エアフォース・ワン(1997年アメリカ)

Air Force One

2013年の『パワー・ゲーム』でも対決することになるハリソン・フォードとゲイリー・オールドマン。

本作では方針転換した合衆国大統領と政府専用機をハイジャックしたテロリストという設定でした。
どういった方針転換をしたかというと、テロ組織には屈せず、組織のリーダーを積極的に逮捕するという
強固な路線にシフトしたことで、リーダーを失ったテロ組織のメンバーがロシアからの帰路につく政府専用機を
ハイジャックして、リーダーの釈放を訴えるというテロ行為にでる。それを大統領自らが逆襲の反撃にでます。

如何にも90年代のハリウッドで量産されたエンターテイメントという感じではありますけど、
荒唐無稽なアクション映画という枠組みで考えれば、これはこれで安定した面白い作品だとは思いますね。

監督は『U・ボート』などで知られるドイツ出身のウォルフガング・ペーターゼンで、航空機内という限られた空間を
実に有効的に活用した活劇にはなっていて、良い意味でハリウッドの資本力を感じさせる作品ではありますね。
ただ、『ザ・シークレット・サービス』のように僅かにストイックな部分があるアクション映画の方が良いですね。

乗っ取られた政府専用機には、当然、シークレット・サービスもいるし武器も多く乗せていました。
搭乗するには厳重なセキュリティ・チェックを受けますし、そうそう簡単にハイジャックなどできるようにはなっていない。
しかし、いったん乗っ取られてしまうと、その脆弱性が露呈します。ハイジャックされたことを知ったホワイトハウスは
慌てふためき、挙句の果てには、大統領の生死が確認できずに副大統領も右往左往するという頼りない有様。

そんなんだから、この窮地を救うのは大統領本人しかないという設定になってしまうのは、
ハリソン・フォード主演のアクション映画という時点で自明の理。いくら、かつて戦争で闘ったことがあるとは言え、
複数名のテロリスト相手に腕っぷしが強過ぎる大統領であることは気になりますが(笑)、それでも次々とピンチを
乗り越えて、憎っくき悪党のテロリストであるゲイリー・オールドマンと対決する姿は、やっぱりカッコ良いなぁと思う。

そう、本作のどこが良いって...目的達成のためには情け容赦ないゲイリー・オールドマンが素晴らしい。
やっぱり彼をキャスティングできた時点で、本作の成功は決まっていたような気がするくらい、彼の影響力はスゴい。
そうなってくると、そんな憎たらしいゲイリー・オールドマンに対抗できるのはハリソン・フォードしかいないかも(笑)。

予想外だったのは、女性副大統領を演じたグレン・クローズが予想以上に頼りなさげな感じで意外でした。
僕の勝手な観る前の想像では、彼女は彼女で勝ち気で周囲とぶつかり、政府専用機内で孤軍奮闘する大統領とも
衝突しながら事件を解決するのかな、と思っていたのですが...彼女は彼女でどこかフラフラしていて頼りない。
グレン・クローズのイメージとのギャップがまた良くって、映画に意外性を与えていて、この辺は悪くないと思います。

ただ、やっぱり大統領は強過ぎる(苦笑)。腕っぷしだけではなく、銃器の使い方や爆発物処理にも慣れていて、
飛行機から投げ出されそうになるものの、驚異の握力と腕力でつかまって生き残るし、オマケに飛行機まで操縦する。
これは正直言って、出来すぎでしょう(笑)。やっぱりハリソン・フォードをアシストする脇役が一人、いても良かったなぁ。

独立独歩な大統領だったのかもしれませんが、なんでも一人で解決しようとし過ぎでしょう。
まぁ、この辺が如何にもハリウッド映画らしい豪快さですし、この辺は“お約束”みたいな企画でしたからねぇ・・・。

現実問題として見れば、ハリソン・フォード演じる大統領の「テロには屈しない」というポリシーが主流でしょう。
確かに交渉事ではありますが、その交渉に乗ってしまって一つでも要求を聞くと、次なる要求がエスカレートする、
というセオリーがあって、一切の要求を聞かず最初っから実力行使で解決するというスタイルが、最近は多いと思う。
確かに交渉することで事態が長引いて膠着してしまうことがあるし、最初に交渉に応じるのは大半が時間稼ぎです。

要するに一回の実力行使で成功させるために、様々な調査を行って入念に準備を重ねていくというわけですね。
この大統領が貫いたポリシーは正しいのでしょうけど、事前打ち合わせのないことをパーティーで言うのは凄いですね。

本作で描かれるシチュエーションで問題なのは、テロ行為が行われている政府専用機はフライト中であって、
周囲が実力行使でテロを防ぐとなれば、閣僚が多く搭乗してる政府専用機を墜落させるしか選択肢がないということ。
そうなればホワイトハウスの決断の意味合いも大きくなるわけで、それを担う副大統領の決断も重たくなっていきます。

オマケに当時はWeb会議システムが発達していたわけではありませんので、
外部から機内の状況を正確に把握することが難しく、米空軍の護衛機が政府専用機を取り巻くことしかできません。
これでは全く分からないために、なんと大統領自らコードレス電話で外に状況を伝えようという発想がスゴい(笑)。

いざ、機内の攻防が激化して大統領側がテロリストたちに反撃を始めると、飛行機の動きは激しくなります。
しかも政府専用機が領空侵犯を犯したとして、ソ連の戦闘機“ミグ”が政府専用機を攻撃するという奇想天外な展開。
思わず、「副大統領自ら、相手国を説得すればいいじゃん」とツッコミの一つでも入れたくなってしまう展開ですが、
“ミグ”が発射するミサイル攻撃を回避する策が無くなれば、なんと空軍機が自らミサイル標的になるというのに驚き。

まぁ、空のシークレット・サービスなのでしょうけど...テロリストの実行に際しても同様ですが、
本作で描かれた出来事については、とにかく大統領のために多くの犠牲を払っているのが賛否両論になるだろう。
それでも、結局は大統領が闘わなければならないわけですから、警護体制とは脆弱なものだったというわけですね。

大統領の職務を全うするという意味では、いくら家族のことが心配だったとは言え...
脱出カプセルに乗って政府専用機から脱出する手順になっていたはずなのに、勝手に残って単身で反撃するなんて、
身勝手極まりない行動で大統領失格だとは思うのですが、まぁ・・・でもハリソン・フォードが大統領役なんですからね。
そりゃ・・・機内に残って一人で対抗するのが明白な企画というわけで、ユニークで面白いコンセプトではあるでしょう。
(いかんせん、ハリソン・フォードの腕っぷしが強過ぎることだけは気になって仕方がありませんが・・・)

よくよく考えてみれば、大統領が脱出しなかったことは事態を悪化させてしまったような気もしなくはないけど、
それでも、たった一人で人質となった家族や職員を奪還しようとする行動力が、なんとも眩しい映画ということでしょう。
当時のハリソン・フォードなら、それを平然とやってのける勇気と行動力はありそうなので、まぁ・・・いいんですけどね。

荒唐無稽なアクションが連続する作品ではありますが、その中でも結構、唖然とさせられたのは
映画の終盤にある、高度を下げれば大丈夫だからとパラシュートを身に着けて、多くの職員が政府専用機から
空へとスカイ・ダイビングばりに脱出していくシーンなのですが、いくら危険な機内とは言え、相当に勇気がいること。
それをほとんどの職員が「助かった・・・」と安堵の表情を浮かべて、空へとダイブしていく様子は自分は無理と思った。

ましてや政府専用機はジェット機ですからね。相当な航行スピードですし、高度も半端ない高さ。
理論上は酸素濃度からして、気を失わずに降下できるというわけで、「すぐにやりましょう!」と意気揚々とは言えない。
それくらい、勇気の必要な脱出方法だなと感じましたが、その選択肢しかないくらい逼迫した状況ということなのかな。

でもさ、今は世界情勢も変わってしまったし、ハリウッドのプロダクションも元気じゃないし、
こんな「アメリカ万歳!」な映画を撮ることもできなくなってしまいましたね。皮肉で言ってるわけじゃなく...
そんなテーマを声高らかに堂々と映像化できるほどの“厚かましさ”がアメリカらしさとも言えなくなってきているし。
まぁ・・・トランプ大統領は正しく、「あの頃の世界の盟主のアメリカに戻ろう!」とアメリカ・ファーストな感じだし、
国民もそういう風潮を望んでいるのでしょうが、現実でアメリカ経済もそんなに好景気で元気なわけではないですしね。

そうなってしまうと、本作のようなバブリーな映画を撮る“余裕”だって、無くなってしまっているはずです。

それと、この手のアクション映画が主流ではなくなってしまい、マーベル・コミックの映画化などで
CG満載のアクション映画によりシフトしているせいか、どうにも本作のようなスケール感で映画を撮ることが
逆に時代遅れとされているような感がある。そうなると、ウォルフガング・ペーターゼンのようなディレクターはツラい。

個人的には映画の終盤でカザフスタンのテロ組織の指導者の逮捕拘束に関わるエピソードが、
メイン・ストーリーと同時進行で進むにしろ、どうにも時系列の整理が上手くできていないように感じられたのは残念。

そのせいか、ロシアの大統領と電話会談して慌てて釈放させたり、慌ててもう一回指示出しなおしたり・・・。
このテロ組織にとって、リーダーの存在は大きいようですので、この整理のつかなさ具合は致命的に感じられた。
もっと上手く見せることができていれば、映画の終盤の印象はもっと良くなったでしょうし、もっとスッキリしたでしょうね。

(上映時間124分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 ウォルフガング・ペーターゼン
製作 ウォルフガング・ペーターゼン
   ゲイツ・カッツ
   アーミアン・バーンスタイン
   ジョン・シェスタック
脚本 アンドリュー・W・マーロウ
撮影 ミヒャエル・バルハウス
音楽 ジェリー・ゴールドスミス
出演 ハリソン・フォード
   ゲイリー・オールドマン
   ウェンディ・クルーソン
   リーセル・マシューズ
   グレン・クローズ
   ポール・ギルフォイル
   サンダー・バークレイ
   ウィリアム・H・メイシー
   ディーン・ストックウェル
   ユルゲン・プロフノウ
   フィリップ・ベイカー・ホール

1997年度アカデミー音響賞 ノミネート
1997年度アカデミー編集賞 ノミネート