アバウト・ア・ボーイ(2002年アメリカ)

About A Boy

人気小説家ニック・ホーンビーの原作を、鬼才ウェイツ兄弟が描いたシニカルなコメディ映画。

デ・ニーロが関係する映画製作会社トライベッカが関わった作品でもあったんですね。

イギリスを代表するヒュー・グラントが、父親から相続した莫大な遺産と、
今も入り続ける印税収入のおかげで、学校を卒業した後、一度も働くことなく38歳になり、
優雅な独身生活を謳歌し続けていたプレーボーイを演じ、ひょんなことからシングル・マザーを
ナンパしたいと思ったことから参加した、“シングルの会”に家族構成を偽って参加したことがキッカケで、
精神を病んだシングル・マザーに育てられる12歳の少年との心温まる交流の中で、持ち味存分に発揮します。

これはこれでヒュー・グラントが、「地でやってるんじゃないか?」と思えるほど、
実にナチュラルな立ち振る舞いで、このキャステイングは抜群だったと思いますね。

この映画は、賛否が分かれる部分もあるとは思うけど、
主人公が学校の音楽会に行く途中で、母親を諭すシーンがハイライトと言っても過言ではなく、
「あの子は自分のためではなく、貴女のために歌おうとしているんだ!」というセリフが印象的だ。
それに加えて、少年に「君はお母さんを幸せにすることはできないんだ!」と言い放つシーンも意味深長。

この主人公、父親の遺産を食い潰しているだけではありますが、
本質的にはダメな人間とは言い切れないという前提条件で、洞察力があるからこそ、
こういう発言ができたのでしょう。そして家族など近い存在だと、なかなかあんなことは言えませんね。

これがホントにロクデナシだったら映画が成り立ちませんので当たり前ですが、
ウェイツ兄弟も器用な映画の構成になっていて、映画の序盤はどこか幼稚に見えてしまう部分が目立つ。
思わず「近くにいたら、イヤなタイプかなぁ〜」と見えちゃうくらいなのですが、映画が進みにつれて、
ごく自然に、ある程度の納得性をもって主人公の魅力を引き出せていて、上手く描けていると思います。

ニック・ホーンビーの原作は未読ですが、おそらく原作のファンも多いだろうと思える中、
難しい企画だったとは思いますが、ウェイツ兄弟は見事に上手くやってのけたのではないでしょうか。

ある意味では、大人になり切れない子供のような大人の物語ですが、
子供に興味もないし、疎ましいと思っていても、いざ子供と不本意ながらも関わるようになってから、
それまでは自分でも気づいていなかった、相手への気遣いを見せ始め、内省的な思いもでてくる。

そんな、ありがちなタイプの物語ではありながらも、
この映画は独特なシニカルさがあって、ヒュー・グラントのキャラクターも相まって、魅力的な作品に仕上がっている。

ただ、個人的には主人公の本音を随分とナレーションで吐露させるのですが、
これはナレーションに頼り過ぎているというか、全体的に台詞で語ろうとし過ぎているように感じました。
これをやり過ぎると、映画が説明的になり過ぎるんで、僕はもっと普通に描いて欲しかったなぁと感じました。
ナレーションを多用して、それを“売り”にしている映画というわけではないので、尚更、印象に残りましたね。

それから、少年マーカスの母親が抱える精神的な問題について、
映画の終盤で深い言及を避けた感じで、どこか中途半端な形で映画が終わってしまったのも気がかり。
本作の主題ではないことは分かるし、マーカスが成長していることで察することはできるのだけれども、
この母親の葛藤は根深い問題であるように描かれていただけに、しっかりと“転機”を描くべきだったと思う。

それが、あの音楽会だとするには少々、無理があるのではないかと思いますね。

それはともかくとして、この音楽会でマーカスはロバータ・フラックの『Killing Me Softly』(やさしく歌って)を
選曲するのですが、現代の子たちには更なるイジメにあうと予想した主人公が、途中から割って入るシーンを見て、
彼らの絆を感じましたが、ヒュー・グラントがギター弾き語りで入ってくるのは、あまりにカッコ良過ぎますね(笑)。

そう、主人公とマーカスのシルエットは、2人してソファーでお菓子を食べながら、
テレビをだらしなく見る姿に象徴されていますが、親子というより、まるで兄弟のようなんですね。
これはこれで主人公の大人になり切れない部分かもしれませんが、なんだか微笑ましい光景ですね。
やはり実際に父親になっても感じますが、子供と並んで座ると、時に兄弟のように感じる瞬間もありますし(笑)。
(まぁ・・・親子だと、ナンダカンダで似た行動やクセってありますからねぇ...)

主演のヒュー・グラントに対して、難しい時期を迎えた少年マーカスを演じた、
ニコラス・ホルトは実に難しい役どころだったと思うのですが、ナチュラルに違和感なく演じている。
彼は子役から上手く大人の俳優に進めたようで、本作での経験は大きかったんじゃないですかねぇ。

てっきり主人公の相手役だと思っていたシングル・マザーを演じたレイチェル・ワイズは
本作ではあまり大きな役ではなく、映画の中盤にならないと登場してこないくらいだ。
どことなくですが...彼女の使い方はなんだか勿体なかったのではないかと感じましたねぇ。。。

しかし、シングルであることを慰め合う会に、ナンパ目的で参加するために
自分もシングル・ファザーであると偽って参加するなんて、主人公は極めて悪質な奴だ(笑)。
まぁ、現実にこんなことやってバレたら、この映画で描かれたような寛容な扱いは受けられないでしょうね。

この辺もウェイツ兄弟らしく、チョット毒っ気を感じさせる演出になっていて、
それを違和感なくアッサリと作り手や観客の期待に応えるように演じられるヒュー・グラントもスゴい(笑)。

というわけで、この映画はヒュー・グラントありきの内容になっています。
というか...ヒュー・グラントとニコラス・ホルトの2人に頼りっきりの作品です。
全体的にはもう少しキャスト面でもバランスをとって、脇役キャラクターは大切にすべきだったでしょう。
よくあるタイプの映画かもしれませんが、主人公ウィルに友達をつけるとか、多少の脚色はあって良かったかも。

及第点は軽く超えたレヴェルの作品なだけに、チョットしたことに注文つけたくなっちゃいます(苦笑)。

とは言え、ニュートラルな雰囲気の映画で、これはこれで丁寧に作られた好感の持てる作品だ。
あまり完璧にキチッとし過ぎなかった点が、逆にこの映画にとっては良かったのかもしれません。
『アメリカン・パイ』の路線を期待したウェイツ兄弟の映画のファンにとっては、物足りないかもしれませんが・・・。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 クリス・ウェイツ
   ポール・ウェイツ
製作 ティム・ビーヴァン
   ロバート・デ・ニーロ
   ブラッド・エプスタイン
   エリック・フェルナー
   ジェーン・ローゼンタール
原作 ニック・ホーンビー
脚本 ピーター・ヘッジズ
   クリス・ウェイツ
   ポール・ウェイツ
撮影 レミ・アデファラシン
音楽 ニック・ムーア
出演 ヒュー・グラント
   ニコラス・ホルト
   レイチェル・ワイズ
   トニ・コレット
   シャロン・スモール
   マディソン・クック
   ジョーダン・クック

2002年度アカデミー脚色賞(ピーター・ヘッジズ、クリス・ウェイツ、ポール・ウェイツ) ノミネート
2002年度ボストン映画批評家協会賞助演女優賞(トニ・コレット) 受賞