アフター・アース(2013年アメリカ)

After Earth

人気俳優ウィル・スミスが原案したシナリオを、
カルト的人気を誇るM・ナイト・シャマランが撮った、ある意味で公私混同な映画(笑)。

いやはや、これは噂には聞いていたけど、凄いウィル・スミスのファミリーのパーソナルな映画だ。
劇中で描かれたことも、別にイデオロギーがあるわけでもなく、何らかの社会的メッセージがあるわけでもない。
別に僕は映画に必ずメッセージが込められてなければならないなんて思ってはいませんが、
本作で描かれたことは、ただ単に人類が存在しなくなった地球を舞台にしているだけで、
ウィル・スミスが息子をどう育てたいのか、というテーマだけで家族愛に基づいた内容という印象があります。

本作にM・ナイト・シャマランの謎なミステリーを期待しても無駄なことで、
冒頭から最後まで波乱が起こる予感すらなく、実にセオリー通りに映画が終わってしまいます。
これはこれで制約のあった企画だったのでしょうが、彼のファンには物足りない結果だと思いますね。

ウィル・スミス自身が伝説的な男を演じており、“ゴースティング”という能力を持ち、
クリーチャーのような生物兵器の攻撃を回避できるという“美味しすぎる”役どころを演じており、
その息子で優秀でありながらも、恐怖心を捨てきれない心優しい青年を、ウィル・スミスの実の息子である、
ジェイデン・スミスをキャストするという、ウィル・スミスだからできる企画だったという気がします。

しかし、この企画、あまりにパーソナルなものにし過ぎましたね。
これでは評論家筋に反感をかってしまったのも分かる気がするし、劇場公開前の予想に反し、
ほとんどヒットせずに上映が終了してしまったというのも、なんとなく分かる気がします。

端的に言うと、そもそもこの映画の親子を実際に親子である、
ジェイデン・スミスとウィル・スミスが演じるという時点で、公私混同し過ぎな感じなってしまっていて、
ほぼ成功しない方法を選択してしまった気がしてならないのです。正直、仕事でもそうですが、
親子であるがゆえに一緒に働くことの難しさって、あると思います。本作はそれを地で行ってます。

そのまた昔、長嶋 茂雄はプロ野球選手を志望した息子の一茂に野球をやらせ、
プロ野球選手になることを容認し、結果としてヤクルトに入団することになりましたが、
一茂は当時の“野村ID野球”に馴染めず...というか、当時のヤクルトの厚い戦力にレギュラーを勝ち取れず、
交換トレードという形で、父である茂雄は一茂をトレード移籍させ、自軍である読売巨人ジャイアンツに入団させました。

しかし、(それだけが原因ではないとは言え・・・)巨人に移籍後の一茂も上手くはいきませんでした。
おそらく当時、父 長嶋 茂雄も、息子 長嶋 一茂もお互い、監督と選手という立場で会うことは望んでいなかったでしょう。

それでも特に一茂は野球選手としての転換期を迎えていた頃で、
キャリアを考えると、とても大切な時期であったことは言うまでもありません。
それでもお互いに難しい立ち位置で接していたようで、様々な苦悩はあったようです。

まぁ・・・いつも“外野”は何かしらの注文をつけますが、
おそらく当時の二人にかかったプレッシャーはそうとうなものであったのだろう。
それくらい、親子が同じ職場として働くことは覚悟が必要だし、難しいことなのでしょうね。

本作はそういったことを映画の世界で再現したようなものなのですが、
ひょっとすると、私だけかもしれませんが、どこかにウィル・スミスなりの甘さを感じずにはいられなかったんですよね。

ハリウッドでもカルトな人気がある、個性派監督であるM・ナイト・シャマランにしても、
彼なりの個性が一部のファンから支持を受けているはずなのですが、本作ではその個性を完全封印している。
個人的にはかつてから、M・ナイト・シャマランは幅広いジャンルの映画を撮るべきだと思ってましたから、
いつまでもラストのドンデン返し頼りな映画作りではダメだというスタンスだったのですが、
本作の彼の個性を完全に打ち消した、まるで“雇われ監督”のような仕事ぶりも、さすがにどうかと思います。

私も勝手なものですが...それぐらいに本作でのM・ナイト・シャマランの仕事ぶりに魅力は感じられません。

ある意味では凄く贅沢な映画で、今のハリウッドでもこういう公私混同な企画を
正々堂々と映画化できるスターというのも、ウィル・スミスが数少ない一人で、彼が今までに築いてきたものが
強固であるからこそ成し得たという見方もできて、僕はこれはこれで凄いことだと思っています(笑)。

ただ、だからこそM・ナイト・シャマランには是非とも、彼の個性を反映させて欲しかった。
ウィル・スミス原案の企画だからやりづらさもあるだろうけど、こういう企画だからこそ個性を炸裂させて欲しかった。

僕は本作を観ていて、あまりにウィル・スミスの息子に対する教育思想が全面に出過ぎている内容のせいか、
珍しいことに映画のラストで大きなドンデン返しや、サプライズがあるのではないかと、ずっと期待していました。
それは本作が悪い意味で、あまりに優等生な映画に仕上がってしまっているからこそ、期待していたのでしょう。

ウィル・スミス自身は良くも悪くも、ジェイデン・スミスの引き立て役に回っている。
実質的に活動的なウィル・スミスが観られるのは、映画の冒頭の僅かだけだし、
映画の中盤以降は、ほぼアクションのパートをジェイデン・スミス単独に描かれるよう、一歩引いたところにいる。
これをM・ナイト・シャマランも知ってか知らずかはともかく、敢えてウィル・スミスを光らせようとはしません。

まぁ・・・正直言って、これは賛否両論に陥り易い内容であり、
当初予想していたほどのヒットはしなかったという理由が、よく分かるような気がします。

いくら懐の深いハリウッドとは言え、こういう映画は賛同が得られにくいだろうと思います。
ウィル・スミスもホントにジェイデン・スミスを俳優として大成させたいのであれば、
自分でプロデュースした映画ばかりに出演させるのではなく、彼自身が携わらない映画に出演させるべきだと思う。
と言うのも、僕にはジェイデン・スミスが何か秀でたものがある子役とは、どうしても思えないからです。
それは、どこかウィル・スミスというブランドが見え隠れしているからで、ましてや共演となると冷静に見れないですね。

内容的には、極めて道徳的でエキサイティングな魅力は皆無であることも寂しい。
道徳的なのは、それはそれで結構な話しですが、やっぱりこの手の映画には何かワクワクさせるものが欲しい。

(上映時間99分)

私の採点★★★★☆☆☆☆☆☆〜4点

監督 M・ナイト・シャマラン
製作 ケイレブ・ピンケット
   ジェイダ・ピンケット・スミス
   ウィル・スミス
   ジェームズ・ラシター
   M・ナイト・シャマラン
原案 ウィル・スミス
脚本 ゲイリー・ウィッタ
   M・ナイト・シャマラン
撮影 ピーター・サシツキー
編集 スティーブン・ローゼンブラム
音楽 ジェームズ・ニュートン・ハワード
出演 ウィル・スミス
   ジェイデン・スミス
   ソフィー・オコネドー
   ゾーイ・イザベラ・クラヴィッツ
   リンカーン・ルイス
   サッシャ・ダーワン
   クリス・ギア

2013年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト作品賞 ノミネート
2013年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(ジェイデン・スミス) 受賞
2013年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト監督賞(M・ナイト・シャマラン) ノミネート
2013年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演男優賞(ウィル・スミス) 受賞
2013年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト脚本賞(ゲイリー・ウィッタ、M・ナイト・シャマラン、ウィル・スミス) ノミネート
2013年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト・スクリーン・コンポ賞(ジェイデン・スミス、ウィル・スミス) 受賞