ワンダとダイヤと優しい奴ら(1988年アメリカ)

A Fish Called Wanda

これは僕の大好きな映画だ。

かつてイギリスの国営放送BBCで放送されていた、
人気番組『空飛ぶモンティ・パイソン』のスケッチ・グループであったモンティ・パイソン≠フ
メンバーの一人であったジョン・クリーズが構想し、脚本と主演を兼務したクライム・コメディ。

モンティ・パイソン≠轤オいシニカルな笑いで覆いつくされた作品ですが、
この映画は何と言っても、熱帯魚を食べてオスカーを獲得したケビン・クラインの怪演でしょう。

私生活では実直で物静かなケビン・クラインですが、
本作のようなコメディ映画には何故か数本出演していて、本人もまんざら嫌いではないようですが、
本作で彼自身が演じたオットーはそこか惹かれるキャラクターだったらしく、オファーを受けた後、
ジョン・クリーズと一緒に何故かジャマイカを旅行したようで、そこで作り上げたキャラクターらしい。

今になって思えば、これだけ動物虐待をギャグにしたりしているので、
そうとうクセが強いし、モンティ・パイソン≠知らない人には冗談がキツ過ぎて、
チョット笑えないだろう。コンライアンスがうるさくなった今、もう受け入れられる時代は来ないでしょう。

それを勢いで一気に映画の最初から最後まで駆け抜けてしまうパワーがスゴい。
おそらく本作はオットー役にケビン・クラインがキャスティングされていなければ、
映画はここまで面白く魅力的なものにはなっていなかったでしょうね。それくらい強烈なキャラクターだ。

50年代、イーリング・コメディとされるジャンルで活躍していた
チャールズ・クライトンがメガホンを取っているのですが、撮影当時、既に健康状態が悪く、
実質的にはジョン・クリーズが撮影現場を仕切っていたようですが、それだけジョン・クリーズとしては
チャールズ・クライトンと一緒に仕事がしたくって、半ば無理にこの企画に誘い出したようです。

映画はプロダクションも企画にGOサインを出したものの、
そもそもそこまでヒットするとは思っていなかったようで、最終的には2億ドルの興行収入となりました。

その結果、多少、蛇足的な続編ではありましたが、
97年に動物園を舞台にしたブラック・コメディの『危険な動物たち』で主要キャストが再結集しました。
おそらく本作での仕事が、ナンダカンダ言って、彼らにとっては楽しいものであったのでしょう。

映画は冒頭からとにかく快調でテンポが良い。
あまりキャストがアクティヴに動き回る映画というわけではないのが玉に瑕(きず)ですが、
それでもケビン・クライン演じるオットーが強烈な個性で、映画をとにかく力強く引っ張っていきます。

過剰なまでの胸毛もモロ出しで大活躍で、訳の分からないイタリア語の単語を
意味不明に並べて、それに何故かヒロインのワンダが欲情するという、なんだか妙な展開。

やたらと自分の右脇の匂いを嗅ぎ、ワンダの履いていたブーツの中の空気を
もの凄い肺活量で吸いまくる。ステレオタイプなイタリア男で、フェロモン全開という雰囲気を出すのですが、
このオットーも結局はドジでテキトーな知識をひけらかしているだけで、実はワンダは全てお見通し。
映画の前半はこの2人の凸凹ぶりで、イギリスを舞台にした映画で、ロンドンの空気を“荒らしている”感で満載。

映画はロンドン市街地の銀行からダイヤを盗み出すことに成功した4人組が
ダイヤを独り占めしようとする奴らばかりで、実はお互いのことを全く信用せず、リーダー格の男は内緒でダイヤを隠す。

リーダー格の男を密告して身柄が拘束されたことで、ダイヤの所在が不明になったことから、
なんとかしてダイヤの所在を聞き出そうと、ワンダとオットーが弁護士のアーチーに接近します。
そこから何故か冴えない中年弁護士アーチーとのロマンスが描かれるのですが、これもどこか変(笑)。

合鍵を借りていたとは言え、他人の家で素っ裸になりながら謎のロシア語を喋りながら、
踊っている姿を、たまたま家を訪れた一家と鉢合わせするというシーンは、たぶんこの映画のハイライトだろう。

欲を言えば、ヒースロー空港でのクライマックスの攻防が、スケールが小さく見えたので、
個人的にはもう少しスケール感のある見せ場を作って欲しかった。ケンがオットーに復讐心を燃やすという
設定はなかなか面白く、オットーのコミカルな結末がブラックで面白かっただけに、クライマックスの攻防自体が
どうにもスケールが小さく見えてしまい、もっと盛り上げられたのに・・・と思える点は、実に勿体ない。

まぁ・・・それまでの構成がとても良かったので、映画の価値を損なうほどの難点ではないですが。。。

ワンダとアーチーのロマンスに、オットーが焼き餅をやくということがストーリーの軸になっていきます。
その過程で、密かにワンダに恋心を抱くケンに、オットーがやたらと絡んでいくというのも面白い。
「実はオレはゲイなんだ」と口八丁手八丁でケンの邪心を食い止めようとしますが、最終的には結局ダイヤの奪い合い。

実はケンがその秘密を握っていると確信したオットーは、ケンを“縛り上げます”。
一連のコミカルなつながりが、ブラック・ユーモアを交えて描かれており、すこぶる快調な映画だ。
コンプライアンスもあって、近年ではこのような映画はなかなか撮れないでしょうから、賛否は分かれるでしょう。
しかし、個人的にはイギリス人のブラック・ユーモアって、どこか合う部分があって、本作も大切にしたい一作です。

このアクの強いオットーを演じたケビン・クラインの芝居を引き出したのは、
ジョン・クリーズが彼をキャスティングした功績でしょうけど、映画全体のテンポの良さというのは、
チャールズ・クライトンの影響が大きかったのでしょうね。モンティ・パイソン≠フスケッチを観ると、
こういうテンポの良さは無いですからね。古き良きイギリス映画の良さと、上手い具合に融合できたのでしょう。

ケビン・クラインがチーズの名称を片っ端から列挙していったり、
強盗を装っていたアーチーが気絶していて、妻に見つからないようにペンダントを奪い取るために、
床に落ちたペンダントをまるでパスタを食べるように、口の中に入れるシーンとか、一つ一つ行動がどこか面白い。

底知れぬパワーを秘めたコメディ映画であり、何もかもがタイミングの良い企画だったのかもしれませんね。

前述した姉妹作『危険な動物たち』は、本作とは全く別物と考えていた方がいいです。
ストーリー上のつながりもありませんし、映画のパワーも本作の方がずっと上です。
『危険な動物たち』は監督交代劇があったりして、いわゆる“アラン・スミシー監督作品”となりかけていたところを
フレッド・スケピシが参加して、なんとかギリギリのところで救われた作品でしたので、本作と条件が違い過ぎます。

でも、これはジョン・クリーズがヤル気になったからこそ、成功した企画だったのだろう。
生粋のイギリス人であるジョン・クリーズが描くからこそ説得力があるわけで、これをアメリカ人が描いていたら、
どういう反応であったのかと考えると、逆に厳しい評価になっていたのではないかと思う。
それはそれでオットーがやたらと“イギリスかぶれ”に敵対心を持っていることに、強い皮肉もありますし。

ド派手に笑えるタイプの映画というわけではありませんが、ニヤリとブラック・ユーモアを楽しめる極上の逸品!

(上映時間107分)

私の採点★★★★★★★★★★〜10点

監督 チャールズ・クライトン
製作 マイケル・シャンバーグ
脚本 ジョン・クリーズ
   チャールズ・クライトン
撮影 アラン・ヒューム
音楽 ジョン・デュプレ
出演 ジョン・クリーズ
   ジェイミー・リー・カーチス
   ケビン・クライン
   マイケル・ペリン
   トム・ジョージソン
   パトリシア・ヘイズ
   ジェフリー・パーマー

1988年度アカデミー助演男優賞(ケビン・クライン) 受賞
1988年度アカデミー監督賞(チャールズ・クライトン) ノミネート
1988年度アカデミーオリジナル脚本賞(ジョン・クリーズ、チャールズ・クライトン) ノミネート
1988年度イギリス・アカデミー賞主演男優賞(ジョン・クリーズ) 受賞
1988年度イギリス・アカデミー賞助演男優賞(マイケル・ペリン) 受賞