28日後...(2002年イギリス・アメリカ・オランダ合作)

28 Days Later...

こういう映画を観ると、いっつも『地球最後の男 オメガマン』を思い出すんですよねぇ〜(苦笑)。

96年、『トレインスポッティング』を撮って、一躍、イギリス映画界のトップ・ブランドとなり、
ハリウッドへと渡ったダニー・ボイルが撮ったウィルス・パニックを描いたホラー映画。

この映画のキーとなるのは、「28日後」というわけで、
ケンブリッジの研究施設で正体不明の凶暴になるウィルスに冒されたチンパンジーを保護しようと、
施設に侵入した若者たちが、そのチンパンジーに襲われてウィルスに感染。
感染力が猛烈に強く、見境なく人々を襲い続けるゾンビのような症状に見舞われるウィルス・パニックは
瞬く間にイギリス国内で猛威を振るうようになる。そして、28日経ち、とある青年が目覚める・・・。

とまぁ、90年代後半から再び流行り出したウィルス・パニックを主題としたホラー映画なのですが、
通常のハリウッド映画にはない、独特なテイストが特徴的な一作と言ってもいいと思います。

まぁ正直言って、そこまで良い出来の映画だとは思っていないのですが、
その一方でダニー・ボイルの個性は作品の中にしっかりと反映されており、それだけでも価値はあると思う。
執拗なまでに主人公たちに迫り狂うゾンビたちの恐怖を描くだけでなく、映画の終盤に差し掛かると、
今度は人間たちの浅ましい欲望の争いという、また違った恐怖を描くあたりも悪くない発想だと思う。

こういうのは飛躍したストーリー展開と否定的に解釈する人もいるでしょうが、
僕はあくまで他作品との差別化を図ったチャレンジとして、ある一定の評価に値すると思います。

映画におけるサスペンスの配分という意味では、ほぼ間違いのない設計になっており、
前半は徹底したウィルス・パニックで押しまくり、後半は生き残った人間たちの混乱をスリルに変えています。
一旦、落ち着かせて、映画の空気を整えてから、再びサスペンスで押してくる組み立ても上手いですね。

ただ、チョット残念だったのは、映画として少しチャチなところが見え隠れするところですね(苦笑)。
まぁ低予算だったのでしょうか、どうしても映像的な華やかさに欠けることは否めないし、
ロンドンからマンチェスターへ向かった主人公たちを映したシーンに象徴されておりますが、
ウィルスに侵された廃墟の街並みの造詣には、色々な意味でチープさが出ていますね。
正直言って、これは本作に対して良くも悪くも機能してしまっていると思いますね。

あと、主人公の青年と一緒に逃げる黒人女性との微妙な関係も触れられているのですが、
この2人の心の揺れ動きが明瞭になっていないのは、とても本作にとって大きなハンデですね。
2人の束の間のロマンスは、もっと繊細に描きながら、ある程度の説得力を持って描くべきだったと思います。

確かにダニー・ボイルって、今までの監督作を観る限りでは、
あまり器用な映画監督というイメージはないのですが、この辺のプロセスは踏めると思うんですよね。
特に97年の『普通じゃない』なんかは凄く面白かったことを考えると、もっと出来る人だと思うのです。
まぁせっかくイギリスに戻って撮った作品だったのですが、この辺は残念としか言いようがありませんね。
(シナリオ上の問題もあり、改変し難かったかとは思うけど...)

ちなみに本作の続編『28週後...』が05年に製作されていますが、
ダニー・ボイルが直接、メガホンを取らず、評判も芳しくないまま劇場公開が終了してしまいました。
まぁこういう作品を本格的にシリーズ化させるというのは、難しいものだと思いますね。

敢えて断言しておきますと、本作は驚愕の傑作というほどの出来ではありません。
しかしながら、ダニー・ボイルの個性が活きた作品であり、サスペンスの配分も間違っていません。
良い意味でB級テイストな仕上がりになっており、ホラー映画ファンの心をくすぐる内容ですね。

『トレインスポッティング』なんかもそうでしたが、ダニー・ボイルって“走る”シーンの撮り方が上手いですね。
登場人物が走るシーンを映すことによって、映画自体にスピード感を付与することに成功していますね。
その最も顕著なシーンとなっているのが、映画の中盤にあるロンドン市街地から入るバイパスの途中、
トンネル内でパンクしてしまった車を修理しながらも、目の前までゾンビが迫ってくるシーンはスリリングでした。
こういう細かな点までもが、映画の中でしっかりと生きているというのが嬉しいですね。

ちなみに主人公を演じたキリアン・マ−フィもカリスマ性を感じさせる存在感で良かったと思いますね。
特に説明なく登場してくる主人公なんのですが、そのミステリアスさを利用した好演と言っていいと思いますね。
特にガソリンスタンドで単独行動し、廃屋でゾンビ化した少年に襲撃され、反撃して殺してしまうシーンで、
彼の何とも言えない複雑な感情が入り混じった表情が、今尚、忘れられないインパクトがありますね。

映画の中盤で、マンチェスターへ逃げるにあたって、
ロンドンの無人化したスーパーマーケットで次から次へと商品をカートに乗っけていくシーンがあるのですが、
これまで若者たちの反社会的な側面も描いてきたダニー・ボイルだからこそ出た発想かもしれませんね。
言わば万引きなのですが、そういった反社会的行動をも映画の息抜きに使ってしまう要領の良さですね。
最後に中年男性がレジにクレジットカードを置いていくのを映すあたりが、チョット皮肉が利いている。

映画の出来は及第点レヴェルだとは思いますが、
ダニー・ボイルにしか出来ないSF映画ということに評価点は置けると思います。
ただ、こういうのがシリーズ化してしまうと、たいてい良いコトはないのだけれども。。。

(上映時間112分)

私の採点★★★★★★★★☆☆〜8点

日本公開時[PG−12]

監督 ダニー・ボイル
製作 アンドリュー・マクドナルド
脚本 アレックス・ガーランド
撮影 アントニー・ドッド・マントル
編集 クリス・ギル
音楽 ジョン・マーフィ
出演 キリアン・マーフィ
    ナオミ・ハリス
    クリストファー・エクルストン
    ミーガン・バーンズ
    ブレンダン・グリーソン
    レオ・ビル
    リッチ・ハーネット

2003年度ヨーロッパ映画賞撮影賞(アントニー・ドッド・マントル) 受賞