愛と青春の旅だち(1982年アメリカ)

An Officer And A Gentleman

80年代を代表する恋愛映画の一つと言っても過言ではないぐらい有名な作品だが...
何度見ても、この映画はやっぱり甘過ぎると思うし、どこか乱暴な作りが目立つのが気になって仕方がない。

監督は本作を出世作として、84年に『カリブの熱い夜』をヒットさせたテイラー・ハックフォード。

主演のリチャード・ギアが不遇の売れない時代から脱却し、
一気にスターダムを駆け上がる80年代の活躍を生むキッカケとなった作品であり、
未だに根強い人気がある作品のようなので、あまりこんなことを言うのも気が引けるのですが・・・
正直言って、映画の出来としては今一つで、やや過大評価の傾向があるような気がします。

なんだか、よく分からないけど主人公が過剰に美化されているように見えるし、
そもそも主人公の友人に関する、映画の終盤でのエピソードなど、個人的にはあまり良い趣味とは思えない。
ああいうのを「真に迫った演出」と言うには、なんだか気が引けて、そもそもどうしてこのような映画で
ああいったシリアスな演出を施そうと思ったのか、テイラー・ハックフォードの意図がよく分からない。

80年代を代表する恋愛映画のバイブル的存在であるとのことで、
おそらく時代性もあってか、凄く当時の映画ファンの心に訴求する力が強かったのでしょうが、
個人的には映画の出来そのものがお世辞にも良いとは言えず、どうにも良い印象がある作品ではないですね。

但し、先に敢えて本作に対して好意的なコメントをするとすれば・・・
何度聞いても、エンド・クレジットに流れるジェニファー・ウォーンズとジョー・コッカーの歌う、
Up, Where We Belong(愛と青春の旅だち)は、クサ過ぎるが、やはり出来過ぎたほどに素晴らしい主題歌(笑)。
しかも、本作のエンド・クレジットはよく聴けば分かるけど、オリジナル・レコーディングのものと若干異なり、
2人ともやや違うように歌っているヴァージョンで、映画の印象を不思議なぐらい変えてしまう力がある。

おそらくこれは、映画史に残る主題歌の傑作と言っても過言ではないだろう。

さすがにテイラー・ハックフォードは音楽に造詣が深いだけあって、選曲のセンスは素晴らしい。
いつも彼の監督作品は主題歌ばかりが目立って、映画は大味というケースが多いのだが、
本作は正にその原点とも言うべき作品であり、何度観ても映画の出来が主題歌に遠く及ばない。

別に軍隊を美化する映画ではないのだけれども、
結果的に軍隊に入って、若い軍人にターゲットを絞っていたと思われる女性と結ばれるという展開が
どうにも「軍隊に入隊したら、こんなことがあるよ」と半ば宣伝的に、映画を使っているようにも見える。
しかも、映画の冒頭で語られている通り、13週の厳しい訓練に耐えた向こう側には、ジェット機を操縦できる免許を
取得できるという、“特典”目的で入隊するようなことも描かれており、まるで航空会社への入社を匂わせてかのよう。
(まぁ・・・日本でも同じように、海上自衛隊や航空自衛隊から民間航空会社に転職する例はありますからねぇ)

リチャード・ギアも後のインタビューで語っていますが、
「実はこの映画に海軍の協力は全く得られなかったんだ。この映画は海軍へのリクルートの意味もあったから残念だ」
と主演俳優自身がコメントしているということは、ほぼ間違いなく作り手にそういう意図があったのだろう。

本作での熱演が認められ、オスカーを獲得した黒人軍曹を演じたルイス・ゴセットJrの存在が大きい。
けど、少しずつ甘さがあるのが気になる。個人的にはもっと徹底して、屈強なイメージを付けることに徹して欲しかった。
クライマックスにある、主人公との拳闘シーンもインパクトはあるし、間違いなく重要なキャラクターなのですが、
もっと徹底して志願兵たちをシゴきあげて欲しかった。これならば『フルメタル・ジャケット』の方がインパクトが強い。

映画の最後に、13週間の訓練を終えて、訓練生を送り出した軍曹に一人一人が敬礼しに来るシーンがあって、
訓練で苦労していた女性訓練生に対して、「私は下士官だ」と言って、訓練修了生に敬意を示すセリフがあります。
軍隊のこういう姿を描いた映画は地味に数少ないだけに、とても興味深かっただけに、勿体ないなぁと思う。
おそらく、この軍曹をもっと徹底して描けていたら、もっとインパクトのある緩急がついて良かったと思うのですが・・・。

やはりテイラー・ハックフォードって、こういう映画全体のバランスを考えた構成ができないのだと思う。

これができていれば、主人公の13週の訓練が如何に体力的にも精神的にもキツいもので、
そういった困難を乗り越えて、訓練を修了したということが強調されるわけで、ヒロインと結ばれたことの喜びも、
もっと訴求する映画になっていたはずなのに、そういったバランスを考えないあたりがチョット理解できない。

そして、この映画で描かれる女性キャラクターがあまりにステレオタイプだ。
ヒロインにしても、映画の序盤から士官と結婚する目的だけで生きているかのように描かれるなんて、
あまりに酷い話しだし、士官と結婚するために妊娠を装うということが、トンデモない結末を招くというのも、
あくまで映画のストーリーだったとしても、個人的には気の利いたシナリオとは言い難いと思う。

正直言って、こんなストーリーをそのまま映像化するテイラー・ハックフォードの見識を疑いたくなりますよ・・・。

確かに、昨今のテレビ業界や映画業界は「自主規制」の風潮が見られ、
色々と賛否が分かれるというのは理解できるけど、80年代のバブル期の頃までの報道や表現って、
今と比較すると、考えられないぐらい凄かったですからねぇ。これは世界的にそうだったのではないかと思います。

日本でも、30年ぐらい前までは如何に“表現の自由”を追求するかが焦点の一つで、
明らかに今やったら大きな問題になるような内容であっても、平気で報道してましたからねぇ。
今の「自主規制」の時代が良いとは言わないけど、あまりに行き過ぎた報道や表現は、時に凶器になりますからねぇ。

正直言って、本作のストーリーなんかは、
そういったデリカシーの無い時代を反映しているように見えて、なんだか複雑な思いになりますねぇ。。。

どうでもいいけど・・・
本作が日本でも大ヒットしたあたりから、邦題で“愛と・・・”のように呼ばせることが流行したようで、
この時期は似たような邦題の作品が多過ぎて、正直言って、どれがどれだか分からなくなるのが玉に瑕(きず)。

(上映時間124分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 テイラー・ハックフォード
製作 マーティン・エルファンド
脚本 ダグラス・デイ・スチュワート
撮影 ドナルド・ソーリン
音楽 ジャック・ニッチェ
出演 リチャード・ギア
    デブラ・ウィンガー
    ルイス・ゴセットJr
    デビッド・キース
    ロバート・ロジア
    リサ・ブロント
    リサ・アイルバッハー
    デビッド・カルーソ

1982年度アカデミー主演女優賞(デブラ・ウィンガー) ノミネート
1982年度アカデミー助演男優賞(ルイス・ゴセットJr) 受賞
1982年度アカデミーオリジナル脚本賞(ダグラス・デイ・スチュワート) ノミネート
1982年度アカデミー作曲賞(ジャック・ニッチェ) ノミネート
1982年度アカデミー歌曲賞 受賞
1982年度アカデミー編集賞 ノミネート
1983年度イギリス・アカデミー賞主題歌賞 受賞
1982年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(ルイス・ゴセットJr) 受賞
1982年度ゴールデン・グローブ賞歌曲賞 受賞