16ブロック(2006年アメリカ)

16 Blocks

しっかし、リチャード・ドナーも若いですね。
75歳になって、こんな元気な映画を撮れるなんて、驚きとしか言いようがありません。

同じハリウッドで言えば、クリント・イーストウッドなんかもそうですが、
70歳代に入って尚、本作みたいな元気でアクティヴな映画を撮れるなんて凄いこととしか思えません。

映画の主旨は簡単で、
悪徳刑事を告発する上で必要不可欠な証言をする予定の黒人青年を
裁判所に移送するよう指示されたダメ警官の烙印を押された酒浸りの中年刑事ジャック。
夜勤明けの簡単な仕事と言われていたジャックでしたが、移送途中で何者かに襲撃され、
逃げ込んだバーで救助を待っていたら、かつての同僚フランクらが到着。

しかし、彼らの目的はジャックらの救助ではなく、証人を消すことにあったというお話しで、
フランクの悪事に耐えかねたジャックは青年を連れて、ニューヨーク市街地を逃げ回ります。
映画はそんな2人の逃走劇と、何とかして証言を阻止しようとする悪徳刑事たちの妨害工作、
そしてジャックらを襲撃する姿を描いたノンストップで進んでいく刑事アクションです。

確かに映画の見せ方などはオーソドックスだし、
何一つ驚かされるようなアクション・シーンや特殊映像効果があるわけでも、
アッと驚くドンデン返しがクライマックスに用意されているわけでもありません。

でも、この映画を観て、僕が率直に思ったのは、
あくまで基本に忠実に、セオリー通りに映画を撮るだけでも、これだけ充実した出来になるということ。
つまりは、リチャード・ドナーの安定した娯楽映画の作り手としての能力の高さを痛感するということです。
やっぱり、こういう基本的な部分はしっかり押さえてあるからこそ、映画は面白くなるんですよね。

とにかく市街地を逃げて、逃げて、逃げる。
時には役者を走らせ、息を切らせる。これも言ってしまえば、アクション映画の基本ですね。

限定されたエリアでのアクション映画であるがゆえに、
常に移動している感覚を観客に植え付けさせ、空間的な広がりを演出するあたりもお見事ですね。
一見すると、クライマックスの展開とされても違和感ない、バスに立てこもるシーンにしても、
更にジャックらの逃走劇に続きがあり、とにかくリチャード・ドナーは強気に引っ張り続けます。

この一連の流れが、とっても若いですね。
リチャード・ドナーがまだこれだけの映画を撮れるということ自体が、とっても嬉しいですね。
僕は彼の代表シリーズである『リーサル・ウェポン』の大ファンですから。

それと、今回のブルース・ウィリスはとにかく凄いですよね(笑)。
彼が最初にフレームインした瞬間からなのですが、出た腹、ボサボサな髪、無精ヒゲ、
そして精彩が感じられない目つきに、疲れた表情、酒臭そうな佇まい(笑)。
そんな彼を見たファースト・インプレッションから出てくる感想が、とにかく汚いということ(笑)。
仮にもハリウッドを代表するアクション・スターがこんな姿でスクリーンに登場するとは、少しショックですね(笑)。

あと、ジャックのかつての相棒フランクを演じたデビッド・モースも良いですね。
序盤のバーのシーンで、ジャックを上手いこと利用しようとする姿を見せますが、これも上手かったですねぇ。

映画の上映時間はどちらかと言えばタイトなんですが、
それでいて、容赦なしで映画が進むせいか、ヴォリューム感たっぷりなのも嬉しいですね。
この辺はリチャード・ドナーの経験値の高さが大きいと思いますね。

それと、裁判の重要参考人エディを演じたモス・デフも良いですねぇ。
とにかく喋りまくって、たまに余計なことをやっちゃうものだから、観客も苛立ちを覚えることがあるのですが、
彼が徹底した好青年であったら、ここまでのバディ・ムービーとしての盛り上がりはできなっただろう。
そういう意味では『リーサル・ウェポン』シリーズでの経験が活きていると思いますね。

まぁエンターテイメントの定石とも言える、ヒロインの存在がいないのは残念ですが、
あまり余計なエピソードに手を出して、映画の焦点が散漫になることを避けたのでしょうね。
まぁ強いて言えば主人公の妹としてジェナ・スターンが出演していますが、あまり大きな扱いではありません。

当然、本作は日本でも劇場公開されておりますが、
僕の記憶ではアッサリと劇場公開が終わってしまったかのようで、とても残念ですね。
内容的にも十分に楽しめる内容かと思うのですが、おりしも06年頃からハリウッド映画に於いても、
日本での収益性の悪さが目立ってきた頃ですので、本作みたいな規模の作品がかなり不遇な扱いを
受けるようになってしまい、アッサリと劇場公開が終わってしまうケースが多くなってしまいましたね。

今では映画館の数も減り、ハリウッド映画の多くは収益性が顕著に悪いですから、
10年前なら拡大公開されていた規模の作品でも、小規模にしか公開されなかったり、
短期間で上映が終了してしまったり、下手したら劇場未公開扱いされたり・・・と、とにかく状況が悪化しています。

なんか勿体ないんですよね。
言ってしまえば、娯楽映画の職人芸みたいな映画が、アッサリと忘れられてしまうなんて・・・。

本作なんかはリチャード・ドナーならではの出来って感じで、
若手映像作家が見習うべき箇所が多くある、まるでお手本のような一本と言っていいと思うんですがねぇ。

(上映時間101分)

私の採点★★★★★★★★★☆〜9点

監督 リチャード・ドナー
製作 アヴィ・ラーナー
    ランドール・エメット
    ジム・ヴァン・ウィック
    ジョン・トンプソン
    アーノルド・リフキン
    ブルース・ウィリス
脚本 リチャード・ウェンク
撮影 グレン・マクファーソン
編集 スティーブ・ミルコビッチ
音楽 クラウス・バデルト
出演 ブルース・ウィリス
    モス・デフ
    デビッド・モース
    ジェナ・スターン
    ケーシー・サンダー
    シルク・コザート