野望の系列(1961年アメリカ)

Advise And Consent

病に倒れた大統領が国務長官に任命しようとしたレフィングウェル。
彼には共産主義者ではないかとの噂が囁かれ、クーリー議員を中心に就任反対派の動きが活発化する。
一方、大統領の側近たちは何とかしてレフィングウェルを国務長官にするため、クーリーらに真っ向から対決する。
映画は両者の闘いを硬派に描き続け、重厚な仕上がりにすることにより、映画に品格を持たせている。

何故か、この映画の主役格にレフィングウェルを演じたヘンリー・フォンダがクレジットされていますが、
僕には少なくとも本作が彼を中心にクローズアップした内容だと思えなかったですね。

ヘンリー・フォンダの映画ではないが、マンソン議員を演じたウォルター・ピジョンの映画でもない。
紛れも無く本作は、クーリー議員を演じたチャールズ・ロートンの映画だとしか思えないのです。
残念ながら本作はチャールズ・ロートンの遺作となってしまいましたが、それに恥じない名演と言えます。
(それでも晩年の仕事としては、57年の『情婦』には及ばないけど・・・)

オーストリア出身のオットー・プレミンジャーが重厚なタッチで挑戦した社会派映画なのですが、
まずまず手堅い演出のおかげで、映画は及第点を超える出来と言っていいと思いますね。
確かに傑作とまでは評し難いけど、変化球を一切使わず、ストレートで押し続けた功績は大きいです。
しかもチャールズ・ロートンの圧倒的な存在感により、打者に対して向かっていく投手のような映画だ。
“ケンカ投法”とまではいかないけど、打者の内角を付きまくって、その印象を強く残す投球のようで、
リリーフ投手や2戦目、3戦目で先発する投手をも助ける連戦初戦の先発投手のような映画だ(笑)。

事実、映画の序盤で徹底して硬派に押しまくったおかげで、そのアプローチは後半になっても活きている。

例え勝ち投手にならずとも、この功績は正に“陰の功労者”とも言うべきで、
傑作とは言えずとも、社会派映画としてお手本にされるべき作品と考えられます。

様々な政治的思惑が交錯する映画になっているのですが、
各登場人物の人間模様や位置づけが上手く整理されて描かれており、
数多くエピソードが積み重ねられているにも関わらず、映画も終盤に差し掛かるとテーマがハッキリとしてきます。
一見すると、映画の前半は雑然としたエピソードの積み重ねなのですが、これが意外に利いているんですね。

そんな映画の序盤にあるパーティー・シーンでは、実在の政財界の大物が登場しているらしく、
当時、ハリウッドを代表する大物だったオットー・プレミンジャーだからこそ実現したシーンだったみたいですね。

ピュリッツァーを受賞したという原作をシナリオ化した脚本も悪くないですね。
さすがにこれだけ入り組んだストーリーを整理するだけでも大変な作業なのですが、
上手く交通整理されたストーリーへとカスタマイズし、映画化成功の一助となっているのは確かですね。

残念なのは、映画の終盤ではすっかりヘンリー・フォンダが出てこなくなってしまうことですね。
さすがにここまで出てこなくなると、思わず途中降板でもしたのかと心配になってしまいます(苦笑)。
また、彼の最後の登場シーンとなった議員との会談を聞いてしまった息子に真相を話すシーンが
中途半端に切れてしまったのは気になりますね。何か意味ありげに扱われているのですが、
一体、レフィングウェルは息子に疑惑について、どう説明したのでしょうか?

なんでこんなことを疑問に思うのかと言うと、
この説明シーンについて、映画の終盤では一切触れられていないからなのですよね。
このシーンがあまり重要な位置づけでないのなら、こんな意味ありげな省略技法はとらないで欲しい。
このシーンでのフェードアウトによる省略は、映画において意味があるからこそ活きる演出なのです。

オットー・プレミンジャーは力のある映画監督であるからこそ、
こういった部分にはもっと敏感にケアして欲しかったですね。本作はこういう部分がチョット大雑把ですね。

それからヴォリュームの多い映画ですから、仕方のなかったことかもしれませんが、
できることならば、もう少し内容をスリムにできなかったものかと思いますね。
前述した無駄なエピソードが散見されるせいか、僕はもっとスリムにできたと思いますね。
(少なくとも、2時間強の内容にはできたはず・・・)

ちなみにタイトル・デザインはソウル・バスが担当しています。
ソウル・バスはオットー・プレミンジャーの監督作で、初めて映画のタイトル・デザインを担当しており、
彼が文字通りの第一人者でしたから、そういう意味でもオットー・プレミンジャーって偉大な映画監督ですね。

まぁ最近はこういう映画がめっきり減りましたからねぇ。
ここまで硬派な映画ともなると、逆に新鮮に感じられるかもしれませんね。
政治を描いた映画というのは、勿論、今でもありますけど、その大多数が道徳的な側面がメインなんですよね。
ところが本作の場合は、あくまで政治の裏舞台をメインに置き、同じ党派の中で駆け引きを作っています。
ここまで近接した関係や攻防を描いた政治映画というのは、ここ数年で全く思い当たりませんね。

繰り返しになりますが、これは明らかにチャールズ・ロートンの映画だと思う。
こういう映画を観ると、最近のハリウッドには彼のような位置づけの役者が不在なことを痛感しますね。

(上映時間137分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 オットー・プレミンジャー
製作 オットー・プレミンジャー
原作 アレン・ドルーリー
脚本 ウェンデル・メイズ
撮影 サム・リーヴィット
音楽 ジェリー・フィールディング
出演 ヘンリー・フォンダ
    ウォルター・ピジョン
    チャールズ・ロートン
    ルー・エアーズ
    バージェス・メレディス
    フランチョット・トーン
    ピーター・ローフォード
    ジーン・ティアニー
    ポール・フォード