54/フィフティー★フォー(1998年アメリカ)

54

まず、この映画...ニューヨークにあった伝説的なディスコ、
“スタジオ54”のオーナーであったスティーブ・ルベルを演じたマイク・マイヤーズが凄い。

彼は『オースティン・パワーズ』などで知られる喜劇役者なのですが、
今回演じた役柄は時にシリアスな側面を求められ、それに見事に応えましたね。
少なくとも観る前の僕の想像を遥かに上回る上手さで、本作にとっても大きな収穫だったはずです。

あまり評価されなかったみたいですが、僕はそこまで悪い出来の映画だとは思わなかった。
確かにホントにディスコやクラブに行ったかの如く、劇中、常に騒がしく音楽が流れており、
文字通り体感映画と化してはいるのですが、ただの体感映画で終わらずに、キチッとしたアプローチがあり、
それなりに教訓を得る姿を説得力を持って描くことに成功したと言っていいのではないかと思います。

70年代後半、時代はジョン・トラボルタ主演の『サタデー・ナイト・フィーバー』の世界的なヒットにより、
ミュージック・シーンもディスコ・ミュージックがメインストリームとなり、夜ごと若者たちは踊りまくったと聞きます。

当然、そうなるとディスコは男女の出会いの場となり、
同時にスターダムを駆け上がる者たちは利用しようと考えるし、スターたちの遊び場にもなります。
中でもスティーブ・ルベルが経営する“スタジオ54”はハイクラスな客層ばかりを相手にし、
入場規制をかけ、店側から客を選ぶというスタイルで、人々はこぞって“スタジオ54”に入りたがりました。

歌手、映画俳優、テレビ俳優、プロデューサー、作家など多くのセレブリティが出入りし、
ドラッグも横行し、毎夜の如く、半ば無法地帯と化す、常識では考えられない宴が繰り広げられていました。
但し、時代は変わり、80年代に差し掛かろうとしていた頃、“スタジオ54”は大きな転機を迎えます。

監督のマーク・クリストファーは本作が監督デビュー作。
やはり経験に乏しいせいか、再現映画の域を脱し切れていないあたりが苦しく、
残念ながら全てをナレーションでクリアしてしまおうとする作為的な魂胆が、僕は好きになれない。
本来、ナレーションは映像を観て分からない部分を補完するために使えばいいだけの話しで、
言わば省略技法のために使うのが基本なのですが、本作の場合は何もかもがナレーションで補われます。
さすがにここまで使い回すのは僕は賛同できなくって、もっと映像で表現して欲しいと思う。

少なくとも家族のエピソードは重要であったはずで、
如何にして父親と和解したのか、簡単でいいから描くべきだったと思うし、
それ以外にもナレーションで済ましてしまおうとすることが、全て成功だったとは言い難い。
その上、ドサクサに紛れて映像でも表現している部分で、ナレーションでも重複して語っていたり、
とにかく演出手技上、これは再考した方が賢明であると言わざるをえない部分が散見されます。

ただですね・・・それでも映画は救われていると思うんですよ。
それは作り手たちの思いの強さかな、圧倒的なディスコのノリの強さが映画にも乗り移ったかのようで、
さすがに観ていて、挑発的に煽られるかのような感覚に陥る部分があって、これは本作の強みだと思う。

映画の尺の長さも丁度良いし、バランスもそこそこ上手くとれていると思う。
そういう意味では、ひじょうに惜しい映画という気もするし、決して出来が悪いとも言い切れないんですよね。

まぁさすがに“スタジオ54”みたいなのまでは存在しなくとも、
おそらく本作の持つ空気って、ディスコ世代の方には懐かしいものなのかもしれませんね。
特に「あの店に入りたい!」と願う人々が、店の入り口の前で「入れてくれェ〜!」と叫ぶシーンが面白い。
今なら、あんな殿様商売みたいなスタイルは大衆からそっぽを向かれてしまうぐらい、不況ですからねぇ。

しっかし、この頃のネーブ・キャンベルはもっと凄い女優さんになるだろうと期待してたんだけどなぁ・・・。
本作での彼女はニュージャージー出身の昼ドラ女優のジュリー・ブラックを演じているのですが、
アニタを演じたサルマ・ハエックを除けば、本作に出演していた女優陣の中では一番の有望株だったのですが、
00年代に突入すると、たいへん申し訳ない言い方ですが、キャリアが完全に伸び悩んでしまいましたね。

そうそう、この映画は主演のライアン・フィリップも頑張ってはいますが、
一番良かったのは、アニタを演じたサルマ・ハエックじゃないかな。存在感も強く、芝居も的確でした。
彼女は『フリーダ』での芝居が一番評価されていますが、本作の時点でもそんなに悪くないです。

このアニタに関して言えば、主人公のシェーンとの関係が惜しい。
個人的には2人に恋の予感を感じさせ、一時の過ちがあったにも関わらず、
まるで何事も無かったかのように、映画の最後では自然消滅的に流されてしまったのが残念。
そりゃ現実的に考えると、あれはあれでリアルな関係のような気もしますが(笑)、
どうせ映画なのですから、もっと白黒ハッキリとさせて欲しかったし、あれでは中途半端だと思う。

どことなくエキゾチックな雰囲気があって、
シェーンが今まで出会ったことがなかったタイプの女性だっただけに、惹かれるものがあったのだろうから、
2人の関係は白黒ハッキリさせ、どのように結論付けたのか、明確に描くべきだったと思いますね。

今となってはディスコ業界って、斜陽なイメージがありますけど...
これだけの一時代を短期的であっても築き上げたわけですから、やっぱり凄かったんですよね。
だって、今のクラブだってディスコ・ブームが無ければ存在していなかったのかもしれないし。。。

(上映時間100分)

私の採点★★★★★★★☆☆☆〜7点

監督 マーク・クリストファー
製作 アイラ・デューチマン
    リチャード・N・グラッドスタイン
脚本 マーク・クリストファー
撮影 アレクサンダー・グラジンスキー
衣装 エレン・ラッター
編集 リー・パーシー
音楽 マルコ・ベルトラミ
出演 ライアン・フィリップ
    サルマ・ハエック
    マイク・マイヤーズ
    ネーブ・キャンベル
    セーラ・ウォード
    シェリー・ストリングフィールド
    ブレッキン・メイアー
    エレン・アルベルティーニ・ダウ
    マーク・ラファロ

1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト主演男優賞(ライアン・フィリップ) ノミネート
1999年度ゴールデン・ラズベリー賞ワースト助演女優賞(エレン・アルベルティーニ・ダウ) ノミネート