オールウェイズ(1989年アメリカ)

Always

個人的には好きな映画で、妙に愛着を感じる不思議な作品ですね。

当時、ハリウッド随一のヒットメーカーであった、スティーブン・スピルバーグの待望の監督作品でしたが、
内容が予想外なほどコテコテの恋愛映画だったせいか、あまりヒットしなかったようですが、
これは恋愛映画というところにこだわりさえしなければ、映画の出来自体はそこまで悪くないと思うのです。

映画は恋人に「愛してる」と言えぬまま操縦する飛行機で事故死してしまった、
山火事消火にあたるパイロットの男に訪れる、チョットした奇跡を描いたファンタジー・ロマン。

死後の世界があるのかは僕にはよく分からないけれども、
最後に残された人を前に進ませるためにも、やり残したことをできる猶予が与えられるというのは、
まるで夢のような話しで、そのファンタジーの誘い役としてオードリー・ヘップバーンがゲスト出演している。
主役級の扱いではなくゲスト出演の扱いではあったものの、実質的に本作が彼女の遺作となってしまいました。

80年代に入ってからのヘップバーンは、ユニセフでの活動などに注力しており、
映画女優としての仕事をセーブしておりましたので、晩年の在りし日の姿はとても貴重ですね。
そんな大女優の遺作が、スピルバーグの監督作品ということは、意外に忘れられているのかもしれません。

80年代のスピルバーグはハリウッドで最も勢いのある映像作家であったことから、
本作がどこか物足りなく映ってしまい、残念ながらヒットはしなかったようですが、
これほどまでにスピルバーグが気恥ずかしいぐらい、男女のロマンスに肉薄できたことはかつて無かったと思います。

それでいながら、映画の冒頭で展開される山火事消しのパイロットのタフな操縦を
描いたシーンについては、やはりILMの技術の賜物であり、これはそこそこの見応えだと思いますね。

それと、本作の大きなコンセプトとして、
僕は実は本作の主役ピートをリチャード・ドレファスに演じさせるということもあったのではないかと思いますね。
リチャード・ドレイファスはデビューしたての頃、75年の『JAWS/ジョーズ』、77年の『未知との遭遇』と
連続してスピルバーグが大きな役で彼を起用していて、リチャード・ドレイファスが映画俳優として活躍していくのに、
スピルバーグの存在はとても大きかったはずなのですが、リチャード・ドレイファス自身、70年代から薬物依存が
深刻化しており、80年代に入ると幾度となくトラブルを起こして、完全に映画俳優として低迷していました。

86年の『ビバリーヒルズ・バム』で復帰したところで、
おそらくスピルバーグも再び第一線に担ぎ出したいとする意向があったのではないかと思います。
普通に考えると、撮影当時40歳を過ぎた年齢ではありましたが、リハビリ生活が長かったせいか、
当時の実年齢よりも老けて見えていたリチャード・ドレイファスなだけに、なかなか起用されないと思うんですよね。

でも、本編を観ると、このキャスティングは絶妙でもあったと思います。
やっぱりリチャード・ドレイファスは上手いですね。映画全体のバランスを上手く合わせてくれます。
一見すると、まだチャキチャキしたところのあったホリー・ハンターとアンバランスな感じもあるのですが、
そんな懸念も全て払拭してしまう仕事ぶりで、90年代は見事に映画俳優として復調していきました。

少々ベタな演出ではありますが、やっぱり主役のピートが生前、最後にドリンダとキスし、
けたたましくプロペラの音が鳴り響く滑走路で、去り行くドリンダに向かって「愛してるよ!」と叫ぶも、
ドリンダにはまるで聞こえていないというすれ違いのシーンが、強く印象に残りますね。

ところどころ、疑問符のつくシーン演出はあるものの、
個人的にはこの前半のすれ違いのシーンと、ピートがドリンダに別れを告げるひと時は傑出したシーンだと思う。
露骨に観客の涙を求めるような演出ではないけれども、切々とピートの想いをスピルバーグも淡々と綴ります。
これはハリウッド的とは言えない演出ではありますが、実に観客の心に訴えるものは大きいと思います。

よく“死後の世界”の有無について論議されることはありますが、
ピートに与えられた時間というのは、“死後の世界”というよりも、“人生のロスタイム”だろう。
言ってしまえば、ボーナスステージであり、この世でやり残したことを実現する猶予を与えられたということ。

90年にほぼ同じようなストーリーである、『ゴースト/ニューヨークの幻』が世界的な大ヒットになったおかげで、
本作の存在自体が忘れ去られてしまった感がもの凄く強いのですが、僕は本作の出来は全く遜色ないものと思う。

むしろ個人的に感じているのは、本作の方が深遠なテーマに肉薄しているということ。
賛否はあると思いますが、次の一歩を踏み出して“未来”を築くために、ときに“過去”が邪魔してしまうということ。
特に本作で描かれたドリンダはピートの事故死を悔み切れず、前へ進むことができていないことから、
オードリー・ヘップバーン演じる“天使のハップ”からピートへ白羽の矢が立つというファンタジーが起きます。

だからピートは「ボクは君の心から出ていくよ」と囁くのです。
これは冷静に考えると、とてつもなくツラいこと。ピートにしても、胸が張り裂ける想いで伝えるわけです。
やっぱり人間って、誰しも心の何処かに「自分のことを忘れないで欲しい」という気持ちがあるものだと思うから、
これって、とてつもなく重たい囁きだと思うんですよね。ドリンダとの日々がピートにとっては特別な時間だからこそ。

しかし、このピートの本意に反していても、
「ボクは君の心から出ていくよ」という囁きこそが、ピートのドリンダに対する愛なんですね。
なかなか受け入れられることではないだろうが、ピートがいるとドリンダに新しい恋は生まれないですからね。

そういう意味では、『ゴースト/ニューヨークの幻』と似ているとは言われますが、
僕は本作は似て非なる映画だと思うし、本作の方が遥かに前向きな印象を受ける作品だと思います。

ちなみに本作はダルトン・トランボが原作を執筆しているらしく、
実は43年に映画化された『ジョーという名の男』のリメークで、かなり大胆にアレンジされています。

個人的には好きな映画で、スピルバーグが描いたロマンスということでも忘れられない作品ですね。
映画の出来自体もそこまで悪いものではないと思います。確かにヒットが望める内容ではないかもしれませんが、
スピルバーグの凄いところは、本作のような比較的ライトな映画も、実にアッサリと撮ってしまうところだ。

キャスティングも抜群に素晴らしく、ピートの同僚アルを演じたジョン・グッドマンは勿論のこと、
やっぱりヒロインのドリンダを演じたホリー・ハンターは、この時期に出演した彼女の芝居はほとんどが素晴らしい。

(上映時間122分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 スティーブン・スピルバーグ
製作 スティーブン・スピルバーグ
   フランク・マーシャル
   キャサリン・ケネディ
原作 ダルトン・トランボ
脚本 ジェリー・ベルソン
撮影 ミカエル・ソロモン
特撮 ILM
編集 マイケル・カーン
音楽 ジョン・ウィリアムズ
出演 リチャード・ドレイファス
   ホリー・ハンター
   ジョン・グッドマン
   ブラッド・ジョンソン
   マーグ・ヘルゲンバーガー
   オードリー・ヘップバーン
   キース・デビッド
   デイル・ダイ