アリス・イン・ワンダーランド(2010年アメリカ)

Alice In Wonderland

まぁ・・・つまらんわけでもないのですが...これはチョットなぁ〜。。。

児童文学『不思議の国アリス』、『鏡の中のアリス』を下地とした映画ですが、
まぁ表現技法としては、如何にもティム・バートンが好きそうなアプローチだし、主演級にジョニー・デップ、
ヘレナ・ボナム=カーターというのは、いつものティム・バートンの監督作品と同じ流れを汲んでいる。

ただ、どうしても既視感が拭えない映画というか、想像の域を出ない映画なんで、
ティム・バートンとジョニー・デップのコンビと聞いただけで、おおよその映画の内容が想像できてしまい、
また実際の中身もその想像の域を出ないというのが、ツラいなぁ。ティム・バートンには原点回帰してもらって、
得意な分野の映画は勿論のこと、かつて撮った『エド・ウッド』のような映画も是非トライしてもらいたいと思う。

映画で描かれたアリスの夢の中の世界は、アリスが子供の頃から見続けてきた、
不変的な夢の世界であって、アリス自身も「これはあくまで夢」と認識しながら、夢の続きを見てきました。

つまり、彼女が作り上げたワンダーランドという見方もできるのですが、
そんなワンダーランドに閉じこもっているキャラクターたちという感じがして、閉鎖的な世界観なのですが、
僕にはそんな姿がまるでティム・バートン自身にも重なり合うように見え、そろそろシフトチェンジが必要ではと思った。

本作は3D上映された作品ですが、その醍醐味は味わえる映像ではあります。
僕は2Dで観賞してますが、おそらく3D映像で観ると、また格別な迫力を味わえる映画でしょうね。
2010年年頃は『アバター』の世界的大ヒットもあって、3D上映がブームでしたけど、その辺の時流の後押しもあって、
ティム・バートンが描きたい世界観と上手くマッチしましたね。これはタイミングが良かった映画という気もします。
今なら、3D上映だからと言って映画がヒットするというわけでもないですから、この企画自体が成り立ちにくいかも。

劇場公開当時、賛否はあったようですが、アリスを演じたミア・ワシコウスカは良かったと思いますし、
かなりキツめのメイクで登場したアン・ハサウェイも、一見すると彼女だと分からない感じですが、印象に残ります。
やっぱ、そう考えるとジョニー・デップ演じるマッドハッターなんですよね。悪くないけど、彼もまたどこか既視感ある。

まぁ、2012年の『ダーク・シャドウ』でも同じようなテンションのゴシック・コメディで
再びコンビを組みましたけど、ジョニー・デップ自身も好きなのだろうし、ティム・バートンと相性が良いのは分かるが、
やはり彼らのコンビ作品となると、ほぼほぼパターン化されたような仕事ぶりになっているのが、ツラいかなぁ。

ストーリー的には、かなりティム・バートンらしいダークな味付けがされているので、
お世辞にも『不思議の国のアリス』と同じ調子の映画とは言い難い。かなり大人向けというか、ブラックなところがあり、
ヘレナ・ボナム=カーター演じる“赤の女王”が気に食わないことがあったら、やたらと「首をはねろ!」と言ったり、
映画の冒頭の求婚されるシーンにしても、どこか醜悪な雰囲気が漂う感じで、一筋縄にはいかない感じだ。

この辺のダークさはティム・バートンらしくて良い。こういう部分は失わせて欲しくはない。
ただ、僕の既視感の内側にあるのは、「もっとソリッドなアクションがある映画を観たい」ということがあるからだと思う。

映画の骨格がほぼCGに頼っているということもあって、どこか作り物感が拭えないし、
僅かながらあるアクション・シーンにしても、ほぼ超人的な特殊映像効果に頼った演出なものだから、
やはり作り物感が否めず、どうにも躍動感あるものにはならないと言うか、僕の中で盛り上がるものがない。
(実写とモーション・キャプチャーの融合というのは、悪くはないのですがねぇ・・・)

そのせいか、映画がいつも一本調子なものに映ってしまい、どうにも面白くないんだなぁ。
この傾向がずっと続いているせいか、僕の中ではティム・バートンの映画に悪い意味での先入観が出来た感じだ。
僕は例えば、『バットマン』を撮っていた頃のティム・バートンが大好きなだけに、早く軌道修正して欲しい。
彼の映画の良さは良さとして当然あるだけに、ずっと同じような世界にこもった創作活動に終始するのは勿体ない。

ダークなファンタジーが得意なのは分かるけど、ティム・バートンにはもっとワクワクさせられる映像が
展開する映画を見せて欲しいんだよなぁ。景観などでCGを使うことが主体となってからは、
ヴィジュアル・デザイン的にもほとんど一緒に見える。こうなると、テンション的にもほとんど一緒になってしまう。
そのせいか、映画にも躍動感が伴わずどこか表層的な映画になってしまうなぁ。どうにも盛り上がらない。

『不思議の国のアリス』の映画化という企画の時点で、ハードルが凄く高いと感じます。
敢えて、それに挑戦したティム・バートンはスゴいと思いますけど、もっとストレートに映画化して欲しかった。

やはり2つの古典的な物語を融合するというコンセプト自体が難しかったと思うし、
そこに“赤の女王”のような独裁者を描くというのは、更に複雑なことをやろうとした感じで、より難しい。
そして皆、“赤の女王”の陥落を期待しているけど、誰もクーデターを起こす行動力はないし、
それを夢の主人公アリスに託しているという構図は、とても政治的ですが、映画としてはよりハードル高い。

“赤の女王”と“白の女王”の対立的な描き方については、もっと強調しても良かったかなぁ。
まるで性格が違うという設定ではないので、直接的に対決することはないとは言え、“白の女王”が目立たない。
演じるアン・ハサウェイが悪くはないだけに、“赤の女王”の方ばかりが目立ってしまうのは、少しアンバランス。

それで結果として、こういう出来になってしまったのだから、もっとストレートに撮った方が良かったように思えるのです。

まぁ、ディズニー配給の映画ですから、かなり規制があったとは思うのですがね、
ティム・バートンが思いのままに演出していたら、おそらくこんなものではないだろうと思えるだけに勿体ない。
(もともとティム・バートンはウォルト・ディズニーで働いていただけに、予め分かっていたことでしょうがね)

ところで、夢って不思議なものだなぁと、40歳近くなった今でも思う。
本作で描かれた自分探しの夢を見続けているアリスの夢のようにはいかず、自分の場合はベースとなるのは、
あくまで現実世界であるものの、時間設定がメチャクチャになっていて、現在の生活を送っている様子でありながら、
何故か高校に通っているとか、時制が狂って支離滅裂な内容となっていることが多く、細部は覚えていない。
かつては、「これは夢だ」と自覚することはありましたが、最近はそういった自覚も無くなりましたね。

夢は自分探しや、自我の表れというよりも、日常の中に非日常が入り乱れたという感じですかね。
あくまでワンダーランドではなく、あくまで日常の延長線上ですから、だから「これは夢だ」とは自覚しないのかも。

映画のラストにジョニー・デップ演じるマッドハッターが踊る“ファッターワッケン”ですが、
手や足をクネクネと超人的な踊りで表現する歓びの舞いですが、これは実写とモーション・キャプチャーの融合で
表現できたもので、確かにどこか印象に残るダンスなんだけど、これももうチョット盛り上げて欲しかったなぁ。

あの“ファッターワッケン”を観ていて思いましたが、
本作のマッドハッターって、どことなくクリストファー・ウォーケンのシルエットを感じさせます。
ひょっとしたらティム・バートンも『バットマン リターンズ』の実業家シュレックを意識していたのかもしれません。

本作はティム・バートン色豊かに、『不思議の国のアリス』を映画化したというコンセプトそのまんまなので、
ある意味では、ティム・バートンの映画のファンにとっては外さない作品なのかもしれませんね。

ただ、敢えて言いたい。ティム・バートンは一度、ジョニー・デップと離れて、
もっと80年代〜90年代にかけて撮っていたような映画を作って欲しい。きっと、良い意味での原点回帰になるはずだ。

(上映時間108分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 ティム・バートン
製作 リチャード・D・ザナック
   ジョー・ロス
   スザンヌ・トッド
   ジェニファー・トッド
原作 ルイス・キャロル
脚本 リンダ・ウールヴァートン
撮影 ダリウス・ウォルスキー
編集 クリス・レベンソン
音楽 ダニー・エルフマン
出演 ミア・ワシコウスカ
   ジョニー・デップ
   ヘレナ・ボナム=カーター
   アン・ハサウェイ
   クリスピン・グローバー
   マット・ルーカス

2010年度アカデミー美術賞 受賞
2010年度アカデミー衣装デザイン賞 受賞
2010年度アカデミー視覚効果賞 ノミネート
2010年度イギリス・アカデミー賞衣装デザイン賞 受賞
2010年度イギリス・アカデミー賞メイクアップ&ヘア賞 受賞
2010年度ラスベガス映画批評家協会賞美術賞 受賞
2010年度フェニックス映画批評家協会賞衣装デザイン賞 受賞