3時10分、決断のとき(2007年アメリカ)

3:10 To Yuma

これは久しぶりに楽しめた西部劇でした。

物語としては極めて単純で、数多くの人々を殺害した強盗団のリーダーであるベンが逮捕され、
見せしめのためにユマ刑務所に投獄して、絞首刑とするために鉄道会社の連中がなんとかしてベンを
ユマ行きの列車に乗せるために、高額な報酬を出して護送する男たちを募り、幾多の困難を乗り越えて、
なんとかしてベンを護送するものの、列車に乗せる駅のある町でベンの仲間が奪還しに来て、決闘となるのを描きます。

原作はエルモア・レナードが1953年に書いたシナリオで、57年に第1回の映画化が実現してますので、
本作は2回目の映画化というわけなのですが、奇をてらうことなく、実に堂々とした正統派西部劇で感心した。

監督は『17歳のカルテ』などで有名になったジェームズ・マンゴールドで、
このディレクターはホントに器用な人ですね。05年の『ウォーク・ザ・ライン/君に続く道』でジョニー・キャッシュを
主人公にした音楽をメインにした伝記映画で高く評価された次は、正統派な西部劇で多才な腕の持ち主ですね。

映画のストーリーは驚く中身ではないけれども、西部劇としては実に充実していて、
映画の雰囲気も良い。要所では、緊張感あるガン・アクションもあって、映画は中ダルみしていない。
実に良い意味で引き締まった映画で、この世界観に不思議とマッチするラッセル・クロウというのも意外な取り合わせ。

思えばラッセル・クロウは95年の『クイック&デッド』にも出演していたので
こういう西部劇にも合う役者さんなんですね。マッチョなアクションという感じではないけど、馬上のシルエットも似合う。

ただ、エルモア・レナードの世界という感じではなく、正統派西部劇の潮流を
現代的な映像感覚を挿し込んで描くというコンセプトであることに加えて、ストーリー展開が若干重たい印象だ。
特に映画の前半は時間の経過を少々長く感じた部分はあった。もっと削ぎ落せるエピソードはあったと思うし、
映画全体をスリムにあと20分くらいは縮めて構成することはできたであろう。それでも中ダルみしないのはスゴいが、
もっと無駄を削ぎ落した映画に仕上がっていれば、この作品自体がもっと高く評価されていたような気がします。

それから、映画のクライマックスに至るまでの説得力は少し弱い。
削ぎ落せる無駄はあったと前述したものの、逆にベンとクリスチャン・ベール演じる一家の大黒柱ダンとの
心の交流を描き、心通わすところがあったからこそ、ラストのあり方につながるということを強く描いて欲しかった。

僕はこの映画、結構楽しめたのだけれども、それでもこれらの部分は物足りなさを感じたのは事実だ。

ベンはベンで、あくまで性根の腐った強盗団のリーダーという反社会的集団を象徴したような存在にしかすぎず、
別に多くの若者たちのカリスマになりかったわけではないだろう。金儲けの方法として強盗を選んでいたわけで、
映画のクライマックスで思わず「よせ、チャーリー!」とベンが叫んでしまう言葉の裏には、いろいろな想いがあるだろう。

チャーリーの行動と言動は、あまりに偏狭的でいて、ベンを過剰なまでに神格化している。
これはこれで、ベンにとっては違和感があっただろうし、ベンの感情は人間的なベクトルに傾いていたわけだ。

だからこそ、ベンとダンの精神が通じ合うところは、もっと繊細に表現して欲しかったんだよなぁ。
せっかくダン役として演技派俳優のクリスチャン・ベールがキャスティングされているだけに、“土台”はあったはずだ。
この辺はジェームズ・マンゴールドなら演出できたはずで、出来ていれば映画のクライマックスはもっとキマったはず。

ベンがダンに興味を持ったのは、ダンに家族がいたというところであることが匂わされており、
特にダンの妻、そしてダンに憧れを持つ息子がいることに、ベンなりのリスペクトの気持ちもあるのかもしれません。

この映画で少しユニークだなぁと思ったのは、映画の終盤でベンがダンにさり気なく告白するシーンで、
鉄道会社がベンを送ろうとしているユマ刑務所に、実は2回、収監された過去があって2回とも脱獄していると言う。
これが事実か否かは映画を観ただけでは判断できませんが、ベンとダンの駆け引きを強く感じさせるシーンで、
投獄されても脱獄してやるという予告とも聞こえるし、だからこそベンはラストに“決断”ができたのかもしれない。

言いたくはないですが(笑)、映画のクライマックスの決戦の町コンテンションの攻防では、
飛び交う銃弾の嵐の中、ベンは逃げ出そうと思えば、いつでも逃げられそうな状況だったわけで、
そこを真面目にダンと行動できちゃうあたりは、ベンとダンの間に情が芽生えていたからとしてしか説明つかない。

やっぱり、どんな悪党でも自分に持っていないものを善人が持っている場合、
それに憧れ、欲しがることがあるということなのでしょうか。そう単純なことではないのでしょうし、
どこまでいっても、いつ裏切られるか分からない危うさはありますが、それでも単なる敵と味方ではないということです。

こうして多様な見方ができる映画にはなっているだけに、個人的には劇場公開当時の評判が良かったのは
なんとなくですが分かる気がします。今どき、ストレートな西部劇が評価されることが少ないだけに嬉しいですね。

まぁ、第1回の映画化作品のファンにとっては変わり映えのない出来に不満はあるようですが、
本作なりにエンターテイメント性を追求したところもあって、リメークとしての工夫はある作品だと思います。
エルモア・レナードの世界観を表現するという意味では全く肉薄していないが、エンターテイメント性はそこそこ高い。
(ちなみに第1回映画化作品である57年の『決断の3時10分』も未だに高い評価を得ている西部劇だ)

おそらくエルモア・レナードのファンであれば、もっとベンをミステリアスなキャラクターとして描いて欲しいと
願ったのではないかと思う。それもそのはず。このベンという悪党は、一筋縄では説明つかないキャラクターだ。
逆にそれがベンの不思議な魅力であるはずであり、原作や第1回映画化作品ではこれを上手く利用しているようだ。

僕は70年代の映画が好きだから、どうしてもこういう見方になってしまうのですが、
本作は70年代にサム・ペキンパーがウォーレン・オーツを引っ張り出して、本作を撮っていれば、
きっと傑作になっていたのではないかと思えてならないのですよね。内容的にはもっと友情に傾いたでしょうけどね。

まぁ・・・本作はエンターテイメント性を追求したがゆえに、全体的な緊張感という点で物足りないかも。

ダンにとっては、報酬を得るために仕事を遂行する意味では、ベンは常に脅威な存在であったはずで、
時に賞金稼ぎのマッケルロイに反撃したベンが、マッケルロイをボコボコにしてしまうくらいの粗暴な側面があり、
幾多の殺人を犯しているという凶悪犯であることから、正義に生きるダンにとっては到底理解できない存在だったはず。
だからこそ、ダンとベンの関係には、常に全幅の信頼を置くことはできないとする、微妙な距離感は必要だったはずだ。
それと、決して油断はできないという緊張感。これが本作は、画面いっぱいに表現できたという感じではない。
オールドな西部劇ファンからすれば、この辺の悪く言えば緩慢さが、どうしても受け入れ難い部分はあるのかもしれない。

でも、これがイーストウッドのような西部劇のベテランがメガホンを取っていれば、
この映画の出来は少々寂しいというか、物足りなさがあるだろうが、ジェームズ・マンゴールドの初挑戦として考えれば、
十分過ぎるほど、よく健闘したのではないかと思う。少なくとも平均点水準以上のものは見せてもらいました。

課題はあるとは思いますが、ハリウッドでもめっきり少なくなった西部劇を復権させるためにも、
現代ではこういうスタンスで西部劇を撮るということを示した作品として、一つの指標となって欲しいですね。

やっぱり西部劇には、その世界に似合う雰囲気を持った役者さんっていると思います。
古くはジョン・ウェインとかイーストウッドになってくるでしょうが、僕は前述したウォーレン・オーツのような
お世辞にもカッコ良いとか、(現代風に言う)イケメンではない、清潔感の無いオッサンがよく似合っていて好きだ。

そういう意味では本作のラッセル・クロウ、西部劇の悪党を演じるにしては少々カッコ良過ぎたかも。。。

(上映時間122分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

監督 ジェームズ・マンゴールド
製作 キャシー・コンラッド
原作 エルモア・レナード
脚本 ハルステッド・ウェルズ
   マイケル・ブラント
   デレク・ハース
撮影 フェドン・パパマイケル
美術 マイケル・マカスカー
音楽 マルコ・ベルトラミ
出演 ラッセル・クロウ
   クリスチャン・ベール
   ローガン・ラーマン
   ベン・フォスター
   ピーター・フォンダ
   グレッチェン・モル
   ヴィネッサ・ショウ
   アラン・テュディック
   ダラス・ロバーツ
   ルーク・ウィルソン

2007年度アカデミー作曲賞(マルコ・ベルトラミ) ノミネート
2007年度アカデミー音響調整賞 ノミネート