探偵はBARにいる(2011年日本)

なんか、二時間のTVドラマでも十分な内容のようにも思うが・・・

メガホンを取った橋本 一がTVシリーズ『相棒』の演出を手掛けていたということで、
それなりにノウハウを持っていることを感じさせる作品になっていて、まずまず面白いと言ってもいいかな。

さすがに僕が親しみ慣れた札幌の市街地で、ほぼ全編ロケ撮影しているだけあって、
僕も過去にここまでスクリーン世界で、見慣れた街並みが舞台の映画を観たことがなかったので、
逆に新鮮な想いに浸りましたが、さすがは日本を代表する歓楽街「すすきの」だけあって、どことなく陰気クサい。
(しかし、夜の新宿などと比べても、今の「すすきの」は遥かに安全な地域と僕は思っているのですがねぇ・・・)

大泉 洋がいつもの調子で探偵を演じているので賛否両論かもしれないが、
僕はこの点はOKなんですが、映画に今一つ緊張感が吹き込まれていないのが残念。
アクション・シーンにしても全体的に軽過ぎて、映画が何を目指したのか、よく分からない感じになっている。
この辺は橋本 一というディレクターに、『相棒』を演出していたときの感覚が抜け切っていない気がする。

別にTVドラマだったら、僕はこれでもいいと思うんです。
しかし、映画というメディアで使う意味を、もっとしっかりと持っていて欲しい。
「TVと映画、どう違うんだ?」とツッコミの一つでも入れられそうですが、僕は映画産業が勃興した理由を
もう一度、整理して考え直すと、大衆に「画を映す」ことによって感動を与えることにあったと思うのです。
そして、当時の観客は映画館に集まって、多くの人々と五感を使って鑑賞して、様々な感情を共有したはずです。

対して、テレビは言わば、コンビニエンス・サービスの一環です。
家庭で映画館へ出かけずして鑑賞できるようになり、視聴料も発生せずに毎日、流れるものだから
僕も含めて生活の一部になっているはずで、大衆が端的に観たいものを供給するのが本来的な役割です。

そうであるがゆえ、僕は映画とはあらゆる感覚に訴えかけて、
観客の心を動かす存在であって欲しいし、もっと考え抜かれた存在であって欲しい。

そういう意味で、本作はどうしてもTVドラマでも十分な内容ではないか?との疑問が拭えないのです。

とは言え、それでもエンターテイメントとしては立派に成立し、
ミステリーとしては片手落ちでも、映画のテンポを重要視しているのは良いと思う。
2時間を僅かに超える上映時間であるにも関わらず、ほとんど中ダルみせずに描き切ったのは素晴らしい。

そう考えると、これでこの映画に緊張感が吹き込めていれば、かなり高い評価を得られたと思う。
コミカルさを残したいという作り手の気持ちは理解するが、これではさすがに映画が軽過ぎる。
特に中盤はサスペンスを盛り上げようと、主人公らに危機が次から次へと迫るにも関わらず、
シーン演出に緊張感が感じられないためか、どうも思わず手に汗握らされるような緊張感が感じられない。

映画の緊張感は、観客にとってはストレスになりますが、
僕は本作のような映画には、特に緊張感が必要であるはずと思ってるんですよね。

冒頭のアクション・シーンは、まだコミカルでもいいとは思うんだけれども、
特にメイン・ストーリーに絡むアクションやサスペンスを盛り上げるには緊張感が必要不可欠で、
雪原の道場に乗り込んで大勢の連中と格闘になるシーンにしても、高嶋 政伸演じるカトウの描写にしても、
もっと観客の恐怖心を煽るかのような、ストレスを感じさせるような存在として描かなければダメだと思うんです。

そういう意味では、どうも観ていて気になったのですが、
かなり急いで撮影したのではないかと思えるんですよね。なにせ、北洋大通センター(大通ビッセ)が
雪の残る街並みで映っていましたから、撮影期間が2011年2月だったというのは間違いではないだろうし、
本作は2011年9月に劇場公開になっていますから、撮影期間が1ヶ月間ほどしかなかったことに加え、
撮影完了から劇場公開まで7ヵ月間しかないため、実質的に編集に費やせる時間もかなり短かったと思います。

正直言って、そうやって急場の対処でしのいだという感じが、
映画の本編を観ていても伝わってくるようで、どこか性急なシーン処理に終始してしまっている気がする。

東 直己の原作を映画化しようと最初に声があがったのは、
もう10年以上前の話しで、構想・企画に随分と時間を費やしたにも関わらず、
この半ば無理なスケジュールで劇場公開に至ってしまったのは、なんだか残念ですね。
(実際、無理なスケジュールだったかは現場にしか分からないが、一般的に考えれば、かなりキツいはず・・・)

本来的には原作にはあったはずであろう、探偵映画の醍醐味とも言える、
ハードボイルド性も磨かれず、映画が全体的に悪い意味で軽過ぎる印象を受けてしまうんですよね。
それでも楽しめるからいいんですが、探偵映画を楽しみにしている人には、肩透かしかもしれません。

だからこそ、僕はこの映画の作り手自身に
TVドラマでの感覚が抜け切れていないのではないか?という疑問を拭えずにはいられないのです。
こう言うと辛らつですが、そんな程度の準備では良い映画ができるはずがないのです。

とは言え、良い点を挙げていっても、平均点は超える映画だとは思う。
すすきののニュークラブのママを演じた、小雪がクラブで接客する最初のシーンは見事だったし、
大泉 洋や松田 龍平に冬の札幌の市街地を徹底的に走らせたのは、良かったと思う。
そう、良い映画とはこういうメリハリがハッキリしていて、役者をよく動かすんです。
登場人物が走るシーンの撮り方としても、決して間違ったアプローチではなかったと思いますしね。

西田 敏行演じる霧島がすすきので経営するクラブのパーティーを催し、
帰宅するときの車を取りに行く途中で殺害される場所が、何故か札幌駅前の路地と位置関係もメチャクチャだが、
今は無き、札幌駅前の旧SEIBUデパートの路地という懐かしい光景が映ったので、良しとしましょう(笑)。

やっぱり住み慣れた街が、こういう形でフィルムに収まることは素直に嬉しい。
橋本 一という映像作家が、札幌という街の表情を尊重して映画を撮ったことに、感謝したい。

(上映時間125分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

日本公開時[PG−12]

監督 橋本 一
製作 須藤 泰司
    上田 めぐみ
    今川 朋美
原作 東 直己
脚本 古沢 良太
    須藤 泰司
撮影 田中 一成
美術 福澤 勝広
編集 只野 信也
照明 吉角 荘介
音楽 津島 玄一
出演 大泉 洋
    松田 龍平
    小雪
    西田 敏行
    田口 トモロヲ
    波岡 一喜
    竹下 景子
    石橋 蓮司
    松重 豊
    高嶋 政伸
    マギー
    吉高 由里子
    カルメン・マキ