ALWAYS 三丁目の夕日’64(2011年日本)

05年と07年に製作された『ALWAYS 三丁目の夕日』シリーズの第3作。

前作からは4年ぶりに製作された第3作で、今回は東京オリンピック前後を舞台にしており、
“鈴木オート”で働く六子の恋愛がメインに構成されており、ある意味で集大成的作品としたかったのでしょう。

結論から言うと、やはり4年のインターバルは大きいのでしょうか、
3本もシリーズを継続させると、高いクオリティを維持すること自体が難しくなるということもあり、
更に大人気シリーズとなったがゆえの宿命で、常に第1作との比較にあってしまうことへのプレッシャー、
そして作り手の迷いが強く感じられる部分があり、映画の出来とするとそこまで良いとは思えなかった。

確かに相変わらず、妙に懐かしい感覚は画面いっぱいに溢れています。
一般家庭に白黒テレビが普及し、今度は東京オリンピックに合わせてカラーテレビが発売され、
東京タワーの大きな役割である、カラー放送が始まったことに対する感動も見事に表現されている。

東京オリンピックの開会式で行われたブルーインパルスの飛行ショーについても、
CG映像とは言え、やはりこれは日本映画の威信をかけて描いたと言っても過言ではないのかもしれない。

ただ、僕にはどこかこの第3作は馴染めない部分があった。
それはおそらく、第1作で強く感じていたことなのですが、観客に「なんか、懐かしい!」と感じさせた時点で、
この映画のプロダクションの勝利であると思っていたのですが、それが本作には皆無であったこと。
正直、これは大きい。映画のアプローチそのものは確かに変わっていないのですが、
もっと東京オリンピック時期の空気感というものを、しっかりと表現して欲しかったし、どこか物足りない。

前作までを観る限り、このシリーズの作り手はそうとうな“鉄オタ”だと思うのですが(笑)、
本作でもオリンピックに合わせて開業した、東海道新幹線の再現シーンがあるとは言え、
前作までの東京の路面電車、“特急こだま”などの再現シーンと比較すると、あそこまでの感動は無かったなぁ。

このシリーズに何を求めるかの違いが大きいのだろうけど...
僕はこのシリーズは、ストーリーで楽しませようとするより、映画の雰囲気で楽しませようとした方がいいと思う。

確かに前述した、六子の恋愛に始まり、結婚、そして淳之介の独立など、
いろいろと観客の涙腺を刺激するような、人生の岐路を象徴するエピソードが多いし、
この先のシリーズを継続させる伏線にもなっているような気がするのですが、前作でも同じように感じましたが、
あまりに多くのエピソードに手を染めてしまうと、どれも中途半端に終わってしまい、収拾がつかなくなりますね。

このシリーズでなければ、それも良いのだろうけど・・・
やっぱり、この映画の場合はストーリーに凝ってしまうと、どうにもダメですね。
何故に第1作がヒットしたのか、今一度見直して、よく考察を重ねて欲しいところですね。

僕は別に観客に「なんか、懐かしい!」と感じさせる要素って、
常に同じことである必要はないと思うし、もっと言うと、高度経済成長期でなければならないということでもないと思う。

ただ、やっぱりこういう映画が常に新鮮味を失わないためには、
シリーズとして継続すると、必ずと言っていいほど第1作との比較があるので、
チョットしたことでどうしても2作目以降は、1作目と比較してダメ出しをされることが多いので、
1作目の良さというのは一体何だったのか、しっかりと分析をしておかなければならないと思うのです。

少なくとも本作の場合は、東京オリンピック開催期が舞台なわけですから、
もっと明確に東京オリンピック期の時代の空気というものを、しっかりと画面に吹き込んで欲しかったなぁ。

このままの勢いでいくと、定期的に続編が製作されるのかもしれませんが、
個人的にはこのシリーズにはストーリーではなく、雰囲気を大切にして欲しい。
勿論、本作でもCGで当時の東京の街並みを再現したシーンはあるのですが、あれでは物足りない。

東京タワー界隈の風景として、プリンスホテルが映ったり、
高度経済成長期に東京で育った方々であれば、思わず懐かしいと感じるシーンがあるにはあるのですが、
個人的にチョット残念だったのは、映画のラストにある新幹線の発車シーンは「作り物感」丸出しだったこと(笑)。

まぁ・・・作り物であることは仕方がないのだけれども、
もっと、しっかりと作り込んで「作り物感」をできる限り抑えて描くことは可能だったと思うし、
どこか人工的な世界観という印象を持ってしまったせいか、前2作と比較すると、作りが雑に感じられたなぁ。

強いて言うと、淳之介の独立を描く、映画終盤での別れのシーンは悪くない。
おそらく本作で、最も強く観客の涙腺を刺激したシーンではないでしょうか。ホントはこれと同じような強さを、
六子の恋愛のエピソードに持たせて欲しかったのですが、相手の医者の素性に時間を費やしたりと、
人情劇に傾けようとし過ぎたあまり、従来のシリーズの良さを失ってしまったのが残念ですね。

勿論、「鈴木オート」の人情劇は本シリーズの魅力の一つでもあるのですが、
それはこの時代の考証がしっかりなされ、画面にその時代の空気感を吹き込めていればこそなんですね。

ちなみに本作はシリーズで初めて、3D上映された作品となりました。
『アバター』の世界的ヒットにより、一時的に3D映画が流行りましたけど、それを意識した映像ではありましたね。
正直言って、この作品を3D映像で観ることの意義って、僕にはピンと来ない部分はあるのですが、
本作の公開されると、たちまち大ヒットとなり30億円を超える興行収入となりました。

やはり注目されるシリーズであるからこその宿命ではありますが、
是非とも高度経済成長期から現代への変遷を綴った、長寿シリーズとして続いて欲しいですね。

僕個人は、本作の出来には満足できるものではないのだけれども、
それでも本シリーズは日本映画界の今後を考えると、一つの形になるべき作品だと思います。
いろいろな意味で勢いを失ってしまった日本。最も勢いがあった時代を思い出させるために必要な映画なのでしょう。

(上映時間143分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 山崎 貴
製作 宮崎 洋
    加太 孝明
    亀井 修
    平井 文宏
    市川 南
    服部 洋
    弘中 謙
    阿部 秀司
    大橋 善光
    島村 達雄
原作 西岸 良平
脚本 古沢 良太
    山崎 貴
撮影 柴崎 幸三
美術 上條 安里
編集 宮島 竜治
音楽 佐藤 直紀
出演 吉岡 秀隆
    堤 真一
    小雪
    堀北 真希
    もたいまさこ
    三浦 友和
    薬師丸 ひろ子
    須賀 健太
    小清水 一輝
    森山 未來
    染谷 将太
    大森 南朋
    マギー
    温水 洋一
    ピエール 瀧
    高畑 淳子