大空港(1970年アメリカ)

Airport

時代がニューシネマ一色の全盛期だった映画界で、
時代から取り残されつつあった、オールスター・キャスト総結集で豪華な映画を作るという、
ニューシネマとは対極にある勢力が台頭するキッカケとなった、航空パニック映画の金字塔。

まぁ、後にシリーズ化されたヒット作でもあるのですが、
まずこの映画の場合は空港を描いたというインパクトよりも、どちらかと言えば、不倫する男たちを描いた
インパクトの方が大きくて、リンカーン国際空港の空港長にしても、妻との生活が上手くいかず、
そんな中でいくら管理する飛行場のトラブルに対処せねばならないとは言え、いとも簡単に離婚を決意し、
航空会社の女性との不倫に、映画のクライマックスでフルスロットルになってしまう。

一方で、そんな空港長と対立するかのような、彼の義弟で旅客機の機長にしても、
妻の目を盗んで、アッサリとCA(キャビンアテンダント)の若い娘との逢瀬に走り、搭乗前もチャッカリ会いに行くし、
命からがら大勢の搭乗客を乗せた旅客機を無事、着陸させた後に真っ先に負傷した不倫相手の娘に
手を握って付き添っていって、それを察した空港で待っていた妻がガッカリするフィナーレを迎える不条理さ。

大きなパニックの向こう側で展開される人間ドラマを描くというのは、
ある意味、この手の映画のセオリーの一つになっていますが、本作は結構、不条理なドラマという印象が強い。

ジョージ・シートンもあまり深く考えずに、それぞれのエピソードを描いていたのかもしれませんが、
どうやら原作で描かれていたエピソードはもっと他にもあったようで、上映時間の都合上、
作り手が割愛せざるをえなかったエピソードも多くあったようです。確かにこれ以上、映画の中で描いても、
焦点がボケちゃって、映画が散漫になってしまうリスクもあるので、これぐらいで正解だったかもしれません。

それにしても、かつての航空事情なので、あまり強いことは言えませんが...
爆発物は簡単に空港はおろか機内に持ち込めちゃうし、チケットのチェックは甘くて、
いとも簡単に不正搭乗ができて、事実上の無賃搭乗ができちゃうし、今の感覚では考えられませんね。

だからこそ、成り立つストーリーではあるのですが、
ジョージ・シートンもオーソドックスな演出スタイルですが、持ち前のクライカルな雰囲気漂う、
仰々しい演出と音楽で、時に映画を大きく見せるテクニックを駆使しており、映画のスケール感がありますねぇ。

欲を言えば、映画の原題含めて、空港での出来事がメインとなるべき映画なのに、
中盤以降は爆弾を持ち込まれた旅客機が如何に無事に着陸するかが焦点の映画になってしまい、
映画の序盤の展開とはまるで別物な映画に変わってしまうことは、なんとかして欲しかったですね。
決して悪いストーリー展開ではないと思うのですが、全体を通しての一貫性に弱いことは否定できません。

損傷を負った旅客機の状態は、まるで日航123便の墜落事故を想起させますが、
確かに現実は、航空管制官とパイロットのやり取りがとても重要なものになってくるのですが、
それでも飛行場でも手に汗握る攻防がある中で、当該機の安全な着陸を待つというセオリーが欲しかったのに、
映画自体は終盤、ほとんど飛行場での出来事そっちのけで、いつの間にか無差別テロを描いた映画に変貌します。

この辺はジョージ・シートンも映画全体のバランスをもっとよく考えて欲しかったし、
どうしても、こうなってしまうと、ただ単に「節操の無い映画」にしか見えなくなっちゃいますねぇ・・・。

それと、さすがに気になるのは、いくら損傷範囲が狭かったとは言え、
それなりの高度で飛行していた旅客機の壁の一部が、爆破で損傷したとなると、客席は猛烈な風圧にさらされ、
シートベルトを着用していない人々はほぼ間違いなく、機外へ吸い出されると思うのですが、
本作では風の強い屋外程度の感覚で、機内の人々が移動しているという破天荒な描写ですねぇ。

そういう意味で、ディーン・マーチン演じる副操縦士の体力と厚かましさ(?)が全開の映画で、
当時、ハリウッドでも有数の美貌を誇る女優であったはずのジャクリーン・ビセットと恋仲というのは、
ある意味で“美味しすぎる”役どころで羨ましいけど(笑)、彼に合っている役どころだったように思います。

日本で言うと、かつての宝田 明みたいな存在感といったところでしょうか(笑)。

しかし、やはり当時はニューシネマ一色の時代であったせいか、
それまでのオールド・スタイルで映画作りに励んでいたベテランたちは、相当な危機感を持っていたのでしょう。
本作なんかを観ても感じますが、彼らなりにプライドを賭け、全精力を注いだ映画という感じがします。
これがブームとなり、プロダクションも「儲かる」と踏んだ後には、ハリウッドが威信をかけて資金を投じ、
オールスター・キャスト勢揃いで、盛大に高層ビルを燃やした『タワーリング・インフェルノ』が成功裏に終わります。

このようなパニック映画というのは、やはり映画のスケールの大きさと、
映画というメディアが持つ本質的な役割を、しっかりと観客に意識させることができる、
数少ないジャンルであり、ニューシネマに対抗しうる唯一の方向性だったのかもしれませんね。

しかし、結果として例えば72年の『ポセイドン・アドベンチャー』のように、
それまでニューシネマ上がりな俳優の代表格であったジーン・ハックマンを堂々とキャスティングするなど、
ニューシネマ世代の役者たちも、多くオールスター・キャストの中に入るようになってしまい、
今になって思えば、結局、ニューシネマ世代に飲み込まれてしまったということなのかもしれません。

ただ、それだけ当時のハリウッドは元気だった象徴でもあると思うんですよね。
映画というメディアの本質と逸れる部分もあったかもしれませんが、お互いに切磋琢磨して、
何とかして前へ進もうとしていたことは明白で、本作のような作品もニューシネマ・ムーブメントが到来しなければ、
多く製作されることはなかったでしょう。そういう意味で、70年代の映画界の起点となった映画なのかもしれません。

どうでもいいけど...
現実には一部の壁を損傷した旅客機は、客室内の気圧管理がままならなくなるだけではなく、
気流によっては酷いダッチロールに見舞われると予想されるので、オマケに大雪の滑走路への着陸ですから、
ここまでイージーな着陸ではないでしょう。そこまで凝って描いちゃうと、映画が大変なことになっちゃいますけどね。

当時の模型の技術力を駆使して撮影した頑張りは凄いけど、
ここは現代の感覚で見ると、どうしても見劣りしてしまうので、そこは許してあげて欲しい(笑)。

映画の終わりは、思わず「ホントにこれでいいんか?」と笑える部分もあるけど、
こういう終わり方に寛容な時代であったのだろうということで、あまり深く考えるのをやめることにしました(苦笑)。

(上映時間137分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 ジョージ・シートン
製作 ロス・ハンター
原作 アーサー・ヘイリー
脚本 ジョージ・シートン
撮影 アーネスト・ラズロ
美術 E・プレストン・エイムス
   アレクサンダー・ゴリツェン
編集 スチュアート・ギルモア
音楽 アルフレッド・ニューマン
出演 バート・ランカスター
   ディーン・マーチン
   ジーン・セバーグ
   ジャクリーン・ビセット
   ジョージ・ケネディ
   ヘレン・ヘイズ
   ヴァン・ヘフリン
   モーリン・ステイプルトン
   バリー・ネルソン
   ダナ・ウィンター

1970年度アカデミー作品賞 ノミネート
1970年度アカデミー助演女優賞(ヘレン・ヘイズ) 受賞
1970年度アカデミー助演女優賞(モーリン・ステイプルトン) ノミネート
1970年度アカデミー脚色賞(ジョージ・シートン) ノミネート
1970年度アカデミー撮影賞(アーネスト・ラズロ) ノミネート
1970年度アカデミー作曲賞(アルフレッド・ニューマン) ノミネート
1970年度アカデミー美術監督・装置賞 ノミネート
1970年度アカデミー衣装デザイン賞 ノミネート
1970年度アカデミー音響賞 ノミネート
1970年度アカデミー編集賞(スチュアート・ギルモア) ノミネート
1970年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(モーリン・ステイプルトン) 受賞