オーバー・ザ・ムーン(1999年アメリカ)

A Walk On The Moon

まぁ・・・色々とツッコミたい作品ではあるのですが...
あまり細かい部分はどっかに置いておいて・・・(苦笑)、率直に映画の出来だけをみると...

僕はそんなに悪い出来の作品だとは思いませんでした。
『ゴースト/ニューヨークの幻』で嫌なヤツを演じた俳優のトニー・ゴールドウィンが
初めてメガホンを取った作品であり、ダスティン・ホフマンも企画に惚れ込み、出資したらしいのですが、
題材の良さ以上に、あまり無理をしない自然体な映画として、好感の持てる作りではありましたね。

また、80年代はアイドル女優的な位置づけであったダイアン・レインが
チョットだけくたびれたような雰囲気を出す、中年女性を演じるという観点から
ハリウッドで再評価される気運を高めた作品として、僕はもっと話題になっても良かったとは思いますね。

個人的にはあまりストーリーの細かい部分にツッコミは入れたくないのですが、
最初に言った通り、これは僕の価値観から言えば、さすがに受け入れ難い面があったことは否めません(苦笑)。

主人公の主婦パールは17歳で長女アリソンを妊娠してしまい、
当時の恋人マーティと結婚し、その後に一男をもうけ、幸せに暮らしてきました。
マーティは家電修理業を営み出張の日々、長女は思春期を迎え難しい年頃ながらも、
毎年夏休みになると訪れる、避暑地でひと夏を過ごすことを決め、義母と共に訪れます。

ところがパールはここで出会った、行商に来たブラウス売りの男ウォーカーとの不倫にのめりこみ、
アリソンは多感な乙女心を開花させ、2歳年上のロスという青年との恋愛に夢中。

サンダンス国際映画祭で話題となった作品であるにも関わらず、
日本で気は劇場未公開作扱いで終わってしまったのは、おそらくこの内容のせいだろう。
良く言えば、奔放な女性を映した作品ということになるのですが、これは共感を生みづらいだろう。

何故、見知らぬ男と浮気するのかを娘に問われ、パールは言います。
「アナタ(アリソン)の妊娠は突然の出来事。あのときはまだ17歳だった。アタシには青春は無かったのよ!」と。

まぁパールが言ったことは事実かもしれないし、文字通りの本音なのだろう。
しかし、頭でっかちに言えば、それで夫は家族に忠実、2人の子持ちという状況にありながら、
浮気したパールの行動を正当化する理由にはならないだろうし、これは子供に言ってはいけない台詞だろう。
だからアリソンは泣きながらパールに言います、「アタシが生まれたことは“事故”だったのね」と。

もうこうなってしまうと、いくらパールが否定しても無駄ですね。
厳しい言い方ですが、僕はこの時点でパールは母親としての役割を放棄したのではないかと思います。
幸いにも、妙に物分りのいい家族だから破滅へは向っていきませんが、現実はこんなに甘くないだろう(笑)。

義母に浮気を指摘され、「行かないで」と懇願されても、ついウォーカーとの肉体関係を優先させるし、
パールの浮気を知ったマーティに問い詰められ、「一体、(これから)どうする気なんだ?」と
ウォーカーとの関係について質問されても、パールは泣きながら「分からない...」と答えるだけ。
それでも更にウォーカーに「もう別れましょう」と言いに一人で会いに行くあたりも、チョット理解できない。

まぁ子供がいないなら、「どうぞ好きにやってください」って感じだけど、
半分、パールの行動を正当化するような向きに流れていく本作の描き方には、どうしても共感できません。
これとは全く別の観点から、浮気する母親を描いた『運命の女』みたいな作品なら、理解できるんだけど。

当然、この家族もやり直しはできるだろう。
パールの軽率な行動を許す家族もいるだろうし、一時的にはパールも反省するだろう。
でも、僕の本音は...「こんな調子じゃ彼女(パール)、また同じことを繰り返すよ」ってこと(笑)。
だって娘に浮気現場を目撃されても、あんな弁解しかできない母親なんですもの。
そういうことを考えると、どうしてもこの映画の作り手のスタンスに共感できないんですよねぇ。

時代はアポロ11号の月面着陸や、愛と平和の祭典“ウッドストック”が催された頃であり、
時代が劇的に変化していた頃で、人々の生活も大きく変容していた頃でありました。
でも、そんな時代背景を考慮しても、やっぱりパールの主張は僕の理解を超越していますね(苦笑)。

そればっかり言っても仕方ないので、別な視点を持ちますと...
キャスティングにはとにかく恵まれた作品ですね。おそらく当初は低予算映画だったのでしょうが、
やはりダスティン・ホフマンの後ろ盾が大きかったのではないでしょうか。
特に前述したように、共感を得づらい役どころも果敢に挑戦したダイアン・レインの好演が無ければ、
この映画は崩れてしまっていた可能性が高く、彼女の功績はひじょうに大きいですね。

アンフェアな浮気なのですが、彼女が映画の前半から出していた、
少しくたびれたような中年女性の苦悩がひじょうに的確で、これが映画を観れるものに昇華しているのは事実。

また、如何にも不倫しそうな主婦という空気丸出しではなく、
一旦、不倫にのめり込んだら自力で抜け出せず、なんか大変なことになっちゃいそうな空気丸出しってのが
失礼な話し、ひじょうに似合ってて(笑)、本作は02年の『運命の女』の名演への布石となっていますね。

まぁ幸運な監督デビュー作ではありますが...
こういった環境に恵まれるトニー・ゴールドウィンって、なんか“もってる”んでしょうね(笑)。

(上映時間108分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 トニー・ゴールドウィン
製作 トニー・ゴールドウィン
    ダスティン・ホフマン
    ジェイ・コーエン
脚本 パメラ・グレイ
撮影 アンソニー・B・リッチモンド
音楽 メイソン・ダーリング
出演 ダイアン・レイン
    ヴィゴ・モーテンセン
    アンナ・パキン
    リーブ・シュライバー
    トヴァ・フェルドシャー

1999年度インディペンデント・スピリット賞主演女優賞(ダイアン・レイン) ノミネート