アメリカン・ビューティー(1999年アメリカ)

American Beauty

チョット、ズルい映画だけど(笑)...
この映画の価値は認めざるえないというか、そりゃ凄い映画を撮ったもんだと感心しますよね。

いや、何がズルいって...
全世界共通の中年オヤジ趣味全開の映画って感じで、そりゃ面白くないわけがない(笑)。
それと、半ば“脱がせたもん勝ち”みたいな映画になっている点がズルいなぁ(笑)。

いつもながら、これ見よがしに得意げな芝居をするケビン・スペイシーですが、
今回はそんな嫌味ったらしさが、逆に良い効果をもたらしているようで、
中年オヤジの冴えない表情から、ギラギラした熱気ムンムンなオーラまで、実に的確に表現できていると思う。

それ以上に驚きなのは、本作で監督デビュー作となったサム・メンデスの演出だ。
前述のように、役者陣に恵まれたことは否定しませんが、彼の常に空間を意識させる画面設計や、
全体的に少し突き放して描く手法によって、上手く暴走する映画をコントロールできています。
そう、この映画、完全に客観的な立場から描いてしまうと、映画がコントロールできなくなった恐れがあり、
暴走するストーリーやシチュエーションに振り回されるだけの映画になっていた可能性が高いです。

ところが、この辺を上手くケアして、演出家が制御できたことにより、
丁度良く、一つ歯車が狂って、たちまちタガが外れたように暴走していく様子を描けています。

僕は本作、アメリカで小規模で公開され、口コミで評判を呼び、
評論化筋から高い評価を受け、徐々に上映館数を伸ばしていき、ロングランとなった頃から注目していたので、
多感な高校生の頃に(笑)、本作を映画館で観ているのですが、当時から思ったことは、
この映画をデビュー作で撮ってしまった時点で、恐ろしく次回作のハードルが高くなったことですね。

あくまで私見ではありますが...
現時点でサム・メンデスは本作を超える出来の映画は撮れていないと思います。

そりゃ、企画自体の良さも大きいですが、
この企画に投資して、この素晴らしい出来を見せられたら、誰だって絶賛するでしょうね。
(事実、本作はドリームワークス資本で製作されており、公開当時、スピルバーグが大絶賛していました)

それにしても...確かに公開当時から評論家筋の評価は極めて高かったのですが、
かなり異質な類いの映画でしたし、内容もかなり大きく賛否が分かれそうな内容である上に、
決して賞狙いの香りがする作品でもないことから、僕は本作がオスカーを獲得したことに驚きましたねぇ。
観る前の僕の勝手な予想を大きく覆すような、考えようによってはショッキングな映画であり、
こんなにブラックな映画にオスカー像が贈られたということは、極めて稀な例と言ってもいいと思います。

この映画、おそらく嫌いな人は凄く嫌いになるでしょうが、
ここまで救いのない、そしてここまで明るい未来が待っている人物がいない映画も珍しいですね。

言ってしまえば、失われてしまった“アメリカン・ビューティー”を嘆く内容なのですが、
一見すると、幸せそうな家族であっても、中身はてんでバラバラで、どう転んでも修復不能な末期。
父親のレスターは娘の友達に欲情し、守るべき家族がバラバラになり暴走真っ只中。
レスターの妻キャロリンは家庭生活を放棄し、不動産王との不倫の恋に燃え上がる。

そんな2人の一人娘のジェーンはクレイジーな両親に愛想を尽かし、ドラッグ・ディーラーと駆け落ち。
ジェーンの友達アンジェラはレスターを積極的に誘惑するものの、彼女は彼女で大きな秘密を隠している。

ジェーンのボーイフレンド、リッキーはマリファナの販売で多額の現金を得て、
ジェーンと一緒にニューヨークへ行き、ドラッグ・ディーラーとして生きていこうと決意している。
そんなリッキーの父親フィッツ大佐は、まるで理解できないリッキーを暴力で制圧するものの、
自分の潜在的な意識に気づき、その葛藤の中から、トンデモない行動に出てしまう・・・。

とまぁ・・・映画で描かれる登場人物の全てに、明るい未来を感じさせる人物はいません。

そして最強に本作のブラックなところは、
映画の冒頭とエンディングで流されるレスターのナレーションを聞く限り、
あたかも映画の結末によって、彼の魂が救われたかのようなハッピーエンドに聞こえるところですね。

但し、敢えて唯一、この映画の中でハッピーエンド的なニュアンスがあるとすれば、レスターの妻でしょうね。
強いて言えば、彼女は映画の結末によって救われた面があることは否定できません。
(ちなみに演じたアネット・ベニングも劇中、半ばヤケになったような芝居を見せるほどの熱演)

そうそう、レスターの妻に関して言えば、
レスターの再就職先であるバーガー・ショップで不倫相手とイチャイチャしていたところを、
レジ係に出てきたレスターに目撃されてしまうシーンが、何とも印象的ですね(笑)。
このシーンでケビン・スペイシーとアネット・ベニングが見せる絶妙な間が素晴らしいですね。

僕はサム・メンデスの演出家としての手腕には期待してるんですがねぇ〜。
どうしても前述したように、本作の後に続く作品が撮れていないことに、もどかしさを感じますね。

まぁ半ばスピルバーグも本作のラッシュ(試写)を観た時に直感的に思ったとは想像されますが、
デビュー作にトンデモない映画を撮ってしまうと、後が大変であるという典型例という感じがします。
まぁ同じことが、アンジェラを演じたミーナ・スヴァーリにも言えることなんですけどね...。
(そう、私生活で結婚したということもありますが、彼女もまた女優としてのキャリアが伸び悩んでいます。。。)

まぁいずれにしても、僕は本作を傑作だと思いますし、
本作のような映画がアカデミー賞に於いても評価されたことを嬉しく思いますね。

(上映時間116分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 サム・メンデス
製作 ブルース・コーエン
    ダン・ジンクス
脚本 アラン・ボール
撮影 コンラッド・L・ホール
音楽 トーマス・ニューマン
出演 ケビン・スペイシー
    アネット・ベニング
    ソーラ・バーチ
    ミーナ・スヴァーリ
    ウェス・ベントリー
    ピーター・ギャラガー
    クリス・クーパー
    サム・ロバーズ
    スコット・バクラ

1999年度アカデミー作品賞 受賞
1999年度アカデミー主演男優賞(ケビン・スペイシー) 受賞
1999年度アカデミー主演女優賞(アネット・ベニング) ノミネート
1999年度アカデミー監督賞(サム・メンデス) 受賞
1999年度アカデミーオリジナル脚本賞(アラン・ボール) 受賞
1999年度アカデミー撮影賞(コンラッド・L・ホール) 受賞
1999年度アカデミー音楽賞<ミュージカル・コメディ部門>(トーマス・ニューマン) ノミネート
1999年度アカデミー編集賞 ノミネート
1999年度全米俳優組合賞主演男優賞(ケビン・スペイシー) 受賞
1999年度全米俳優組合賞主演女優賞(アネット・ベニング) 受賞
1999年度イギリス・アカデミー賞作品賞 受賞
1999年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ケビン・スペイシー) 受賞
1999年度イギリス・アカデミー賞主演女優賞(アネット・ベニング) 受賞
1999年度イギリス・アカデミー賞作曲賞(トーマス・ニューマン) 受賞
1999年度イギリス・アカデミー賞撮影賞(コンラッド・L・ホール) 受賞
1999年度イギリス・アカデミー賞編集賞 受賞
1999年度全米映画批評家協会賞撮影賞(コンラッド・L・ホール) 受賞
1999年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞作品賞 受賞
1999年度ロサンゼルス映画批評家協会賞監督賞(サム・メンデス) 受賞
1999年度トロント映画批評家協会賞主演男優賞(ケビン・スペイシー) 受賞
1999年度ゴールデン・グローブ賞作品賞<ドラマ部門> 受賞
1999年度ゴールデン・グローブ賞監督賞(サム・メンデス) 受賞
1999年度ゴールデン・グローブ賞脚本賞(アラン・ボール) 受賞