アメリカン・ハッスル(2013年アメリカ)

American Hustle

2012年に『世界に一つだけのプレイブック』で高く評価されたデビッド・O・ラッセルが、
続いて70年代後半に詐欺師が暴走気味のFBI捜査官に脅されて、詐欺を行おうとしたことによって、
アメリカ南部の都市、アトランティック・シティを舞台に繰り広げられる一大スキャンダルを描いた実話の映画化。

2013年度アカデミー賞では、大量10部門でノミネートされながらも、
何と一つも獲得できなかったという残念な結果に終わってしまったことも、話題になりました。

まぁ、話しとしては面白いとは思うが、まず映画化するという意味では、もっと脚色しても良かったかも。
デビッド・O・ラッセルって、どこか踏み込みきれない映画を撮る印象が強くって、本作もそこまで訴求しない。
ノンフィクションの映画化というアドバンテージを生かしたかったのだろうが、どこか物足りなさが残りましたね。

そういう意味では、70年代が舞台の映画ということで、
ディスコ・ブームをはじめとする、チョット時代がズレたものであっても、70年代の雰囲気を演出するためか、
やたらと70年代にヒットした音楽を使ってはいるのですが、どこかその全てが場違いな使われ方をしている。
これは音楽担当が悪いというよりも、こういう演出・編集を選択したデビッド・O・ラッセルの問題でしょう。
個人的には、「ただ懐かしい曲を使えばいいってもんじゃないでしょ・・・」というのが、正直な感想でした。

決して、つまらない退屈な映画だとは思わないが、どこか勿体ない。

詐欺をメインテーマにして扱った作品なわりには、痛快さに乏しく、
どうにも映画のスピード感が今一つ。ここは出演俳優たちの芝居のアンサンブルが見事だっただけに勿体ない。
さすがのクリスチャン・ベイルも見事な存在感で、映画の序盤から必死にハゲ隠しをする姿を披露したり、
決してカッコ良い姿ではないが(笑)、やはり最近の俳優でここまでできる人は少ないでしょうね。

主人公の妻を演じたジェニファー・ローレンスが、『世界に一つだけのプレイブック』に続いて、
本作のダメ妻ぶりでも評価されて、数々の映画賞を受賞しましたが、やはり若手女優でNo.1でしょうね。
映画の序盤ではそこまでの存在感は無いのですが、後半からは本領を発揮する感じでスゴい。

この映画のスゴいところは、俳優陣のアンサンブル演技が素晴らしいのは勿論のこと、
主人公のアーヴィンはじめ、全員がカッコ良いわけでも、カワイイわけでもないところ。

主人公のアーヴィンは前述した通り、映画の冒頭から約3分をかけて、
あれよこれよと手を尽くしてハゲ頭を隠すようにヘアーセットする姿をじっくりと映したり、
その後もデップリした腹を堂々とカメラに映したり、お世辞にもカッコ良いとは言えない姿を熱演。

アーヴィンの愛人シドニーを演じたエイミー・アダムスにしても、彼女にしては徹底した汚れ役で、
ヤケになってFBI捜査官を挑発したり、露出度の高い衣装を身にまとって、悪女に徹する姿が印象的ですが、
個人的には彼女のこれまでの出演作品とのギャップがあって、かなり無理をしたんでしょうねぇ〜。

FBI捜査官リッチーを演じたブラッドリー・クーパーも、どこか情けない男を泥臭く演じます。
それだけでなく、湧き上がる感情を抑えられない精神的な幼稚さがあったりして、イケ面だとしても、
よくよく見れば、女性からモテそうでモテないというのがよく分かる(笑)。彼もまたアンバランスさが実に見事。

アーヴィンの妻ロザリンを演じたジェニファー・ローレンスは前述の通りですが、
見るからに、超肉食系女子系の人でアーヴィンも圧倒されている感じの夫婦なのですが、
映画の後半では、大きなカギを握るキー・マンとなって、映画をかく乱する存在になってから輝き始めます。
特にマイアミでカジノを経営するヒゲ男に入れ込み始めてからは、どこか観客にとってもストレスな存在に
なっていく芝居がとっても上手くって、やっぱり彼女は若手女優としては随一の力量を持つ女優さんでしょう。

しかし、この映画の主要登場人物でトンデモない悪党はいない。
アーヴィンにしても、確かに詐欺師という意味では悪党だが、それは現実を冷静に分析して、
「騙されるより、騙す人間でありたい」と願って詐欺師になろうと決めたものの、
あくまでの職業としての詐欺に徹しながらも、時には良心が目覚める瞬間があるようで、
お近づきになった善良な市長であったカーマインの人の好さに感化されてしまう一面もあったりする。

そのカーマインにしたって、完全にクリーンな政治家とは言えないまでも、
政治を志した根っこのところは、アトランティック・シティをホントに良くしたいという気持ちそのものだし、
かなりグレーなことをやったりするところはあるだろうが、私利私欲を満たすためというより、
彼の行動の原点には、常にアトランティック・シティのことがあるというのは、真の政治家ということなのだろう。

人の良さは言うまでもないけど、チョットしたボタンの掛け違いで人生は転落してしまう。
それを気の毒に思う詐欺師という構図が、何とも皮肉なのですが、何とも収まりの良いラストに収束するのが、
この映画の何とも言えない妙味であり、本作の大きな特徴と言えば、この上手い具合に収まるラストだろう。

時に「70年代のヒット曲なら、なんでもいいんだべ?」と言わんばかりに、
場違いな選曲をしてしまうあたりが、デビッド・O・ラッセルの難点ではあるのですが、
それでも見事な出演陣のアンサンブル演技を、巧みに映画のラストに向けて、まとめ上げたのは素晴らしい。

それぞれの個性を生かしながら、映画を構成することは並大抵のことではなかったことでしょう。

具体的に「ここを修正すれば良くなる!」と指摘することは難しいでしょうが、
やはり前述した通り、決してつまらない映画ではないけど、どこか勿体ない映画。そんな印象が拭えない。

それは主演俳優陣の芝居合戦に気を取られ、どこかが大事な“何か”が欠落しているのかもしれません。
正直言うと、僕には本作、映画賞レース本見から早々に脱落してしまった理由がなんとなく分かるんですよね。
それは何かボタンの掛け違いの問題なのか、なんなのかは定まらず、いろんな理由があるとは思いますがねぇ・・・。

デビッド・O・ラッセルには、是非とも今後のハリウッドをリードする立場として頑張って欲しいなぁ〜。

(上映時間137分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 デビッド・O・ラッセル
製作 チャールズ・ローヴェン
    リチャード・サックル
    ミーガン・エリソン
    ジョナサン・ゴードン
脚本 エリック・ウォーレン・シンガー
    デビッド・O・ラッセル
撮影 リヌス・サンドグレン
編集 アラン・ボームガーデン
    ジェイ・キャシディ
    クリスピン・ストラザーズ
音楽 ダニー・エルフマン
出演 クリスチャン・ベイル
    ブラッドリー・クーパー
    エイミー・アダムス
    ジェレミー・レナー
    ジェニファー・ローレンス
    ルイス・C・K
    マイケル・ペーニャ
    アレッサンドロ・ニボーラ
    ロバート・デ・ニーロ
    ジャック・ヒューストン

2013年度アカデミー作品賞 ノミネート
2013年度アカデミー主演男優賞(クリスチャン・ベイル) ノミネート
2013年度アカデミー主演女優賞(エイミー・アダムス) ノミネート
2013年度アカデミー助演男優賞(ブラッドリー・クーパー) ノミネート
2013年度アカデミー助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) ノミネート
2013年度アカデミー監督賞(デビッド・O・ラッセル) ノミネート
2013年度アカデミーオリジナル脚本賞(エリック・ウォーレン・シンガー、デビッド・O・ラッセル) ノミネート
2013年度アカデミー美術賞 ノミネート
2013年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
2013年度アカデミー編集賞(アラン・ボームガーデン、ジェイ・キャシディ、クリスピン・ストラザーズ) ノミネート
2013年度イギリス・アカデミー賞助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2013年度イギリス・アカデミー賞オリジナル脚本賞(エリック・ウォーレン・シンガー、デビッド・O・ラッセル) 受賞
2013年度イギリス・アカデミー賞メイクアップ&ヘアー賞 受賞
2013年度全米映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2013年度ニューヨーク映画批評家協会賞作品賞 受賞
2013年度ニューヨーク映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2013年度ニューヨーク映画批評家協会賞脚本賞(エリック・ウォーレン・シンガー、デビッド・O・ラッセル) 受賞
2013年度サンフランシスコ映画批評家協会賞脚本賞(エリック・ウォーレン・シンガー、デビッドO・ラッセル) 受賞
2013年度インディアナ映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2013年度サウス・イースタン映画批評家協会賞脚本賞(エリック・ウォーレン・シンガー、デビッド・O・ラッセル) 受賞
2013年度ネバダ映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2013年度セントラル・オハイオ映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2013年度ノース・テキサス映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2013年度オクラホマ映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2013年度デンバー映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2013年度トロント映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2013年度ヴァンクーヴァー映画批評家協会賞助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞
2013年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ミュージカル・コメディ部門>作品賞 受賞
2013年度ゴールデン・グローブ賞主演女優賞<ミュージカル・コメディ部門>主演女優賞(エイミー・アダムス) 受賞
2013年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(ジェニファー・ローレンス) 受賞