アミスタッド(1997年アメリカ)

Amistad

まぁ好感の持てる内容ではありますが、
やっぱりスピルバーグの映画ということを考えれば、チョット物足りないかな(苦笑)。

いや、と言うのも...どことなく教科書的な内容に終始しているような感じで、
スピルバーグらしさが感じられない。そんな物足りなさが、僕にはずっと気になって仕方がなかった。
確かに良いシーンもあるけど、何もかもが無難な路線で行ったよな感じで、悪く言えば、保守的でしたね。
(まぁ・・・それでも、無難な路線を狙って、それ相応の結果を残すこともイージーではないのだけれども...)

物語の舞台は、奴隷解放が進んできていた頃のアメリカ。
スペインの奴隷船で起こった、奴隷として扱われた黒人たちによる反乱の容疑で、
彼らはアメリカで逮捕拘束され、やがては裁判にかけられてしまう。

後に『グラディエーター』や『イン・アメリカ/小さな三つの願いごと』などで活躍する、
ジャイモン・ハンスウを見い出したことは、ひじょうに価値があったとは思いますが、
せっかくのアンソニー・ホプキンスとモーガン・フリーマンの共演が、まるで活きていないのは残念ですね。
それと、主演のマシュー・マコノヒーの存在感も弱くて、映画のスケールに完全に負けている。

スピルバーグにしかできないスケールの映画と言えば、それまでなのですが、
なんとなくスピルバーグ自身にも上手く映画自体をコントロールできていないというか、
必要以上に映画のスケールが巨大化してしまい、結果としてアンバランスな映画になってしまいましたね。

ですから、この映画で一番、気になったことは決定打に欠けるということなんです。

ここぞというシーン演出は皆無だし、強烈な個性を感じさせるキャラクターも登場してこない。
更に史劇を忠実に再現しようとし過ぎたせいか、ドラマ性に劣る感触になってしまったのが悔やまれますね。
スピルバーグの手腕を考えると、もっと映画を盛り上げることができたであろうと思えるだけに、残念ですね。

ただ、僕も奴隷貿易について詳しく勉強したことはないのですが、
人身売買が禁止されている国からの捜索を受けるにあたって、船に拉致して強引に乗せてきた、
アフリカの人々を“積荷の重量を軽くする”という名目で、次から次へと海へと突き落としていくシーンは衝撃的。
それも足を鎖で拘束し、猛烈に重たい金属らしき重りと、その鎖をつないで海へ沈めていくシーンは強烈だ。
かつてナチスを実生活でも体験し、『シンドラーのリスト』の中で言及したスピルバーグですから、
人の命を軽々しく扱うことの残酷さ、痛みや悲しみを映画の中で表現するのが、実に上手いですね。

そして歴史的事実として、表面的には奴隷解放へと向けて動き始めますが、
何故、未だにアメリカが人種差別が大きな社会問題として残り続けているのか、よく分かる気がしますね。

例えば、劇中、シラレオネから拉致された黒人たちを“物”扱いする発言をし、
彼らの所有権を主張する連中が原告側として、大勢登場してくるのですが、
結果として彼らの偏見的な思想や、奴隷容認という考え方は覆されたわけではないですからね。
結局、こういう人々の言い伝えをいうのが残り、今に至ってしまっているというのが社会的な病理なのでしょう。

当然、日本も含めて、世界各国で同様の人種問題というのは残っているとは思うのですが、
奴隷貿易という歴史的暗部を抱えたまま、時を経過したアメリカにとっては、宿命的な問題なのかもしれません。

こういったデリケートな問題にスポットライトを浴びせたからこそ、
今回のスピルバーグは穏やかに物語を語らず、敢えて感情的に語っているような節(ふし)があります。
それは前述したナチス・ドイツの体験があるからこそ、こういったテンションになったのかもしれません。

しかしかながら、それでももっとエキサイティングな内容であって欲しかったなぁ。
やはり奴隷貿易の惨状を伝え、歴史的な裁判を描くことに一生懸命になり過ぎた感がありますね。
せっかくヤヌス・カミンスキーのカメラがあるだけに、冒頭の活劇シーンなんかは勿体ない。
何とかしてシエラレオネに戻りたい、愛する家族に無事を伝えたいとする想いからこみ上げてくる感情が、
「アミスタッド号」における反乱という形で爆発するわけで、もっとエキサイティングに描いて欲しかった。

それでこそ、やっぱり逮捕拘束されてしまうという展開に、より大きな落ち込みを表現できるのですがねぇ。。。

逮捕拘束された黒人たちの弁護側にまわるアンソニー・ホプキンス演じる、
元合衆国大統領ジョン・クインシー・アダムスが逮捕拘束された黒人たちの中心的人物であった
シンケの言葉を流用して、弁論を構成していくという展開が印象的でしたね。
これは史実に基づいた展開なのでしょうか、事実だとしたら実に感動的なことだと思いますね。

まぁスピルバーグ監督作としては及第点レヴェルの出来と言った具合かな。
別に手抜きした映画なんて言う気は毛頭ありませんが、もっと面白くはできたと思います。
彼の生真面目さゆえか、映画に敢えて起伏を設けず、史実に基づいた構成をとったためか、
今一つ盛り上がりやドラマ性に欠ける作りになってしまい、インパクトの時点で押し負ける結果ですね。

どうでもいい話しではありますが、
スペインの女王を演じていたのがアンナ・パキンだったとは、不覚にも観ている最中は気づかなかった。。。

(上映時間154分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 スティーブン・スピルバーグ
製作 スティーブン・スピルバーグ
    デビー・アレン
    コリン・ウィルソン
脚本 デビッド・フランゾーニ
撮影 ヤヌス・カミンスキー
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 マシュー・マコノヒー
    アンソニー・ホプキンス
    ジャイモン・ハンスウ
    モーガン・フリーマン
    デビッド・ペイマー
    ピート・ポスルスウェイト
    ステラン・スカルスゲールド
    アンナ・パキン
    ナイジェル・ホーソーン
    ジェレミー・ノーサム

1997年度アカデミー助演男優賞(アンソニー・ホプキンス) ノミネート
1997年度アカデミー撮影賞(ヤヌス・カミンスキー) ノミネート
1997年度アカデミー音楽賞<オリジナル・ドラマ部門>(ジョン・ウィリアムズ) ノミネート
1997年度アカデミー衣装デザイン賞<カラー部門> ノミネート