目撃(1997年アメリカ)

Absolute Power

イーストウッドの監督作品としては、あまり大きな注目を浴びたわけではないけど・・・

映画の出来の良し悪しを超越したところで、近年のハリウッド映画には無い風格を帯びた作品だ。
確かにせっかくの豪華キャストもフルに活きた内容とは言い難いし、シナリオが良いわけでもない。
ミステリー映画というジャンルなのだろうけど、その割りに観客に推理を強いるような内容でもない。

まぁ結論から言えば、映画の出来がそこまで良くはないと思うのですが、
ポイント、ポイントでこの映画には素晴らしいシーン演出があって、イーストウッドが映像作家として、
大成したことを象徴するかのように、他のディレクターには無い鋭い視線が随所に見られる作品だ。

お世辞にも、エンターテイメントとして優れた映画とは言えないし、
映画の出来が良いとまでは言えない。でも、これは簡単に切り捨てられない趣がある。

同じ時期にイーストウッドは監督業に専念して、『真夜中のサバナ』を撮っていて、
こちらも内容が内容だっただけに、日本でもほとんど注目されずに劇場公開が終了してしまいましたが、
本作は『真夜中のサバナ』よりは観るべきポイントがあった映画だと思うし、観易い内容だと思う。

本作が描いていることは、真実の重みだと思うのですが、
どうも原作がそうなっているのか、ウィリアム・ゴールドマンが勝手に脚色したのか、
はたまた上映時間が長くなり過ぎたので短くするためにカットされたのかよく分かりませんが、
各登場人物の行動一つ一つについて、えらく不親切な映画になってしまっており、
この完成作品を観て、思わず「一体どうして、こんなに違和感だらけの映画にしてしまったのだろう?」と、
疑問に思わざるをえず、これはイーストウッド自身も気づいていたのではないだろうか?と思えてなりません。

でも、敢えて、こう違和感だらけで映画を終わらせる意味が分からないんですね。

特に映画のクライマックスで、大統領とサリバン氏のやり取りをウヤムヤにする意図がよく分からないし、
大統領補佐官たちの末路についても、ほとんど省略してしまうというのは、あまりに横着ではないだろうか?

これが意味のある省略であれば、高く評価されたのだろうけど、
少なくとも本作のラストは、観客に想像の余地を残し過ぎだと思うし、ハッキリとした結論を出すべきだったと思う。
僕もあまり本作のことをよく反芻できていないのかもしれないけど、いくらミステリー映画とは言え、
本作の場合はいろんなことを曖昧に描いて終わるクライマックスというのが、全て逆効果になっている気がします。

これって、ウィリアム・ゴールドマンの脚本もどうかと思うけど、
イーストウッド自身が編集段階でどう感じていたのか、個人的には知りたいんですけどねぇ・・・。

とは言え、本作は冒頭20分にわたる、豪邸での攻防のシーンが素晴らしい緊張感。

主人公のルーサーが強盗に押し入っていたサリバン氏の豪邸に帰ってきたのは、
家族でカリブに旅行に出ていたはずの泥酔したサリバン氏の妻と、やはり酔っていた合衆国大統領でした。
どうやら2人は不倫関係にあるらしく、ベッドインとなる様相でしたが、次第に大統領の振る舞いが一変。
どうやら暴力的な性的嗜好があるらしく、これに危険を感じたサリバン氏の妻は必死に抵抗しますが、
一向に大統領の力は収まらず、ナイフを持ったサリバン氏の妻が大統領に逆襲に転じるものの、
叫び声を聞いた大統領補佐官たちがサリバン氏の妻を射殺してしまいます。全てを目撃していたルーサーは、
偽善的な対応に転じる大統領の姿に怒りを覚え、危険を顧みずルーサーなりの反撃に出ます。

映画はそんなルーサーの抵抗が、彼の疎遠だった娘までも危険な状況に巻き込んでしまいます。
捜査を担当するのは警察なのですが、ここでユニークなのは大統領が絡んでいる事件なだけに、
大統領補佐官たちが独自に警察の捜査を内偵し、挙句の果てにはルーサーの娘の命を狙ってきます。

まぁ、大統領がここまで暴走するという設定自体が、どこか胡散臭いのですが、
演じるジーン・ハックマンが適役といった感じで、彼はホントに『追いつめられて』のときみたく、
女ったらしでカッとなり易い権力者の役がとっても似合いますね(笑)。映画の展開も、ソックリ。

おそらくジーン・ハックマンも92年の『許されざる者』からの縁で、
イーストウッドは彼を起用したのだろうけど、よくお互いのことが分かっているという感じですね。

そもそも、いくら合衆国大統領が異常な性的嗜好の持ち主で、
トンデモないサディストだったとしても、いくらなんでも相手を殺しかねない暴力にでるというのは、
話しに無理があるような気がありますが、ジーン・ハックマンの説得力ある存在感に助けられていますね。

前述した、冒頭20分にわたる攻防というのは、幾つかポイントがあって、
まずはルーサーがサリバン氏の屋敷に侵入して、金品を奪う際の静寂の中の緊張感、
その後に大統領とサリバン氏の妻の事件を目撃してしまう緊張感、そして大統領補佐官に林の中を追跡され、
老体に鞭打って必死に逃げ回るという緊迫感、その全てがとっても映画の中で上手く機能しています。

このシーン演出だけでも価値があったと言ってもいい気がしますが、
イーストウッドとしては、やはりこの後が今一つ噛み合わなかった部分があるというのが痛手かな。
ひょっとしたら、色々な制約がある中での撮影だったのかもしれませんが、イーストウッドの手腕からすると、
もっと良い仕上がりにはできただろうし、昨今のイーストウッドの監督作品として考えると、やや落ちる出来ですね。

とは言え、あまり万人ウケするタイプの映画ではありませんが、
やはり確かな腕のディレクターが撮った映画という感じですし、やはり確実にイーストウッド節が根付いています。

おそらくイーストウッドはヒッチコックの映画を意識していたのではないかと思いますが、
どうも、本作では色々な部分でシックリ来ていないという感じで、本来的に映画を動かし始める、
中盤からは上手く構成できませんでしたね。結局、映画の序盤で息切れしてしまった感じなんですよねぇ。
ひょっとしたら00年代のイーストウッドだったら、もっと上手く描けていたかもしれませんね。

しかし、00年代に映画監督として更なる高みに達したイーストウッドですが、
本作のような作品があったからこそ、00年代の成功があったのではないかと思います。
そういう意味で本作はイーストウッドの足跡を辿る上で、是非とも観ておくべき作品と言ってもいいかもしれません。

(上映時間121分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 クリント・イーストウッド
製作 クリント・イーストウッド
    カイル・スピーゲル
原作 デビッド・バルダッチ
脚本 ウィリアム・ゴールドマン
撮影 ジャック・N・グリーン
美術 ジャック・G・テイラーJr
編集 ジョエル・コックス
音楽 レニー・ニー・ハウス
出演 クリント・イーストウッド
    ジーン・ハックマン
    エド・ハリス
    ローラ・リニー
    スコット・グレン
    ジュディ・デービス
    デニス・ヘイスバート
    E・G・マーシャル
    リチャード・ジェンキンス
    メロラ・ハーディン
    アリソン・イーストウッド