カリブの熱い夜(1984年アメリカ)

Against All Odds

フットボール賭博を背景に、解雇されたベテランのフットボール選手が
今はロサンゼルスの夜の世界で暗躍する旧友からの依頼で、南米のリゾート地へ旧友の恋人を探し、
その結果として彼女と恋に落ちてしまったことから、今度は一転して窮地に陥る姿を描いたハードボイルド・ロマン。

監督は82年に『愛と青春の旅立ち』を世界的にヒットさせたテイラー・ハックフォードで、
フィル・コリンズやピーター・ガブリエルと、音楽の使い方なんかも時代を感じさせる(笑)。

おそらくバブル期に洋楽に慣れ親しんだ人なら、思わず懐かしいと感じる選曲で、
映画の雰囲気自体も、どことなく80年代のバブリーな空気に満ち溢れていて、
正直言って、テイラー・ハックフォードの演出自体は凡庸なのですが、雰囲気で得している(笑)。

確かにフィル・コリンズがこの映画のために歌った
Against All Odds [Take A Look At Me Now](見つめて欲しい)は素晴らしい名曲と言っていい。
80年代は“世界一忙しいミュージシャン”と呼ばれ、ソロ・アーティストとして正に絶好調だった頃に、
何をやっても良いものができあがったという感覚に等しい仕事ではなかったのだろうか。

まぁ、映画とは直接的に関係はありませんが...
このフィル・コリンズも変わった経歴を辿っている人で、70年代初頭に20歳そこそこで、
メロディ・メーカーと呼ばれる当時の人気音楽雑誌に掲載されていたジェネシス≠フドラマー募集に応募し、
試験の結果合格し、ジェネシス≠ノ加入。おりしもプログレッシブ・ロック全盛期でバンドは人気を博し、
半ば変態的なリズムを刻んで評価を上げた彼は、次第にバンドのフロントマンになっていきます。

70年代末期には、バンドメンバーが次々と脱退した結果、3人だけが残り、メイン・ヴォーカルをとります。
(78年に発表したアルバムは And Then There Were Three(そして3人が残った)というタイトルでした・・・)

この頃はジャズ・ロックにも傾倒していたようで、ジェネシス≠ノ並行する形で、
ブランドX≠ニいうバンドを結成して、ブランドX≠ニしての活動は1980年まで続くことになります。

80年代に入った途端に、ブランドX≠ヘ解散して、ソロ・ミュ−ジシャンとしても活躍するようになり、
この Against All Odds [Take A Look At Me Now](見つめて欲しい)をはじめとして数々のヒット曲を生み、
ソロ・アーティスト、ジェネシス°、にヒット作を量産。正に時代はフィル・コリンズが中心にいたように思います。

85年にボブ・ゲルドフが主催したライヴ・エイドでは、
同日の間にロンドンの会場にソロで出演した直後、コンコルドに搭乗してフィラデルフィアへ移動、
レッド・ツェッペリン≠フゲスト・ドラムとしてコラボレートするなど、異常なペースで働いていたものです。
そういう意味では例えば本作のような映画に主題歌を提供するなんて、朝飯前だったはずです。

今は、当時の肉体の酷使が影響したのか、02年に突発性難聴を発症し、
また、私生活で08年に自身3回目の離婚を経験し、2人の幼い息子を引き取ったことから、
父親業に専念したいとのコメントを発表し、音楽業界からの引退を宣言して、ほぼ隠居状態です。

と、随分と関係のない話しでしたが...
と言いたくなるぐらい、この主題歌を採用したことは映画の印象に大きな影響をもたらしたことは否めません。

映画はノーマルなハードボイルド・ロマンなのですが、
テイラー・ハックフォードの演出がイマイチなせいか、映画の雰囲気作りが今一つ弱く、
大々的に南米のリゾート地でロケ撮影を敢行したにも関わらず、印象に残るのは遺跡でのラブシーンで、
これでは本作の撮影を誘致した関係者も怒ったのではないだろうかと、思わず余計な心配をしてしまう(笑)。

やはり、もっと一つ一つのシーン演出は丁寧にやって欲しいし、
いつの間にか窮地に追いやられているという、油断も隙も許さない空気感を強調して欲しい。
どこか緩慢な空気が残ってしまい、映画として引き締まったのはラストぐらいでは、エンジンがかかるのが遅過ぎる。

映画の序盤で、特に意味もなく主人公テリーと旧友のジェイクが
ロサンゼルスの郊外で命からがらのカー・チェイスを余興にするなんてシーンがあって、
これはやたらと迫力ある映像になっているのですが、この緊張感をもっと違うところで活かして欲しかった。

いつもテイラー・ハックフォードの監督作品を観ていて思うのですが、
この人、凄く腕は確かなディレクターだと思うんですが、どこかピントがズレることが多いんですよねぇ。
このピントがしっかり合ってくれば、きっと素晴らしい出来の映画に仕上げてくれるんでしょうけど。

せっかく今回はヒロインの母親の右腕役として、
往年の名悪役リチャード・ウィドマークをキャストできたのですから、もっと頑張って欲しかったなぁ。

若き日のジェームズ・ウッズが主人公の旧友ジェイクを演じているのですが、
この人、80年代に入って、やっと俳優として売れ出した頃だというのに、まだジェイクのような役を演じていました。
いや、別に馬鹿にしているわけでなく、彼自身は如何にもチンピラって感じを見事に体現していて、
凄く上手いんだけれども、そこそこのキャリアを築いてきてまでもこの役ってのは、そうとうに苦労していたのでしょう。
本人も以前、インタビューで下積み時代が長く、必死に働いたと述懐していたので、かなり苦労したのでしょうね。

まぁ・・・映画の出来は良くはありませんが、最悪な出来にはなっていない。
ロケーションの良さにも助けられたのでしょうし、ヒロインのレイチェル・ウォードの存在感が大きいだろう。
いわゆるファム・ファタール[=運命の女]としての彼女の撮り方は、決して間違ってはいない。
彼女が何故に、落ちぶれたフットボール選手であった主人公に恋したのかは不透明なままなのですが、
それでも、彼女が演じたジェシーにメロメロになってしまうというのは、観ていて納得性は持てていると思う。

この辺はテイラー・ハックフォードの撮り方自体が、間違ってはいないことの証明でしょう。
この手の映画としては、ヒロインの描き方って凄く大切ですからね。それはおのずと分かっていたのでしょう。

事実、レイチェル・ウォードにとっては、本作が代表作の一つとなるほどの仕事となりました。

彼女は81年のバート・レイノルズ主演の『シャーキーズ・マシン』でも十分良かったのですが、
どうも仕事に恵まれなかったためか、その後は本作ぐらいであまりメジャーになれずに一線を退いてしまいました。

(上映時間121分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 テイラー・ハックフォード
製作 テイラー・ハックフォード
    ウィリアム・S・ギルモア
原作 ダニエル・メインウェアリング
脚本 エリック・ヒューズ
撮影 ドナルド・E・ソーリン
編集 フレドリック・スタインカンプ
    ウィリアム・スタインカンプ
音楽 ミシェル・コロンビエ
    ラリー・カールトン
出演 ジェフ・ブリッジス
    レイチェル・ウォード
    ジェームズ・ウッズ
    リチャード・ウィドマーク
    アレックス・カラス
    ジェーン・グリア
    ドリアン・ヘアウッド
    ビル・マッキーニー

1984年度アカデミー歌曲賞(フィル・コリンズ) ノミネート