ALWAYS 三丁目の夕日(2005年日本)

確かにこの映画は...昭和30年代の東京を再現したという意味で、凄い。
おそらく日本映画界としては異例な規模で、圧倒的なまでの高い水準を誇る映像表現だろう。

団塊の世代を中心に、昭和30年代ノスタルジアとして大ヒット作品となった本作、
実は原作はマンガなんですね。いや、それでも良く出来た映画であることは僕も同意します。

チョットいやらしい話しですが...本作の成功は東映も「してやったり...」だったろうなぁ(笑)。
こういうノスタルジアの再評価は、映画の冒頭のロゴを観ても分かる通り、東映が一番、望んだ結果だろうから。
おりしも時代は東京オリンピックへ向けて、経済も急成長し、人々の生活が劇的に変化していった頃で、
交通インフラの整備も急ピッチで進み、街の風景なんかも短期間で劇的に変化した時代です。

この時代に幼少期を過ごした方々は、今で言う団塊の世代の方々が中心で、
高度経済成長後、バブル経済期、そして平成の不況期の日本を支えた世代ですから、
言ってしまえば、高度経済成長後から現在の日本へ橋渡しをした世代と言えます。
(おそらく今後も21世紀の日本に於いて、重要なポジションを担うのでしょうが...)

そんな世代の方々が口々に「懐かしい...」と吐露できるわけですから、
僕は賛否両論あれど、この映画の最初の目的は達成されたと言ってもいいと思います。

僕は映画がノスタルジーの道具であること自体は一向に構わないし、
そういった映像表現から郷愁に浸るというのも、映画の機能としてとても重要だとは思うけれども、
欲を言えば、何か一つでいいから、本作の武器となる決め手が欲しかったというのも本音かな。
昭和30年代の東京をとても良く表現できているのは分かるけれども、残念ながらこの映画、決め手がない。

例えば、本来的には映画の大きなポイントであったはずの東京タワーの存在。
僕はもっと賢い撮り方をして欲しくって、どうしてもっと劇中、観客に東京タワーの存在を意識させないのか、
ずっと不満に思っていたし、映画のクライマックスでも完成間近の東京タワーを映さないのは勿体ないと思う。
最新のVFX技術を使って、再三、喧騒の上野駅や路面電車を登場させていたのですから、
建設中の東京タワーを映すぐらい、ハッキリ言って、朝飯前に近い状態だったはずなのに・・・。

キチッとした意識づけが弱いためか、
映画のクラマックスで六子が帰省するために乗車中の列車から「東京タワーが見える!」というシーンでも、
今一つ達成感が無く、一体、何のために作り手がここまで必死に世界観を作り込んだのかよく分からない。

少なくとも、東京タワーの建設と共に過ごす数ヶ月というファクターは、もっと重要であったはずです。

東京タワーでも何でもいいのですが、こうして建造物を建てるという感覚はひじょうに重要で、
映画の物語と同時進行で進めていくと、もっと観客に強い達成感を与えられたはずなだけに勿体ないですね。
(この成功例として、本作の作り手は『刑事ジョン・ブック・目撃者』を観て欲しい)

もう一つ注文を付けたくなるのは、個人的には映画の前半の芝居の胡散臭さが気になったこと。
特に「鈴木オート」の主人の勘違いを描いたドタバタ・エピソードは、危うく映画を壊すところでした。
役者陣は頑張っているとは思うが、たいへん申し訳ない言い方ですが、これではTVドラマの延長線ですね。
いい加減、こういうレヴェルからいち早く脱さないと、日本映画はホントに腐ってしまいます。

が、全体として規模の大きな日本映画としては、よく頑張ったとは思う。
そもそもが例え作り手の自己満足かもしれないが、東京の路面電車を再現した映像には感動してしまった。
そしてそこへ、オート三輪が何ら違和感なく並走している光景は、ホントに郷愁の感を刺激する。
(まぁ・・・昭和30年代を全く生きていない僕が言うのもナンですが...)

あと、この時代のお約束としてテレビが初めて家にやって来たエピソードがありますが、
大勢の人々が集まって、テレビが映ることに感動し、必死になってプロレスを観戦するシーンは素晴らしい。
今でこそ、こんな大騒ぎにはなりませんが、当時、如何にテレビが新鮮なメディアであったかを実感させられる。

今も3Dのテレビを購入したら、多少の話しのネタにはなるかもしれませんが、
さすがに近所の人々が集まって、人によっては酒を持って、お祝いに駆けつけるなんてありえませんからねぇ。
テレビを買った程度で、今時、こんな大騒ぎになっていたら、ただの近所迷惑扱いされるでしょうね。。。

数多くのキャストの中で一番良かったのは、それは小雪。
申し訳ないけど、彼女以外は少しずつ不足な部分を感じるのですが、彼女は安定して良かったですね。
そうなだけに映画の終盤でほとんど登場しなくなるのは、チョット勿体なかった気がしたんだけれども。

逆のことを言えば、主演の茶川を演じた吉岡 秀隆はややミスキャストだと思う。
辛らつな言い方かもしれませんが、あそこまでの老け役はまだ無理だと感じた。

劇場公開されると、アッという間に観客動員200万人を超えてしまい、
ロングラン上映となった結果、30億円を超える興行収入があり、続編も製作されました。
まぁ本作のような昭和30年代ノスタルジーという、絞ったコンセプトがある映画は強いんですね。
これからの映画産業はこうした戦略が、より必要になってくる可能性があります。

確かに僕も「商売するには、常に何かしらの戦略とビジョンが必要」と思ってはいるのですが、
個人的には大好きな映画にまで、こういう押し寄ってくるのは、なんだかフクザツな気分ですねぇ。。。
(まぁとは言え・・・戦略は映画製作の段階でも、作り手に必要なものではあるんですがねぇ)

(上映時間133分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 山崎 貴
製作 高田 真治
    亀井 修
    島谷 能成
    平井 文宏
    島本 雄二
    西垣 慎一郎
    中村 仁
    島村 達雄
    高野 力
原作 西岸 良平
脚本 山崎 貴
    古沢 良太
撮影 柴崎 幸三
編集 宮島 竜治
音楽 佐藤 直紀
照明 水野 研一
装飾 龍田 哲児
録音 鶴巻 仁
出演 吉岡 秀隆
    堤 真一
    小雪
    堀北 真希
    三浦 友和
    もたい まさこ
    薬師丸 ひろ子
    須賀 健太
    小清水 一揮
    マギー
    温水 洋一
    小日向 文世
    木村 祐一
    ピエール 瀧
    麻木 久仁子
    石丸 謙二郎
    松尾 貴史