プリティ・リーグ(1992年アメリカ)

A League Their Own

第二次世界大戦下、ディマジオら有名メジャー・リーガーが戦地へ出征してしまい、
メジャーリーグの運営が危ぶまれていた時代に誕生した、女子プロ野球リーグを描いた野球映画。

監督は88年に『ビッグ』で高く評価された女優監督ペニー・マーシャルで、
『プリティ・ウーマン』などで知られる監督のゲイリー・マーシャルの妹ということで、実は本作にシカゴ・カブスの
球団オーナーであり、チョコレート会社の社長でもあるウォルター役として、ゲイリー・マーシャルが出演している。

実在したアメリカの女子プロ野球リーグは、1943年に立ち上がり、当初はソフトボールの選手から選抜されました。
戦時中にメジャーリーガーが出征したがために、メジャーリーグの運営が難しくなり、それでも大衆の娯楽として
プロ野球を継続させるために誕生したわけですが、当初は人気チームと不人気チームがハッキリと分かれてしまって、
チームによる観客動員数に大きな差があったりして、チームが入れ替わり、リーグの経営は困難な状況が続きました。

誕生から11年が経った1954年にアメリカの女子プロ野球リーグは解散したものの、
日本では2009年に関西で女子プロ野球が復活したり、女子硬式野球部が増えるなど、盛んになってきています。

関西の女性プロ野球リーグは残念ながら破綻してしまい、事実上の解散状態になってしまいましたが、
野球が男の専売特許のようなスポーツではなくなりました。是非、女子プロ野球はまた復活させて欲しいですね。

本作は野球の殿堂入りした女子プロ野球という、輝かしくも短かった時期を懐かしむように描きます。
キャストも実に豪華なもので、何故か本作に女優業に積極的だったマドンナが出演したりと、話題性もありました。
主人公のドティを演じたジーナ・デービスもなかなか良い仕事ぶりで、妹のキットとの掛け合いも微笑ましい。
飲んだくれのチームの監督を演じたトム・ハンクスは、現代の感覚では賛否ある悪態をついていたけれども、
本作ではあくまで助演に徹する感じで、実に良い塩梅だ。これだけのキャストを機能的に使うのも、難しかっただろう。

実際の女子プロ野球リーグもそうだったらしいのですが、本作でもスカウトされチームと契約した、
女子プレーヤーたちはイメージを大事にするために、グラウンド外でもコミッショナーから厳しい規制を強いられました。

人前で着替えをするなとか、外泊禁止とか、飲酒や喫煙を禁止するとか、まぁ・・・色々とあったようです。
この映画でも描かれていますが、野球をスカート履いてプレーしなさい、というのはチョット驚きですよね。
サッカーやバスケほどではないにしろ、それなりにボディ・コンタクトがある競技だし、土の上でスライディングする。
スカート姿の生足でスライディングすれば、一発で傷だらけになるわけで、僕の感覚的にはありえない(苦笑)。

余談ですが、スライディングはそれなりに練習しないと怪我する原因となるわけで、
僕も野球部だったときに、最初は初心者だったので砂場に行って何度も反復練習させられたものです。

特に戦時中のプロ野球ともなれば、グラウンド・コンディションも良くない球場はあったでしょうし、
仮にスカート姿でスライディングすれば、一発で傷だらけになるでしょう。そんなことを考えていない、体制ですよね。
なのでプレーのクオリティよりも、女性がプレーするというイメージやルッキズムを優先していたのでしょうね。

時代としても、人種差別は勿論のこと、「女性は家庭を守るもの」という古くからの観念が蔓延っており、
女性差別は根強く残っており、現代以上に男性優位社会であったことは言うまでもありません。それが男性の代わりに
頑張れというのも、ある種の男性優位社会の自分勝手さに翻弄されたとも言えますが、「野球は男のスポーツ」という
固定観念を覆し、女性が社会進出することを促したという見方もできます。真の意味で、女性の社会進出が喚起される
ようになるのは、まだまだ先の話しではありますが、当時、彼女たちが頑張ったからこそ、野球の殿堂入りを果たす。

そういう意味では、少々、大袈裟な表現かもしれませんが、時代を変え、時代を動かした女性たちだろう。
ただ、思想・信条や社会的な問題提起として彼女たちが頑張ったわけではなく、単純に若い頃に野球に打ち込み、
その結果が野球の殿堂入り、という快挙だったというのがなんとも眩しく、青春を描いた作品とも言えると思います。

そういう意味で、僕は上質な映画だと思っているのですが、
強いて言えば、年老いたドティが家族から促されて、渋々向かった野球の殿堂入りの式典でのシーンは、
少し冗長になってしまった印象があって、もう少しアッサリと映画を終わらせた方が良かったかなぁと思う。

この式典のシーンをここまで長々と説明的に描かなくとも、ドティにとって野球に打ち込んだ日々は
かけがえのない日々であり、年老いても瑞々しい思い出のであることはよく分かるので、一人ひとりと言葉を交わし、
延々と想いにふける姿を描かなくとも、十分に訴求する映画になっていたと思うので、この終盤のクドさは少し残念。

野球映画としては、まずまず頑張っていると思う。もう少し俯瞰したショットがあると良かったとは思うけど、
フィールドの臨場感をフィルムに吹き込もうと作り手が考えていたのは伝わってくる。何も伝わってこない映画よりは
当たり前だけど、ずっと良い。但し、時折、シーンの切り替えでスライドトランジションみたいな処理をしているけど、
僕は映画に於いて、この編集は好きになれないなぁ。個人的な意見にしかすぎないけど、なんか安っぽく観えちゃう。

ペニー・マーシャルの力作だと思うんだけど、本作はこういうところがスゴく勿体ないと感じました。

ちなみにマドンナが出演してますが、80年代に映画女優としての仕事を何本かやった後も、
90年代も継続していましたが、本作出演の頃は噂レヴェルではありますが、大ヒット作『ボディガード』のヒロインなど、
大きな仕事を検討していた時期であり、本作もその中の一本だ。まさか戦時中の黒髪の女性のファッションで、
荒々しく野球をする役柄なんて、当時としてもファンはビックリしたのではないかと思われますが、なかなか似合ってる。

キチッと主題歌の This Used To Be My Playground(マイ・プレイグラウンド)を提供していて、
しっかりビルボード・チャートで1位シングルとしてヒット曲になりました。おそらく主題歌とセットの仕事だったのでしょう。

今でこそ女子野球が一般化されつつあるところですが、何故、普及が遅れたのかは気になるなぁ。
もともと、女子ソフトボールは盛んに行われていたと思うのですが、実際にプレーするとなったら別物だけど、
ルールや競技の性格は類似してますからね。性別によって出来る、出来ないの差はないような気がしますけど、
やっぱり古くからの固定観念というか、男の専売特許みたいな感覚がアメリカにもあったのではないかと思います。

もちろん、性別による力の差はあるので、そこを勘案して当初の女子プロ野球は塁間の距離などを考慮し、
男子野球よりも小さな規格でスタートしたらしいのですが、徐々に選手たちが力をつけてきて、その差が埋まるような
方向で規格の見直しが随時行われていたとのことで、徐々に男子野球と遜色ないスタイルに変更していたようだ。

ということは、あとは日本の女子プロ野球でも問題視されましたが、あとは興行性ということなのだと思う。
ここは歴史的な違いもあって、大きな差なのだろうと思います。女子野球も地道に普及していくしかないのでしょうね。
最近、日本でも元プロ野球選手が女子野球の監督やコーチになったりして、盛り上げようとする気運があります。
身近に女子野球を興行開催していることがないので残念ですが、身近なものになれば是非応援したいと思います。

やっぱり、プロスポーツってある程度の興行性がない継続できないですし、スポンサーがつかないと苦しい。
女子野球だけではなく、様々な競技がプロリーグを作ったものの、興行性が課題となって苦しい経営になっています。

ホントは戦争がキッカケでなければ良かったのだけれども、
男が出征したからと女性が駆り出され、女性蔑視の風潮と闘いながら必死に頑張る姿がなんとも眩しい。
「男はこうあるべき」、「女はこうあるべき」と言われ続けていた時代だったからこそ、否定的な見方も多かったでしょう。

ペニー・マーシャルが上手かったのは、さり気なく必死に生きる女性の姿を描きながらも、
あまり大きくジェンダーのテーマに傾倒させ過ぎず、単純に打ち込んだ人々のドラマにフォーカスしたところだろう。
やろうと思えば、社会性の高い作品にもできたと思うのですが、問題提起よりも物事に打ち込み素晴らしさを描く。
男の論理で用意された女子プロ野球というフォーマットではあったものの、実際に道を開いたのは彼女たちです。

ただね・・・僕はこのイージーにつけた邦題が納得いかない。確かに原題を訳すのが難しいにしろ、
これではまるで『プリティ・ウーマン』の二番煎じを狙ったような映画に思えてしまう。中身はそんな内容じゃないのに。
決して映画の価値が損なわれているわけではありませんが、この邦題はもっとよく考えて付けてあげて欲しかった。

なんか...消去法でつけられた邦題のようで、まったく賛同できないのです。

(上映時間126分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ペニー・マーシャル
製作 ロバート・グリーンハット
   エリオット・アボット
原作 キム・ウィルソン
   ケリー・キャンデール
脚本 ローウェル・ガンツ
   ババルー・マンデル
撮影 ミロスラフ・オンドリチェック
音楽 ハンス・ジマー
出演 ジーナ・デービス
   トム・ハンクス
   ロリー・ペティ
   マドンナ
   ジョン・ロビッツ
   デビッド・ストラザーン
   ロージー・オドネル
   ビル・プルマン
   アン・キューザック
   ティア・レオーニ