あの頃ペニー・レインと(2000年アメリカ)

Almost Famous

確かにこの映画は、70年代ロックに如何に興味があるかによって、
その感じ方が大きく変わってくるとは思う。だけど・・・それでも「良い映画は、やっぱり良い」と主張したい。

15歳にしてローリング・ストーンズ誌の専属ライターになったキャメロン・クロウ。
彼はティーン時代に多くのバンドやアーティストにインタビューをとると共に、
ツアーにも同行し、実に数多くのトピックや評論を寄稿し、やがてはライナー・ノートを書いたりもしている。

その後、彼は取材したバンド、ハート≠フナンシー・ウィルソンと結婚し、
かねてからシナリオを書いていた『初体験リッチモンド・ハイ』が82年に映画化され評価され、
89年の『セイ・エニシング』で映画監督デビューして、現在は映画監督として確固たる地位を築いている。

「ベッドの下から“自由”を見つけるのよ」と自由奔放に育った姉から言われた主人公ウィリアムは、
姉の部屋のベッドの下から、姉が大量に購入していたレコードの数々を見つけ、魅了されてしまう。
ロック・カルチャーにはまるで理解の無かった大学教授の母は、ウィリアムを弁護士に育てるつもりでいたが、
すっかりロックに魅了されてしまったウィリアムの勢いを止められずにいた。

15歳になったウィリアムは母を説得し、新進バンドスティル・ウォーター≠フツアーに同行。
そこで知り合ったグルーピーの女の子、“ペニー・レイン”に密かな恋心を抱きながらも、
トラブルや痴話ゲンカを繰り返して、なかなか進まないバンドの取材に奔走するわけです。

映画はキャメロン・クロウの自伝的物語とモデルとはしておりますが、あくまでフィクション。
とは言え、70年代ロック好きならほぼ間違いなく、「なるほどね」と思わせるエピソードが一つはある。

そしてさり気なく語られる登場人物の台詞、一つ、一つもたまらなく面白いですね。
例えば映画の序盤、姉が家に帰ってきて、静かに家へ入ろうとするシーンで、
姉がジャケットの中に隠していたレコードを母親が取り上げて、こう言います。
「ドラッグとセックスの詩ばかりなのよ。見てごらんなさい、彼らの目。ドラッグ漬けの目よ!」と。

ちなみに姉から取り上げたレコードはサイモン&ガーファンクル≠フ『Bookend』(ブックエンド)。
(思えば、05年にアート・ガーファンクルはマリファナの不法所持で逮捕されている。。。)

それだけでなく、映画の中盤にあるLSD入りのビールを飲んで大失敗をしてしまったラッセルが、
落ち込んだ様子でバスに乗り込んできて、バンド・メンバーが黙り込んだ中で、
どこからともなくエルトン・ジョンの『Tiny Dancer』(可愛いダンサー/マキシンに捧ぐ)を歌い始め、
バスの中で全員で大合唱になるシーンがあるのですが、これは映画史に残る名シーンと言っていいと思う。

そして、この映画が「うん、良い映画だ」と改めて実感させるのは、
グルーピーの女の子“ペニー・レイン”を演じたケイト・ハドソンの存在だろう。
彼女がフレームインしただけで、映画の雰囲気がガラッと変わってしまうという、実に鮮烈な存在感だ。

日本でのキャッチコピーが、「キミがいるから、すべてがキラキラ眩しい15歳」というものだったのですが、
今になって思えば、珍しくこのキャッチコピーが映画の全容を物語っていますね。

元々、キャメロン・クロウは青春映画を撮るという点では長けていたことは事実ですが、
さすがに自伝的物語の映画化というだけあってか、今回はかなり力が入っていたのは事実ですね。
全てが自ら体感、そして体験したエピソードが基になっているわけで、カメラの視点が良い意味で主観的だ。
そしてノスタルジー体験であると同時に、ただ懐かしむだけではなく、母親の愛情やグルーピーの人々など、
彼が本質的には体感していない側面を深耕したり、“ペニー・レイン”という架空のヒロインを打ち立てたりと、
キャメロン・クロウの青春の追体験に更に新たな命を見事に吹き込んでいる。

70年代の洋楽ファンなら、多くの方々が気づいてしまうかもしれませんが、
実を言うと、この映画にも年代的な矛盾があるにはある。

例えば、映画の序盤で69年、11歳のウィリアムが姉のベッドの下から数々のレコードを見つけるシーンで、
色とりどりのアルバム・ジャケットの中に、71年に発表されたジョニ・ミッチェルの『Blue』(ブルー)が紛れていたり、
音楽マニアのキャメロン・クロウにしては珍しいミスがあったりするのですが、
これらレコードがある種、インテリア的に大切に扱われて画面に映っているので、許容しましょう(笑)。

ただ敢えて言えば、乱気流に巻き込まれた飛行機が大揺れで
命の危険を悟ったバンド・メンバーたちがそれぞれ懺悔を始めるシーンは少し安直だったかな。
勿論、あれはあれでレイナード・スキナード≠竍チェイス≠ネどの不慮の飛行機事故で他界した
出来事に対するオマージュだったのだろうけれども、もうチョット良い描き方があったと思う。

ただ、これはあくまでご愛嬌。致命的なミステイクではないと思う。

誰もがその大小はともかく、一番、大切にしたい思い出はあるはずで、
そんな思い出を意図的に美化しながらも、実に建設的かつ創造的に描けた好例だと思いますね。
こんなにパーソナルな内容なのに、キラキラ眩しい映画ってのは、そうそう滅多に作れるものじゃありません。

そういう意味で、僕は近年、発表された青春映画の中では一番、評価に値する作品だと思っています。
こういう映画って、如何に観客を物語の世界観を体感させるかが重要なわけで、
その点でこの映画は画面設計なんかで顕著なのですが、ひじょうに秀でていると思いますね。

例えばスティル・ウォーター≠フライヴをウィリアムが最初に見るシーンで、
バンドの面々がステージに上がる準備ができたとこで、一気に客電が落ちる瞬間がある。
僕はこのシーンなんかは、凄く良く表現できているなぁ〜と感心しましたね。
ライヴが始まる瞬間に何とも言えないドキドキさせる感覚を、実に上手く描けていると思いますね。

それにしても僕の青春にも“ペニー・レイン”のような女性がいたら、変わっていただろうなぁ。
思わず下着も着けずにコート一枚でクルクル回る彼女を観て、口に指くわえて、そう思っちゃいましたよ(苦笑)。

(上映時間123分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 キャメロン・クロウ
製作 キャメロン・クロウ
脚本 キャメロン・クロウ
撮影 ジョン・トール
美術 クレイ・A・グリフィス
    クレイトン・R・ハートリー
編集 ジョー・ハットシング
    サー・クライン
音楽 ナンシー・ウィルソン
    ダニー・ブラムソン
    ピーター・フランプトン
出演 ビリー・クラダップ
    フランシス・マクドーマンド
    ケイト・ハドソン
    パトリック・フュギット
    ジェーソン・リー
    アンナ・パキン
    ファイルーザ・バルク
    フィリップ・シーモア・ホフマン
    ノア・テイラー

2000年度アカデミー助演女優賞(ケイト・ハドソン) ノミネート
2000年度アカデミー助演女優賞(フランシス・マクドーマンド) ノミネート
2000年度アカデミーオリジナル脚本賞(キャメロン・クロウ) 受賞
2000年度アカデミー編集賞(ジョー・ハットシング、サー・クライン) ノミネート
2000年度イギリス・アカデミー賞オリジナル脚本賞(キャメロン・クロウ) 受賞
2000年度イギリス・アカデミー賞音響賞 受賞
2000年度ボストン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2000年度ボストン映画批評家協会賞監督賞(キャメロン・クロウ) 受賞
2000年度ボストン映画批評家協会賞助演女優賞(フランシス・マクドーマンド) 受賞
2000年度ボストン映画批評家協会賞脚本賞(キャメロン・クロウ) 受賞
2000年度シカゴ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2000年度シカゴ映画批評家協会賞助演女優賞(フランシス・マクドーマンド) 受賞
2000年度シカゴ映画批評家協会賞脚本賞(キャメロン・クロウ) 受賞
2000年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演女優賞(フランシス・マクドーマンド) 受賞
2000年度サンディエゴ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2000年度サンディエゴ映画批評家協会賞監督賞(キャメロン・クロウ) 受賞
2000年度サンディエゴ映画批評家協会賞助演女優賞(フランシス・マクドーマンド) 受賞
2000年度サンディエゴ映画批評家協会賞脚本賞(キャメロン・クロウ) 受賞
2000年度ラスベガス映画批評家協会賞助演女優賞(ケイト・ハドソン) 受賞
2000年度フロリダ映画批評家協会賞助演女優賞(フランシス・マクドーマンド) 受賞
2000年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞助演女優賞(ケイト・ハドソン) 受賞
2000年度サザン・イースタン映画批評家協会賞作品賞 受賞
2000年度サザン・イースタン映画批評家協会賞助演女優賞(フランシス・マクドーマンド) 受賞
2000年度サザン・イースタン映画批評家協会賞脚本賞(キャメロン・クロウ) 受賞
2000年度カンザス・シティ映画批評家協会賞助演女優賞(ケイト・ハドソン) 受賞
2000年度フェニックス映画批評家協会賞作品賞 受賞
2000年度フェニックス映画批評家協会賞助演女優賞(ケイト・ハドソン) 受賞
2000年度フェニックス映画批評家協会賞脚本賞(キャメロン・クロウ) 受賞
2000年度ゴールデン・グローブ賞<ミュージカル・コメディ部門>作品賞 受賞
2000年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(ケイト・ハドソン) 受賞