アダプテーション(2002年アメリカ)

Adaptation

な...なんなんだ、この映画は!?(笑)

99年に『マルコヴィッチの穴』の脚本を書いて、世界的に高く評価された本作の脚本を担当する、
チャーリー・カウフマンが次なる作品として、女流作家スーザン・オーリアンが発表した一風変わった小説である
『蘭に魅せられた男 驚くべき蘭コレクターの世界』を脚色することになり、四苦八苦しながら脚本を執筆するものの、
双子の弟ドナルドは邪魔な存在になるし、原作があまりに平坦な内容のために映画的に面白い内容にならず、
イライラしたチャーリーはエージェントに頼み込んで、原作者のスーザン・オーリアンに近づこうとする奇妙なコメディ。

ハッキリ言って、この映画はチャーリー・カウフマンが『蘭に魅せられた男 驚くべき蘭コレクターの世界』を
本作の原作であるとしていますが、映画化することを途中から放棄したような内容です。スーザン・オーリアンの理解を
得た上で映画化したのでしょうけど、あまりに複雑なマインドを映画化した作品で普通なら映画化しないですよね(笑)。

よく原作としてクレジットすることをOKしたなぁと、思わず感心させられる(笑)。
いや、それくらい『蘭に魅せられた男 驚くべき蘭コレクターの世界』の内容とは乖離しているのだろうと、
思わざるを得ないほど暴走した内容になっており、だからこそ当時のチャーリー・カウフマンには勢いがありました。

ちなみにニコラス・ケイジがチャーリー・カウフマンを演じているのですが、彼は二役で弟役も演じている。
この双子の弟ドナルドは実在しない存在であり、これはあくまで本作の脚本を執筆するにあたってチャーリーが
生み出した架空の弟であって、チャーリーが脚本を書くにあたって刺激を与える原動力となる存在として描かれる。

まぁ、本作にはアンチ・ハリウッド的なギャグがあって、劇中、チャーリー自身が語っていますが、
彼の主義主張として「セックス、ドラッグ、バイオレンス、カー・チェイスのようなアクションがある映画にはしたくない」と
いうのがあるそうなのですが、本作も終盤に差し掛かった途端に矢継ぎ早にそれらが洪水のように描かれる。
そんな主義主張を持っていても、諸事情から描かないと映画化できないという皮肉だったのかもしれませんが、
支離滅裂でカオスなチャーリーのマインドを表現するのに、この矢継ぎ早に連続する描写は笑えてきましたね。

名脇役として活躍するクリス・クーパーが本作での怪演で初めてアカデミー賞を獲得することになりますが、
彼は主要キャストとしては数少ない『蘭に魅せられた男 驚くべき蘭コレクターの世界』の登場人物であります。

まぁ、原作者のスーザンから蘭の専門家としてインタビューを受けるという設定なのですが、
これは確かに映画的ではないというか、彼が一緒に活動していた連中は実はドラッグ目的だったとか、
蘭だけではビジネスにならないから、実はネットでポルノサイトを立ち上げて収入を得ているとか、横道に逸れまくる。
この小説のどこにチャーリーが惹かれたのかは分からないが、これは真正面から映画のシナリオとするのは難しい。

だったら発想を変えようとばかりに、脚本を書くチャーリーの妄想を映画化するという暴挙にでたのですが、
さすがに架空の双子の弟ドナルドの存在とか、あまりに突飛過ぎる発想で、お世辞にも万人ウケするとは言い難い。
かなり個性的というか、複雑怪奇で支離滅裂な映画である。それを上手い具合に整頓しながら映画にしたので、
それはそれでスゴいことではあるのですが、監督したスパイク・ジョーンズも大変だったでしょうね・・・(苦笑)。

しかも、原作者のスーザンをはじめとして、蘭の専門家も含めてチャーリーが描きたくないことに
向かわせた張本人として描いているような感じで、とってもシニカルなベクトルに向けて暴走していくのがスゴい。
普通なら...こんな描かれ方をしようものなら、さすがに怒る人が出てきてもおかしくはないだろうと思えてしまう。

一見すると、チャーリー・カウフマンがこの原作本のつまらなさに抗議した映画とも解釈できなくはないのですが、
おそらくそうではないので...チョット普通ではない視点で脚本を書くということだけに注力した結果なのでしょう。
映画として見どころがないかと言われるとそうでもないのですが、もう少し作り手の主張があっても良かったかと思う。
これはチャーリー・カウフマンというよりも、監督のスパイク・ジョーンズとして。もっとチャーリーの頭の中に肉薄する、
という感覚を強くして欲しい。この辺は『マルコヴィッチの穴』の方が徹底したものが感じられた内容だったと思う。

「ナレーションはダメだ!」とか脚本の先生から言われているのにも触れられていますが、
正直、僕もナレーションを多用するのは賛成できないけど...映画の途中から「そんなのどうでもいいや」と
開き直ってしまうチャーリ・カウフマンの声が聞こえてくる。要するに、誰かから押し付けられたり、植え付けられた
感性で脚本を書くということと訣別する宣言とも解釈できるわけで、これは彼らが描きたかった最たるテーマなのかも。

そんな独創的なストーリーに改変されても、本作に協力的なスタンスをとったスーザン・オーリアンって、
凄く寛大な人なのだろうと思いました。おそらく、元々の原作にも色々と指摘されていたことがあって、
映画化するにあたっての障壁を認識していたからこそ、それを逆手にとって映画化するということに同意したのだろう。

実際問題として、本作の脚色にスーザン・オーリアン自身も関わったという形になったのだから、そういうことだろう。

まぁ・・・映画を真正面から受け止めて楽しもうとしてしまうと、これは素直に受け入れられないと思います。
一生懸命脚本を書こうと思いましたが、上手く書けませんでしたので、その過程を映画にしましたという内容ですから。
ある意味でパーソナルな内容であり、価値観や感性の異なる他人が理解するというのは難しい作品でして、
「こういう視点もあるのか・・・」と感心するのが精いっぱいですから。それが面白いかと言われると、それは別問題。

僕はこういう映画界の内幕ものって、スゴく難しい題材だなぁと、いつも思ってしまう。
どうあがいても、自分たちのことを厳しく批判的に描き通すことは難しいだろうし、身内ネタみたくなってしまう。
実際、本作もまるで「脚本家って、こんなに大変なんですよ」と同情をかっているように観えて、なんとも微妙に映る。
チャーリー・カウフマンは同情して欲しくて、このシナリオを書いたわけではないでしょうけど、そう見えてしまう。

そんな姿をニコラス・ケイジも嬉々として演じているように観えて、なんだか空しく映ってしまう面も無くはない。
ジョン・マルコビッチ、ジョン・キューザック、キャサリン・キーナーらが本人役でカメオ出演しているので尚更のこと、
『マルコヴィッチの穴』を楽しめた人に向けたような映画になっているのも、僕の中では一概に賛同し難いものがある。

個人的には、もう少し映画らしくなるように脚色して欲しかったなぁとは思いますが、
それでもこの内容をよく映画化したなぁ・・・というのが正直な感想ですよ。前述しましたが、これは相当に難しい。

架空の双子の弟ドナルド・カウフマンという発想自体は、悪くなかったとは思いますけど、
チャーリー・カウフマン自身、ものスゴい自分の容姿にコンプレックスがあるのか本作ではニコラス・ケイジに
頭髪が薄く、肥満体、肌はボロボロで多汗症、対人恐怖症気味で女性には晩熟という、徹底して自分を“下げて”描く。
終始、ずっと冴えないシルエットで演じさせているのが、逆に自分には意地悪な描き方に見えてしまった面があります。

一方の弟のドナルドは何故か腰が痛くて、横になっている時間が長いという設定なのですが、
女性に対しては積極的かつ、実際にモテるという設定であって、口も上手くて会話がやたらと弾む愉快な性格、
社交的で魅力的な大人の男という対照的な描き方をしていて、何かチャーリー・カウフマンの卑屈さを垣間見れる。

こういう一連の突飛な描き方が本作の根幹を支えているので、この鬱憤が溜まったような空気感を
理解できる人にはそこそこオススメできる作品ではあるのだけれども、普通にコメディ映画として考えるのはツラい。

何故か惹かれた原作本の映画向けの脚本を書こうと奮闘していたら、案外なかなか面白くならなくて、
原作も何を表現したいのかが分からなくなる。そこで思いついたのは、原作者に近づけば深みが増すのではないか
ということだったが、原作者に近づけば近づくほど、実は深い闇があって原作の映画化の本質から大きく逸脱していく。

退屈さを追求すれば、いつかは面白くなるのではないかと思っていたが、いつの間にか追求していたものが変わり、
その逸脱にチャーリー自身も気付けないほどのめり込んでしまう。そんな姿が面白くないですか?という映画かなと。

いや、でも...ユニークな発想のヘンテコリンな映画だとは思ったけど、映画として面白いかはとても微妙。
次々と混沌としたシチュエーションを綴っていく構成を、映画としての体裁を作ったこと自体はスゴいとは思うので
それも含めて及第点レヴェルの映画だとは思いますが、「分かる人が分かればいい」...そんな映画になっている。
このスタンスに付いて行ける人は楽しめるでしょうから、喜ぶのは極一部のコアなファンという見方になってしまうなぁ。

どうでもいい話しではありますが...映画のクライマックスに突如としてカー・クラッシュがあって、
これがあまりに突然訪れる衝撃で、DVDで観たけどスゴいビックリさせられた。いやはや、心臓に悪いって・・・(笑)。

(上映時間115分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[PG−12]

監督 スパイク・ジョーンズ
製作 ジョナサン・デミ
   ビンセント・ランディ
   エドワード・サクソン
原作 スーザン・オーリアン
脚本 チャーリー・カウフマン
   (ドナルド・カウフマン)
撮影 ランス・アコード
編集 エリック・ザンブランネン
音楽 カーター・バーウェル
出演 ニコラス・ケイジ
   メリル・ストリープ
   クリス・クーパー
   ティルダ・スウィントン
   ブライアン・コックス
   マギー・ギレンホール
   カーラ・セイモア
   ダグ・ジョーンズ
   ジュディ・グリア
   カーチス・ハンソン
   スパイク・ジョーンズ
   スティーブン・トボロウスキー

2002年度アカデミー主演男優賞(ニコラス・ケージ) ノミネート
2002年度アカデミー助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度アカデミー助演女優賞(メリル・ストリープ) ノミネート
2002年度アカデミー脚色賞(チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン) ノミネート
2002年度イギリス・アカデミー賞脚色賞(チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン) 受賞
2002年度ベルリン国際映画祭審査員特別賞(スパイク・ジョーンズ) 受賞
2002年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞脚本賞(チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン) 受賞
2002年度ニューヨーク映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン) 受賞
2002年度ロサンゼルス映画批評家協会賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度ボストン映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン) 受賞
2002年度サンフランシスコ映画批評家協会賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度シカゴ映画批評家協会賞助演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
2002年度シカゴ映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン) 受賞
2002年度シアトル映画批評家協会賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度トロント映画批評家協会賞作品賞 受賞
2002年度トロント映画批評家協会賞主演男優賞(ニコラス・ケージ) 受賞
2002年度トロント映画批評家協会賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度トロント映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン) 受賞
2002年度ワシントンD.C.映画批評家協会賞監督賞(スパイク・ジョーンズ) 受賞
2002年度ワシントンD.C.映画批評家協会賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度ワシントンD.C.映画批評家協会賞脚色賞(チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン) 受賞
2002年度サンディエゴ映画批評家協会賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度サンディエゴ映画批評家協会賞脚色賞(チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン) 受賞
2002年度フロリダ映画批評家協会賞作品賞 受賞
2002年度フロリダ映画批評家協会賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度フロリダ映画批評家協会賞脚本賞(チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン) 受賞
2002年度サウス・イースタン映画批評家協会賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度サウス・イースタン映画批評家協会賞助演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞
2002年度サウス・イースタン映画批評家協会賞脚色賞(チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン) 受賞
2002年度カンザス・シティ映画批評家協会賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度ダラス・フォートワース映画批評家協会賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度セントラルオハイオ映画批評家協会賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度セントラルオハイオ映画批評家協会賞脚色賞(チャーリー・カウフマン、ドナルド・カウフマン) 受賞
2002年度バンクーバー映画批評家協会賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度ゴールデン・グローブ賞助演男優賞(クリス・クーパー) 受賞
2002年度ゴールデン・グローブ賞助演女優賞(メリル・ストリープ) 受賞