コンフェッション(1998年アメリカ)

A Murder Of Crows

多少、怪しい依頼人でも弁護士としての務めを果たすためにベストを尽くしてきたものの、
限りなく有罪っぽい友人の弁護の最中で、思い悩んだ結果、弁護を放棄し、弁護士資格を永久剥奪された主人公が
作家に鞍替えするために暮らしていたところ、奇妙な老人と出会い、彼が書いた原稿に興味を持ち、盗作してしまう。
しかし、それは主人公が殺人犯に仕立てられ、警察に追われる序章であった・・・というサスペンス・ミステリー。

監督は93年に『スリー・リバーズ』を撮ったローディ・ヘリントンで、
サスペンスが得意なようですが、本作でも脚本も書いていて、かなり意欲的に撮った作品だったと思う。

主演のキューバ・グッディングJr、僕は好きな役者さんだし、本作も頑張ってはいるのだけど、
彼の隠し切れぬ持ち味が、どうしてもここまでシリアスなミステリー映画になんか合っていないのが致命的。

地元警察の殺人課の刑事を演じたトム・ベレンジャーも、ほぼチョイ役に近い扱いの悪さで、
もっとドシッと構えて渋い活躍をする助演を期待していたのだけれども、ほぼ見せ場が無く終わってしまう。
面白いキャスティングで、脇役にエリック・ストルツなんかも出ているのだが、どうにも皆、中途半端で印象悪い。
まるで宝の持ち腐れ状態のような映画で、これは企画の段階でもっと練って欲しかったところだ。

ミステリーとしては悪くないのかもしれないが、クライマックスも説明不足なところがあって、
この結末に収束するには現実的に考えると、どうしても納得できない。ここは本作にとっては大事なところなので、
もっとしっかり描いて欲しかったのですが、本作はこういう各論を見ると、いただけない点が幾つも散見される。

まぁ、主人公が巻き込まれる事件のカラクリについては色々な意見はあるだろうが、
僕はさして驚くほどのトリックではなく、むしろこの手の映画にありがちな内容だと感じました。
でも、僕は否定的に捉えているわけではなくて、本作はそうしたありがちなトリックを上手く描けていたと思う。
全ての伏線を回収するわけでもなく、張り巡らせた伏線の中には特に意味が無いものもあったりして、
一見するととっ散らかった状態に見えてしまうところを、上手く一つ一つ整理して描こうとする意図が見える作品である。

それゆえ、事件のカラクリもごく自然に描くことができており、妙な違和感は無かったと思う。
えてして、こういう映画は謎解きを強調するあまり、とにかく観客を騙そうという作り手の意思が先行してしまい、
俯瞰的に考えることが欠落しているのか、事件のカラクリを上手く描くことができずに、映画をダメにしてしまうことが多い。

本作はそういった失敗事例に陥ることなく、自然に見せることはできていると思います。これはプラス要素。

しかし、謎解き以外の部分でつまづいてしまった感がどうしても拭えないのですよね。これが勿体ない。
つまらないことではありますが、主人公もチョットした出来心から売れっ子作家として顔が売れたというのに、
いざ指名手配犯となって、それでも尚、堂々と街中を変装もせずに素顔で歩き回れる度胸がスゴいなと感心する。
さすがに図書館では通報されてしまいますが、それまで素顔で行動して、独自に調査が成立することは安直に感じる。

さすがに指名手配犯は、こうも簡単に人の目に触れるところで行動はできないでしょ。
ホントはそういった苦悩から、それでも、なんとかして単独で調査することが本作の醍醐味だと思うのですが、
監督のローディ・ヘリントンは全くそういうことを描こうとせず、主人公の呆れるぐらい堂々とした行動を追っていきます。

この主人公も運動神経が良いのでしょうが、まるでスーパーマンですね。元弁護士とは思えません。
なんせ最後はトレーラーの荷物につかまって、疾走する中、逃走するのですからスーパーマンですよね。
ここまでいくと、ツッコミどころ満載って感じで、さすがに僕はこの映画に“入り込めなかった”というのが、正直な本音。

この辺は作り手も映画の主旨を考えると、こんなにスーパーマンに描いてしまうと、
映画が崩れてしまうと思わなかったのかなぁ。かなりの意欲作のような気もしたので、これは勿体ないことだと思う。

それから、主人公は協力者を探しても見つからず苦労を強いられますが、
唯一、彼に協力的な対応をするのが、マリアンヌ・ジャン=パプティスト演じる元同僚。この2人の関係性も微妙だ。
プラトニックな雰囲気でそれはそれでいいのかもしれないけど、なんだかハリウッド的ではない煮え切らなさ(笑)。

これは前述したトム・ベレンジャーの不可解な描き方にも共通して言えることですが、
もっと広げて、多様な解釈ができる映画を目指した方が良かったと思うのですが、なんだか雑な部分がある。

そして、事件のカラクリを描くこと自体は上手くできたんだけど、その動機があまりにお粗末。
これでは、ただの八つ当たりに見えてしまう。人間の情念が生み出した積もり積もった恨みというわけでもない。
半分こじつけのような動機付けに、僕は完全に拍子抜け。思わず、「何それ・・・」と呟いてしまいました(苦笑)。

いやいや、この動機はいかんでしょう! これでは、ほとんど観客が納得しないと思います。

盗作が思わぬヒットとなるという展開は、どこかで観たことがあるような気もするのですが(笑)、
小説に限らず盗作疑惑というのは、たまに報道されますからね。こういうのは無くならないのだろうなぁと思います。
ましてや小説になると、それで収入を得ることになるわけですから、利益目的の盗作となると尚更、悪質に思える。
まぁ、本作の主人公が自分で5社の出版社に売り込んだというから、よほどの自信があったということでしょう。
「甘い話しには必ず裏がある」とはよく言ったものですが、本作もその盗作から始まるミステリーというわけですね。

主人公は早々に、盗作であると告白しているのですが、
いざ大騒動になると、もうそんな告白を誰も真剣に取り合ってくれません。主人公にかかる疑いは、
盗作の作者ではなく、複数の弁護士を殺害した殺人犯というわけですから、無実の証明に必死になるわけです。

しかし、主人公はドンドンと不利な状況に追い込まれていきます。
せっかく掴み取ったと思えた栄光も束の間、彼をもてはやした人々もすぐに彼を批難する立場に回ります。

主演のキューバ・グッディングJrは前述したように、僕にはミスキャストに思えましたが、
彼は96年の『ザ・エージェント』でオスカーを獲得して、ハリウッドでも注目される立場にあっただけに、
本作のようなシリアスな映画にも出演しようと思ったのでしょうが、それならそれで、もっと構えて演じて欲しかった。
やっぱり彼を見ていると、なんか悪い意味で軽い。コメディ映画の方がずっと似合っているように観えてしまうのです。

キャラクターの問題もあるでしょうが、彼自身の工夫でなんとかなるところだと思います。
そのせいか結局、『ザ・エージェント』以上の仕事と出会うことができず、ブレイクできずにいます。
本作へは製作も兼任するほどの力の入れようですから、かなり彼なりに気合の入った仕事だったのでしょう。
それが、このような中途半端な結果に終わってしまったことは、とても勿体ないことだなぁと思えてなりません。

この主人公にしても、もっとしっかり描いて欲しかったなぁ・・・。
そもそも何故、突如として良心に基づいた行動をとる決心をしたのか。これだけでは分かりにくい。
弁護士稼業として経験を積んできたであろう主人公が、法曹界で評価される実績には当然、怪しい依頼人もいたはず。

過去のこともあって心変わりしたのだろうが、何か大きなキッカケとなるエピソードが欲しかったですね。
映画の冒頭でそれを淡々と語っているのですが、どうにも彼の突然の決心と行動には説得力がないし、
弁護を事実上の放棄したというだけで、法廷侮辱にあたると罵られ、法曹界を追われるというのも極端に見える。
お国柄の違いもあるのかもしれませんが、この辺はもう少ししっかりと描いて欲しかった。始めは肝心なのでね。

だから、この映画が肝心なところで説明不足な映画という印象を持ってしまったのですよね。
良い“土台”を持った映画なはずと思える部分はあるだけに、この難点が生み出した中途半端さが実に勿体ない。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点

日本公開時[R−15]

監督 ローディ・ヘリントン
製作 キューバ・グッディングJr
   アショク・アムリトラジ
   エリー・サラハ
脚本 ローディ・ヘリントン
撮影 ロバート・ブライムス
出演 キューバ・グッディングJr
   トム・ベレンジャー
   マリアンヌ・ジャン=パプティスト
   マーク・ペルグリノ
   エリック・ストルツ
   アシュレイ・ローレンス
   カーメン・アルジェンツィアノ
   レネ・エステベス