21グラム(2003年アメリカ)
21 Grams
チョット申し訳ないけど、この映画、複雑過ぎるよ(笑)。
00年の『アモーレス・ペロス』が高く評価されたアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥが
初めてハリウッドに渡ってメガホンを取った、まるでパズルのようなストーリー構成のヒューマン・ドラマ。
が、フラッシュ・バックなどを多用し、シークエンスを故意的に複雑化させているのですが、
これが僕にはどうしても逆効果になっているとしか思えなかったですね。
さすがにここまで過剰にやってしまうと、映画が壊れてしまうだけのように思う。
現に大枠での本作の主張内容というのは分かるんだけれども、
敢えてこのストーリー構成を採用した意図というのが、未だによく分かりません。
いや、それが安直な言い方をすれば...カッコいいならOKなんです。
だけど、前述した過剰な時系列の破壊ってのは、かえって逆効果で観客の集中を離しがちですね。
せっかく味わいのあるカメラでドラマを撮っているのに、これではストーリーを追うのに一生懸命になってしまう。
『アモーレス・ペロス』は結構良く出来ていて、さすがにここまででは無かったですね。
なまじ、『アモーレス・ペロス』での成功がアレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥの方向性を狂わしたのかも。。。
まぁ確かに...00年代前半のハリウッドって、こういうのが流行りましたからねぇ〜。
何でも適材適所な使い方って、やっぱり存在していて、こういう風に何でもかんでも時系列をバラバラにして、
ストーリー構成を行うことが、必ずしも映画を成功に導くわけではないという好例になってしまっていますね。
重い心臓疾患に苦しみ、余命宣告を受けている大学教授。
2人の愛娘と優しい夫と共に、理想的な家庭を築いてきた女性。
16歳の頃から刑務所への往復を繰り返しながらも、2人の子供を愛する男。
本来なら、ひょっとしたら出会うはずのなかった3人なのかもしれませんが、
この3人が一つの事件をキッカケに出会い、やがてはトンデモない結末へと結び付いてしまいます。
まぁ前述したように時系列がバラバラになった映画ですので、
映画の結末も、ハッキリ言って、映画の序盤から示唆されているのですが、
そんな点でしかない結末を、過程を一つ一つパズルのように拾い集めて当てはめることによって、
徐々にその結末の全貌をも明らかにしていくという手法は確かに難しい手法だったと思う。
まぁ言ってしまえば、如何にも評論家ウケしそうな感じはするんですよね。。。
それが僕の中では、チョット逆効果になってしまった部分もあるみたいで、変な先入観ができてしまいましたね。
何もこんな小細工したような映画にしなくたって、十分に成立したと思うんですよ。
時系列をバラしたおかげでゴチャゴチャした内容になって、映画が持つはずだった訴求力は弱くなりましたね。
おかげでタイトルの「21グラム」という重さの意味合いも、最後まで重みを持たせられませんでしたね。
(少なくとも僕は、この映画が魂の喪失というテーマにまで肉薄し、言及できているとは思えない・・・)
アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥは、常に人生に於ける何らかの喪失を描いているそうで、
確かに『アモーレス・ペロス』は凄く出来ていて感心しましたが、本作でも家族を失うことの痛みやツラさ、
そして失うべくして失ってしまう、という結果がもたらす虚しさをもっと強調して描くべきだったと思いますね。
特に僕が大きく不満に感じたのは、大学教授ポールと彼の妻の不妊治療のエピソードで、
結局、何一つ解決しないまま映画は終幕してしまう。おそらく敢えて中途半端に終わらせたのだろうが、
ポールは新たな心臓を移植することによって妻との生活を見つめ直し、妻の不妊治療に疑問を感じます。
ところが出産、そして育児は妻の夢でもあり、ポール自身、妻の願いを止められないことは分かっていたはず。
そこで心臓提供者の妻クリスティーナと出会い、ポールの心は揺れ動くのですが、
ここにも様々な喪失があるわけで、当然、妻はポールを失い、ポールは妻を失います。
でも、それまで表面的だった可能性があるとは言え、幸せな家庭を築いてきたのに、
それを投げ出すわけで、ポールの気持ちは急激に冷め、単独行動に出るがゆえ、妻との距離は広がります。
これは失うべくして、失っているのです。この虚しさには、是非とも言及して欲しかったですね。
人生の谷間に落ち込んでしまい、なかなか立ち上がれない人々。
そんな彼らにとって、喪失とは何を意味し、どれぐらい彼らの人生に影響を与えているでしょうか?
勿論、これらは定量的には語れないし、分かり易くも描けないだろう。
しかし、やはりこの映画の場合は、人生の落ち込みを敢えて力強く描くべきだったと思いますね。
そうすれば映画のクライマックスに於ける問題提起性も高まっただろうし、印象も変わっていたでしょうね。
ちなみに本作のタイトル「21グラム」とは人が死ぬときに、21グラムの減量があり、
これが魂の重さであるとされている説なのですが、これは勿論、科学的に証明されたわけではありません。
20世紀初頭、実際にアメリカ人医師が測定したとされていますが、実験計画法に基づいたリサーチではなく、
当の本人も測定に失敗したケースも含まれていることを認めているとのことで、真理とは呼べません。
しかし、魂が仮に質量を持っているとしたら...それはもう大発見ですね(笑)。
何はともあれ、クリスティーナを演じたナオミ・ワッツはいろんな意味で大熱演だし、
ポールの妻を演じたシャルロット・ゲンズブールも好印象と、女優陣は頑張っている作品です。
彼女たちのファンであれば、それ相応の満足感が得られる作品かもしれません。
(上映時間124分)
私の採点★★★★★☆☆☆☆☆〜5点
日本公開時[PG−12]
監督 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
製作 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
ロバート・サレルノ
脚本 ギジェルモ・アリアガ
撮影 ロドリゴ・プリエト
フォルトゥナート・プロコッピオ
美術 ブリジット・ブロシュ
編集 スティーブン・ミリオン
音楽 グスターボ・サンタオラヤ
出演 ショーン・ペン
ナオミ・ワッツ
ベニチオ・デル・トロ
シャルロット・ゲンズブール
メリッサ・レオ
クレア・デュバル
ダニー・ヒューストン
2003年度アカデミー主演女優賞(ナオミ・ワッツ) ノミネート
2003年度アカデミー助演男優賞(ベニチオ・デル・トロ) ノミネート
2003年度ナショナル・ボード・オブ・レビュー賞主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
2003年度ロサンゼルス映画批評家協会賞主演女優賞(ナオミ・ワッツ) 受賞
2003年度ワシントンD.C.映画批評家協会賞主演女優賞(ナオミ・ワッツ) 受賞
2003年度ワシントンD.C.映画批評家協会賞助演男優賞(ベニチオ・デル・トロ) 受賞
2003年度サンディエゴ映画批評家協会賞主演女優賞(ナオミ・ワッツ) 受賞
2003年度フロリダ映画批評家協会賞主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
2003年度フロリダ映画批評家協会賞主演女優賞(ナオミ・ワッツ) 受賞
2003年度サウス・イースタン映画批評家協会賞主演女優賞(ナオミ・ワッツ) 受賞
2003年度アイオワ映画批評家協会賞助演男優賞(ベニチオ・デル・トロ) 受賞
2003年度フェニックス映画批評家協会賞主演女優賞(ナオミ・ワッツ) 受賞
2003年度ラスベガス映画批評家協会賞主演男優賞(ショーン・ペン) 受賞
2003年度インディペンデント・スピリット賞特別賞 受賞