アレキサンダー(2004年アメリカ)

Alexander

そっか、これはオリバー・ストーンの映画だったのか。。。

オリバー・ストーンが古代を描いた映画を撮るなんて珍しいなぁと思っていたのですが、
よくよく観てみると、確かにこれは並みの発想の映画じゃないですね(笑)。

アレキサンダー大王のバイセクシャルな部分を強調して描いたら、
どうやら本作の上映前にギリシアで厳しい反発にあったらしく編集し直しを余儀なくされたらしいのですが、
それでも十分にアレキサンダー大王のホモセクシャルな性的嗜好は重要な要素となっており、
特に彼が世継ぎを残さなければならないにも関わらず、同性愛的嗜好が障壁の一つになっているという、
ある意味で彼の人生の根幹に関わるファクターとして描いているのが、強く印象に残りますね。

まぁそれだけでなく、コリン・ファレルに18歳のアレキサンダー大王を演じさせるという、
ある意味で乱暴なキャスティングではあるのですが、それだけでなく、彼を常に掌握しようとする、
彼の母親をアンジェリーナ・ジョリー、彼の父であるマケドニア王フィリッポス2世にバル・キルマーという、
なんとも強引なキャスティングは、おそらくオリバー・ストーンぐらいしか思いつかないだろう(笑)。

まぁ・・・別に致命的な違和感とまではいかないのですが、
やはりアンジェリーナ・ジョリーとコリン・ファレルは1学年しか違わず、まったくの同世代ですからね。
しかも2人ともあまり過度なメイクも施していないせいか、アンバランスさが無かったと言ったらウソになるかな。
(一応、アンジェリーナ・ジョリーの方がコリン・ファレルより1歳年上らしいが・・・)

この映画を観ていて、チョット気になったのは...
なんか僕にはオリバー・ストーンの中で本作でホントに描きたかったことがハッキリしていない気がしますね。

そりゃ、ただ単に「アレキサンダー大王はホモでした」と主張したいだけの映画ならいいのですが、
おそらくそれだけではないだろうし、アレキサンダー大王の生きざまを描きたかったのだろうと思うのです。
冒頭とラストにだけ登場するアンソニー・ホプキンスにストーリーテラーの役割を与えているのですが、
どうも彼の位置づけもハッキリとせず、各登場人物がしっかりと機能していないような印象を受けましたね。

だから、最も大きな僕の中での疑問は、
オリバー・ストーンが本作を撮る前に、しっかりと彼の中でビジョンが定まっていたかということなんです。

僕には、オリバー・ストーンが本作のどこを観客に一番、観て欲しいのか、
そして何を観客に訴求したかったのか、まるでよく分からない作りになってしまっているのが残念で、
さして広がりのあるテーマではないにも関わらず、ダラダラと3時間を使ってしまったという気がします。

何せ、製作費2億ドル強も費やしたらしいですから、
そんな高額な資金を前にして、オリバー・ストーンも混乱してしまったのかもしれません(笑)。
その割りに、バビロンの市街地はほとんどCGで表現したりして、セット撮影の凄さを感じる内容ではないけど、
かつてないぐらいに資金力には恵まれた企画だっただけに、オリバー・ストーンも空回りしたのかもしれません。

まぁオリバー・ストーンにしては珍しく、ドラマ描写はイマイチだったような気がしますね。
むしろ、接近戦を何度か描いているのですが、これらアクション・シーンの方が良く出来ていると思います。
そして、ここで垣間見れる、自軍に数多くの不満分子があることを知りながらも、半ば強引に東征を目指し、
数多くの兵士たちを引き連れていく、ヤケになったようなアレキサンダーの混沌とした精神状態は
上手く描けていたとは思います。これが唯一、ドラマ・パートで良かったと思える部分ですかね。

この映画では、アレキサンダー大王のホモセクシャルな性的嗜好を
幼い頃からの英才教育の影響もあったように描かれていますが、これは時代性もあったでしょうね。
おそらく当時は同性愛は普通にあっただろうし、男子だけの中で教育されてきたら、
必然的にホモセクシャルな性的嗜好に傾倒していったのかもしれませんね。

それと、あまりに支配欲の強い母親の存在ですね。
母親と父親の不和をずっと見てきたということもあるだろうし、常に母親が反骨精神を説き続け、
アレキサンダーが成長するにつれ、統治する立場として、そんな反骨精神に疑問を持ち、
世継ぎを重要視する母親に更に反抗心を強めた結果、バイセクシャルになったように思いますね。

ただ僕はオリバー・ストーンの実力からすれば、もっと上手く描けたと思うんですよね。
ヨーロッパでの興行成績はまずまずだったそうなのですが、アメリカでは予想外の不入りで、
アカデミー賞に配慮して上映時期をズラしたそうなのですが、結局、アカデミー賞どころか、
ゴールデン・ラズベリー賞に大量ノミネートされてしまい、失敗作のような扱いになってしまいました。

やはりこの結果は、アメリカに於けるオリバー・ストーンに対する期待の表れだと思いますね。
本国アメリカでは、やはりオリバー・ストーンの映画については、よりシビアに評価されてる気がします。

確かに僕も、これが新進映像作家が撮った映画だというなら、
もっと好意的に観ていたかもしれませんが、オリバー・ストーンの映画としては物足りなさを感じますね。
やはり、もっと重厚な作りの映画を期待してしまいますからねぇ。脚本の問題もあるのかもしれませんが。。。

そしてアレキサンダー大王の死の謎についても言及してますが、
ここはもうチョット、クローズアップして描いて欲しかったですね。あまりにアッサリし過ぎです。
おそらく様々な説がある、ある意味でミステリーなのでしょうから、もっとしっかり描いて欲しい。
僕はアレキサンダー大王の生涯を描いた映画として、映画の力が弱くなってしまったのは、
彼の晩年をキチッと描けなかったからではないかと思いますね。正直、これが一番、大きいです。

観終わってから気づいたのは、音楽が久しぶりのヴァンゲリスだったということ。
まぁヴァンゲリスといったら、80年代は数多くの映画のスコアを影響して活躍したミュージシャンですが、
最近はあまり映画音楽に携わってない気がしていたのですが、久しぶりに彼の仕事だと知りました。
でも、正直言って、あんまり印象に残らない音楽で残念でしたね。もう往年の才気は無いのかな・・・。

とまぁ・・・随分と莫大な製作費を投じた作品ではありますが、
これは失敗作と言われても仕方ないかなぁ。前述したように、アクションだけは悪くないけど。

(上映時間175分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 オリバー・ストーン
製作 モリッツ・ボーマン
    ジョン・キリク
    トーマス・シューリー
    イアイン・スミス
    オリバー・ストーン
脚本 オリバー・ストーン
    クリストファー・カイル
    レータ・カログリディス
撮影 ロドリゴ・プリエト
音楽 ヴァンゲリス
出演 コリン・ファレル
    アンジェリーナ・ジョリー
    バル・キルマー
    アンソニー・ホプキンス
    ジャレット・レト
    ロザリオ・ドーソン
    ジョナサン・リース=マイヤーズ
    クリストファー・プラマー
    ゲーリー・ストレッチ
    ジョセフ・モーガン

2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 ノミネート
2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(コリン・ファレル) ノミネート
2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(アンジェリーナ・ジョリー) ノミネート
2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(バル・キルマー) ノミネート
2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(オリバー・ストーン) ノミネート
2004年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(オリバー・ストーン、クリストファー・カイル、レータ・カログリディス) ノミネート