007/美しき獲物たち(1985年イギリス)

A View To A Kill

うーーーーーーーーーん......やっぱり、もうキツいわなぁ(笑)。

73年の『007/死ぬのは奴らだ』で37歳にして3代目ボンドに就いたロジャー・ムーアが
12年間で7本もの作品でボンドを務め、安定した人気エンターテイメントとして全世界に定着させたわけで、
本作はロジャー・ムーアが58歳にして、ついに世界を股にかけるスパイを降板したシリーズ第14弾。

79年の『007/ムーンレイカー』あたりから、彼の高齢化が目立ち始め(笑)、
80年代に入ってからの“007シリーズ”では、ふんだんにスタント・アクションを駆使していたのですが、
本作ではついにスタント・アクションも控え目になり、アクション・シーン自体が減った印象が残ります。

個人的には前作まで、ジョン・グレンの演出にはメリハリがあって、
それまでの“007シリーズ”の迷走ぶりを軌道修正したという意味で、気に入っていたのですが、
本作ではアクションにしても、ロジャー・ムーアが演じるボンドで打ち出したギャグ路線にしても、
どちらも薄味な印象で、映画自体のインパクトが弱いような気がするのが、残念でしたね。

おそらくジョン・グレンの演出スタイルも、この時代のアクション映画のスタンダードと比較しても、
どこか大きく乖離した部分が出てきたんでしょうね。ディレクターも交代時期を迎えているという印象です。

それまでのシリーズでは、あまり有名な役者をボンドに敵対する、
悪役キャラクターとして打ち立てていないポリシーを貫いていたプロダクションでしたが、
本作ではついに既にオスカー俳優だったクリストファー・ウォーケンを配役しており、
クライマックスの洞窟内の工事現場で、敵・味方関係なく、見境なく自分の部下をもライフルをブッ放して、
乱射しまくり片っ端から殺してしまう、常軌を逸したキャラクターを確立していたのは、強く印象に残る。

その精神的な異常性は、映画のクライマックスになって本性を現すのですが、
映画の前半からも、彼はボンドを痛めつけるために乗馬に誘って、次々と障害物にケチな細工をして、
なんとかしてボンドを落馬させようと必死になるという、幼稚さがなんだか笑えてきますね。

ただ、言ってしまえば、この映画は“それだけ”に近いかな。。。

まぁ酷評するほど悪くはないんだけれども、
サンフランシスコの市街地をボンドがブラ下がる気球が徘徊し、ゴールデン・ゲート・ブリッジに
ボンドがブラ下がるロープを巻きつけて気球が動けなくなるクライマックスにしても、
どことなく盛り上がりに欠ける映画のハイライトとなってしまい、手に汗握る攻防とまではいかないのが残念。

ロジャー・ムーアも撮影当時、60歳近かったせいか、
生身の格闘シーンも数少なく、映画自体がエキサイティングなものとして捉えることが難しいかな。

ロジャー・ムーアどころか、ショーン・コネリーが演じた第1作の『007/ドクター・ノオ』から
Mの秘書であるマネーペニー役として親しまれたロイス・マクスウェルも本作での降板を自ら申し出たそうで、
確かに女優さんにこういう言い方は失礼ではありますが、彼女もかつての印象から変わってしまった感はあります。

そう考えると、すっかり高齢化してしまった“007シリーズ”を観ているようで、
やはり80年代に入ってからは、プロダクションが抱えていたであろう、深刻な後継者問題が表面化した作品です。

本作では当時、売れっ子バンドだったデュラン・デュラン≠ェ主題歌に抜擢されていますが、
完全にこれまでのシリーズの主題歌の潮流を無視したような感じで、慣れるまでに時間がかかる(笑)。

まぁさすがに今回のボンドガールである、タニア・ロバーツともかなりの年齢差があるので、
いくらロジャー・ムーアが若作りしてもキビしいものがありますが、それでもこれで交代と思うと、
なんだか名残惜しいような感じがしますね(苦笑)。たとえ、『インディ・ジョーンズ/魔宮の伝説』のパクりと
陰口を叩かれようが、映画の後半に出てくる洞窟でのシーンでは、どうせならトロッコ・チェイスなど
迫力満点のアクション・シーンで大活躍するロジャー・ムーアを、最後に観ておきたかったという気持ちもあります。

本作ではクリストファー・ウォーケン演じるゾーリンと、彼の恋人であり側近的存在である、
グレイス・ジョーンズ演じるメイデイが登場してきますが、もう一つ本作で良かったところは、
メイデイの存在感で、クライマックスではとても重要な役割を果たしており、彼女の存在感も特筆に値する。

そういえば、この映画の冒頭で当時は、“スノーサーフィン”と呼ばれていた
スノーボードを使って、ボンドが追っ手から逃走するシーンがあるのですが、これは当時としては極めて珍しい。
日本では、90年代に入ってからスノーボードがブームになりましたので、ひょっとしたら“スノーサーフィン”で
楽しんでいたのは、ホンの一握りだったかもしれませんね。スノーボードは深雪に向いているという特質を
活かしたシーンになっていて、これを観て、日本でも興味がわいたという人も少なからずともいたことでしょう。

いつもロジャー・ムーア時代のボンドは、ラストシーンにチョットだけシャレた部分があったのですが、
本作ではQが映画の前半で紹介していたラジコンを使ったオチで、あまり面白味が無いですね。
てっきりQが開発していたラジコンは事件の解決で使われるのかと思いきや、こういう使い方だけというのは、
チョット寂しいというか、個人的にはQがギャグのネタみたいに使われることには賛成できないんだよなぁ。

あと、勿体ないなぁと思ったのは、ボンドが新聞記者に化けて、
サンフランシスコの市役所に潜入したものの、ゾーリンらに襲撃されてしまい、命からがら逃げたら、
今度はサンフランシスコ市警の刑事に取り調べを受け、ハシゴ車を奪って逃走するチェイス・シーンで、
これはもっと盛り上げて欲しかったですね。ハシゴをブラブラさせるだけでなく、どうせ多額の予算があった
企画なのだから、もっと市街地などでロケ撮影を敢行して、迫力のチェイス・シーンにして欲しかった。
可動式の橋でのシーンをオチにもってきたって、肝心のボンドそっちのけになっちゃうのは感心できない。

ウソかホントか知りませんが、
本作でロジャー・ムーアがボンドガールのタニア・ロバーツの母親が自分より年下なことを知って、
“007シリーズ”からの引退を決意したらしい。ひょっとして、これを知らなければ、まだやるつもりだったのか?(笑)

還暦のボンドも観てみたい気もしたけどさ・・・(苦笑)。

(上映時間130分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

監督 ジョン・グレン
製作 アルバート・R・ブロッコリ
    マイケル・G・ウィルソン
原作 イアン・フレミング
脚本 リチャード・メイボーム
    マイケル・G・ウィルソン
撮影 アラン・ヒューム
音楽 ジョン・バリー
出演 ロジャー・ムーア
    クリストファー・ウォーケン
    タニア・ロバーツ
    グレイス・ジョーンズ
    パトリック・マクニー
    パトリック・ボーショー
    アリソン・ドゥーディ
    デスモンド・リュウェリン
    ロバート・ブラウン
    ロイス・マクスウェル

1985年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演女優賞(タニア・ロバーツ) ノミネート