し屋から狙われて、
何とか逃げようとするものの、道路のド真ん中で銃撃されてしまい、果物が道端に転がるなんて、
ハロルド・ライミスなりのお遊びが炸裂していて、これはビリー・クリスタルはかつてよく引き受けていた、
アカデミー賞授賞式で式の冒頭に彼がよく使っていた“手”で、思わずニヤリとさせられてしまいますね。

また、映画の終盤でマフィアのボスばかりが集まる会合に無理矢理、出席させられてしまい、
何とか虚勢を張ろうとして、訳の分からないことを一方的にまくし立てたり、ポールの腹心である、
体格の良い、如何にもマフィアな風貌のオッサンにビンタをかましたりするのも、まずまず面白かったですね。

マフィア関係者の葬儀に参列したときも、イタリア式にハグを繰り返すのを見て、
ベンがしにハグをマネするように、やたらと頬を合わせて、ハグしまくるシーンも印象的で
一人の男にやたらとしつこくハグされて、「誰?」とポールに聞いたら、「知らん奴だ」と答えられるのも面白い。

ハロルド・ライミスの演出の上手さもありますが、ビリー・クリスタルにとっても、
彼の芸風を活かすという意味で、適役だったのかもしれませんね。最近のベストワークではないでしょうかねぇ。

対しても、そこまで良いとは思えなかったのは、ヒロイン的ポジションだったリサ・クドロー。
彼女は本作で、ベンの恋人でありフィアンセを演じていたのですが、ほとんど持ち味を活かせなかったですね。
彼女は90年代を代表するTVシリーズ『フレンズ』でブレイクした女優さんなのですが、映画出演にも積極的で、
特に90年代後半から何本かの映画に出演したのですが、どうも映画では存在感が弱いですね。
本作にしても、あまり彼女に合っていない役柄って感じがして、もっと暴走して欲しかったですね(笑)。

パニック症候群って、数多くの方々が悩まされている症状ですが、
こういう疾患を抱えることが恥だと考える、マフィアのボスが悩まされるという発想は面白いですね。
常に弱気な部分を見せてはならず、家族にでさえ弱いところを見せていなかったのですが、
いざ症状が出てくると、それまでの頑張りがウソのように、ベッドで泣きじゃくってしまう始末。

しかし、結局は真正面から疾患と向き合って、自分で克服するしかないとするかの如く、
とある日常的なキッカケをつかんで、なんとか自分を取り戻すというのも、ある意味ではセオリー通り。

但し、正直言って、もう少しドタバタしたコメディにして欲しかったかなぁ。
クスッて感じは笑える部分はあるにはあるのですが、どうも派手に笑いをとりくる感じではない。
特にクライマックスでの攻防なんかは、ほとんど喜劇的な要素が無くなり、凄く勿体ない感じがしましたね。

この辺はシナリオの作り方から、問題があったようにしか思えないですね。
ハロルド・ライミスが慣れた分野の映画であったせいか、さすがに手堅い仕上がりにはしましたけど、
クライマックスはもっと盛り上げて欲しかったし、コメディ映画なのですから、最後までしっかり笑わせて欲しかった。

クライマックスにマフィアの撃ち合いシーンなんかもあるのですが、
せっかくの見せ場と考えても、あまりに中途半端な出来ですね。これでは盛り上がるわけがありません。
映画全体としては、そこそこ及第点レヴェルはキープした作品だとは思っているのですが、
どこか物足りない感覚が残ってしまうのは、こういう作り手の“詰め”の甘さが原因としか思えません。
(まぁ・・・こういう仕事がハロルド・ライミスらしいと言えば、らしい仕事っぷりなんだけど...)

多少、ステレオタイプな部分がある映画ですので、作り手が徹底できた部分もあるのですが、
せっかくデ・ニーロをコメディ映画に引っ張り出したわけなのですから、もっと頑張って欲しかったですね。

チャズ・パルミンテリ演じる、ポールと敵対するマフィアのボスの存在感も中途半端で、
どうせなら、もっと手強い相手として描いて欲しいし、肝心なところでの“詰め”の甘さがいただけないですね。
こういう物足りなさを、埋めることができれば、ハロルド・ライミスももっと凄い映像作家になるのですがねぇ〜。

まぁデ・ニーロと言えば、いつもドッシリと構えた芝居を見せてくれますので、
間違っても、本作以前は弱い部分を映画の中でほとんど演じてこなかったのですが、
本作でのコメディ演技が認められたせいか、『ミート・ザ・ペアレンツ』など続いていきます。

やたらとメソメソするデ・ニーロが観たいという人には、是非ともオススメしたい作品だ(笑)。

(上映時間103分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ハロルド・ライミス
製作 ポーラ・ワインスタイン
    ジェーン・ローゼンタール
脚本 ピーター・トラン
    ハロルド・ライミス
    ケネス・ロナーガン
撮影 スチュアート・ドライバーグ
音楽 ハワード・ショア
出演 ロバート・デ・ニーロ
    ビリー・クリスタル
    リサ・クドロー
    チャズ・パルミンテリ
    ジョー・ヴィテレッリ
    カイル・サビー