きのうの夜は・・・(1986年アメリカ)

About Last Night...

名劇作家デビッド・マメットの戯曲を映画化した、この時代の空気を象徴したラブ・ロマンス。

監督は後に『レジェンド・オブ・フォール/果てしなき想い』など規模の大きな映画を
手掛けることになるエドワード・ズウィックで、80年代のバブリーな時代の空気感がいっぱい残った作品だ。

やはりアメリカもそうだったのでしょうが、この時代って特有の空気がありますね(笑)。
本作もデミ・ムーアにロブ・ロウと、80年代に大活躍した若手俳優の総称“ブラット・パック”を象徴する
2大俳優がカップルを演じるという、当時としては話題性の高い企画であったと思われます。

デミ・ムーアはヌードも辞さぬ女優魂を見せた作品であり、
当時は私生活でエミリオ・エステベスと交際していたことは公然の仲だったそうですが、
エミリオ・エステベスはデミ・ムーアも出演した『ウィズダム/夢のかけら』で弱冠23歳にして、
監督と主演を兼務したりして、2人もかなり野心を持って俳優活動を展開していたことは明らかですね。

本作はシカゴに暮らす20代の男女の恋愛観を取り上げていて、
刹那的な男女関係に終始していた男女が強く惹かれ合い、いざ交際が始まり、同棲にまで至るものの、
すぐに様々なことが障害となり、ケンカが始まり、2人の考え方の違いが明確になっていきます。

別に80年代に限った話しではなくって、別にこの時代に特有の価値観があるわけでもない。
言ってしまえば、本作で描かれたことは現代に於いても置き換えられる、ありふれたテーマなのです。

まぁ・・・こういう言い方がは良くありませんが、映画の出来としては平凡なもの。
当時のエドワード・ズウィックも、あまり主体性が感じられない演出に終始しており、
個人的にはもっと魅力的な映画にできたと思うし、例えば『セント・エルモス・ファイヤー』なんかと比較しちゃうと、
映画のカラーの好き嫌いはあるかもしれないけど、あの作品ほどのインパクトは出せていないと感じます。

但し、この映画の良いところは決して安易な結論を出さなかった点です。
ハッピーエンドかそうではないかという分かり易い結末に落ち着きがちなのですが、
本作はそうではなく、敢えてハッキリとした結末ではなく、あくまで現在進行形な終わり方を選択しています。

それでいて、実に映画的なニュアンスとできたところは大きな収穫でしたね。

当時、エドワード・ズウィックも若手映画監督で本作が監督デビューでしたので、
ほぼ無名の状態で本作を撮ったわけですが、デビュー作として考えると、実にしっかりした内容と言えるでしょう。
あくまで題材としては、80年代に生きる若者たちという視点ですが、当時、30代であったエドワード・ズウィックから
見れば、決してリアルタイムに感じている等身大の姿を描いたというわけではない分だけ、どこか冷静に見ている。
言ってしまえば、エドワード・ズウィックなりに当時の若者の恋愛観を分析した映画という感じですね。

そういう意味で、エドワード・ズウィックって、もっと凄い映像作家になるはずだったんですがねぇ・・・。
ハリウッドでもいろんな監督がいますけど、なかなかこれだけの規模の映画でデビューなんて、無いことですからね。
それだけ当時のプロダクションにエドワード・ズウィックが期待されていたということだと思うんですよね。

デビッド・マメットの原作があるとは言え、やはり最終的に映画の舵取りをするのは
エドワード・ズウィック自身であることを考えると、それだけポテンシャルは高かったということだと思うんですよね。

が、本作の時点で気になるのは、全体的に俳優陣に委ね過ぎているように感じられること。
これが主体性のない演出に終始している印象を受ける原因なのかもしれません。何か一つでいいから、
エドワード・ズウィックらしさというのを出して欲しいし、あまりに特徴が無さ過ぎるというのが気になります。
これって、デミ・ムーアがヒロインに抜擢できていなかったら・・・と思うと、何とも言えないところだと思うんですよね。
言ってしまえば、本作の魅力の大半の部分はデミ・ムーアが支えていると言っても過言ではないと思います。

結果として、エドワード・ズウィックは伸び悩んでしまったようで、
89年の『グローリー』を撮ってからは、どうもダメですね。やはり課題を克服し切れていない気がします。
03年の『ラスト サムライ』が少しだけ話題にはなりましたが、芳しくない出来であったわけですし。。。

映画では当時の男女の恋愛観にクローズアップしておりますが、
なかなか結婚を意識した恋愛をすることができない男性、いざ交際がスタートすると結婚を意識して、
長期的な視点に立って交際する女性との違いを対照的に描いてます。これは現代にも通じるテーマだ。
デビッド・マメットが敢えて、こういった題材を当時取り上げたのは、おそらく同棲生活というのが
当時の男女の恋愛のあり方として、一つのフォーマットになりつつあったからだと思いますね。

今流に言うと、合コンのような出会いが描かれていますが、
ヒロインのルームメイトであるジョアンから紹介される男性が、ヒロインにとってはオジサン過ぎるのが可笑しい。

よくある話しと言えばそうですが、紹介されるというのは、相手を選べないですからね。
そういう意味ではヒロインにとっては、ロブ・ロウ演じるダニーが忘れられない存在になるということなのですが、
それが肉体的な相性で決まるというのも、80年代の男女のトレンドを象徴しているのかもしれませんね。

勿論、時代性は60年代後半から劇的に変わりつつありましたが、
アメリカでも社会情勢が落ち着かず、ライフスタイルや価値観が完全に変わったと言えるのは、
ひょっとすると80年代になってからのことなのかもしれません。これはこれで社会派な映画なのかもしれませんね。

それにしても、“ブラット・パック”の勢いを象徴する作品なので、
本作のような映画はどことなく懐かしい感覚にさせられますが、“ブラット・パック”の世代で
ハリウッドで上手く生き残れた俳優というのが、数少ないだけになんだか切なくなってしまいますね(笑)。

本作にしてもロブ・ロウは未成年とのスキャンダルによって低迷を余儀なくされ、
映画界からは遠ざかり、テレビに活動の舞台を移したものの、あまり上手くいっていないようですし・・・。

そういう意味で、迷走している感はあるけど...
デミ・ムーアって、まだまだ頑張って欲しい女優さんの一人なんですよねぇ〜。

(上映時間113分)

私の採点★★★★★★☆☆☆☆〜6点

監督 エドワード・ズウィック
製作 ジェイソン・ブレッド
   スチュアート・オーケン
原作 デビッド・マメット
脚本 ティム・カズリンスキー
   デニース・デクルー
撮影 アンドリュー・デインテンファス
音楽 マイケル・グッドマン
出演 デミ・ムーア
   ロブ・ロウ
   ジェームズ・ベルーシ
   エリザベス・パーキンス
   ジョージ・ディセンゾ
   マイケル・オルドリッジ
   ロビン・トーマス